※櫂×井崎です
※やはり捏造1000%です
※苦手な方は退却!!





「じゃあまた明日!」

「おう!また明日な!」

「じゃあな井崎!よぉ〜しアイチ、今日こそはこの俺様の強さをお前に分からせてやるからなっ!」

「うん!カードキャピタルに行ったらファイトしようね!」


一日の授業が終わり、正門からそれぞれの帰路へと学生が足を運ぶ中、井崎はいつもの面子であるアイチ、そして森川と別れた。

いつもならアイチや森川と一緒に学校帰りにカードキャピタルというショップへと足を運ぶのだが、今日は井崎だけ用事があり、アイチ達の誘いを断って正門前で足を止めていた。


―『んじゃ、明日のこの時間、オレが迎えに行くまで正門前で待ってろよ!』


アイチ達との別れを済ませ、彼らの姿が見えなくなるまでその後ろ姿を見ていた井崎の脳裏に、ご丁寧にウインクまでつけて茶目っ気たっぷりに言い放った三和の言葉が蘇る。

そう、井崎はこの日、三和との約束があったのだ。

誘ってきたのは三和だったが、肝心の用事の内容までは教えてくれなかったので、井崎は彼が迎えに来るまで何の用事があるのかいくつか候補を考えていたのだが、どれも納得のいく内容にはならず、それ以上考えるのを止めて大人しく三和を待つことにしたのだ。

三和の通う後江高校はここよりも少し離れた場所にあるため、授業が終わってすぐにこちらに向かってもまだ少し時間は掛るだろう。

なら、それまで待っていればいいと、未だ途切れぬ人混みを横目で見ながら井崎が考えていると、不意にその先を深い蒼が覆った。

身近にこの色を持っている人間はアイチくらいしか思い浮かばない為、一体どうしたのだろうと視線を上に上げる中、ふとした違和感と同時にその正体が井崎の視界いっぱいに広がった。


「か…櫂っ!?」


櫂トシキ。三和と同じ後江高校に通う、口数が少なくクールな三和の友人が、井崎の前に立っていた。

よく考えれば、アイチは小柄な体系の為、そもそも見上げるまでの身長は無いということに今さらながらに気付く。

視界を埋めた蒼は、見れば櫂の身に着けている後江高校の学生服の色だった。

だが、そこまで考えて井崎はもうそれ以上今のこの状況から気を逸らすという選択肢を全て無くしてしまったことに気が付く。

この状況を打破するためには、井崎が目の前にいる櫂との対話を成立させなければならないのだ。

即座に思い浮かぶセリフといえば、これしかないだろう。


「あー、アイチならもうカードキャピタルに行ったぜ」

「そうか」

「おう」

「………」

「………」


先導アイチ。きっと、櫂が普段足を運ばないこの中学校まで足を運んだのはアイチに用があるからだ。

残念なことに、井崎と櫂の交流関係は深いものではない。それもそのはず、櫂は必要以上に会話をしないし、なにより井崎もそんな櫂との会話は端からお断りしたい。でなければ、自身の胃がもたない。

だからこそ、井崎は櫂の目当ての人物の不在と行き先を伝えるだけでも冷や汗をかいていたりする。

そんななけなしの勇気を振り絞って櫂へと言えば、けれど櫂はそっけなく返すだけに終わった。

そして二人で見つめ合って数秒。


―「(そうか。じゃねー!!三和、早く来てくれ助けてくれ!!)」


井崎は心の中で滝のように涙を流しながらまだ姿を現さない三和へと助けを求めた。

櫂の返答から察するに、どうやら櫂の目的はアイチに会うことではなさそうだ。

だが、ならなぜ櫂はわざわざ後江中学校にまで足を運んだのであろう?

アイチや森川、井崎以外にこの学校で櫂と親しい人物などいないはず。

なら、一体何故?


「アイチじゃない。今日はお前に用があって来たんだ。ついて来い」

「へ…?オレ?……って、ちょっとおい!待てよ…っ!!」


う〜ん、と眉を潜ませ眉間に皺を寄せて考えこむ井崎に櫂は小さく溜息を零したかと思うと、次の瞬間には井崎の手を引き歩き出した。

櫂のその言葉と手を引く強さに井崎は二の句を紡げないまま、結局二人は正門から遠ざかっていくのだった。










「デッキを出せ。井崎」

「………はぁ?」


櫂にほぼ強制的に連れてこられたのは、静かな雰囲気が独特な、街の図書館だった。

時期や時間的なものもあり図書館の利用者が少ない為か、本のページを捲る音が大きく響き渡っているような気がする。

そんな図書館の一番人気の無い場所、本棚がずらりとならぶ先に少人数だが座れるスペースに、櫂と井崎は腰を下ろした。

そうして腰を下ろして間髪入れずに櫂が放った言葉に、井崎はつい相手が櫂ということも忘れて素の状態で櫂の言葉へ返した。


「聞こえなかったのか?デッキを出せ。と言ったんだ」

「はいはいはい!今出します!すぐ出します!」


だが、櫂の睨みといくらか低くなった声音にすぐさま謝罪の言葉を述べながら、通学用の鞄にいつも忍ばせてあるデッキを取り出した。


「…で、櫂はオレをこんなところにまで連れて来て、デッキまで出させて何をしたいんだ?」

「決まってるだろう。お前のデッキはまだ不完全だ。かげろうを使っておきながらその弱さは見るに堪えない。よって、俺がお前のデッキ調整に付き合ってやると言ってるんだ」

「はぁ……。はぁ?!」

「うるさい。場所を考えろ」

「で、でも…」

「時間が惜しい。始めるぞ、デッキを広げろ」


二人の中央にぽつんと置かれたデッキを見つめながら、井崎はとうとう腹をくくって櫂へと問い掛けた。

こんな普段行かないような場所にまでわざわざ連れ出したのだ、さぞかし重要な用事なのだろうと思い固唾を飲み込んで櫂の返答を待っていたが、そんな櫂から帰ってきたのは意外な返答だった。

井崎のデッキの調整を、櫂が手伝う。

櫂が言った言葉を自身の口の中で反芻して意味を理解した時、井崎は無意識に張っていた肩の力ががくっと抜けるのを感じた。

デッキの調整。それは、カードファイターとして頂点を目指したり、今の状態よりもっと強くなってよりゲームを楽しみたい者達からしたら日々怠ることなどありえないと言ってもいいほどに重要な作業の一つだ。

もちろん井崎もその例に漏れないわけだが、井崎は純粋に一つのクランを使わない、《たちかぜ》をメインに《かげろう》を混ぜ合わせた混合デッキを使用しているため、滅多にデッキを調整することはしない。

だから、今こうして櫂に言われなければ次の調整は一体いつになっていたことだろう。

だが、それだけでは櫂が井崎のデッキの調整に口を出す必要は無い。もういいだろうと櫂に問い掛ければ、櫂は心底呆れたとでも言いたそうに溜息を吐き、そう言った。

櫂の使用するクランは井崎も少し使っている《かげろう》を使っている。

そういえば以前カードキャピタルのショップ大会でアイチと対戦している時、『混合デッキを使うのならきちんとカードのスキルを考えろ』なんてことを言われたな。

きっと、そういったことを受けて、今日井崎のデッキ調整に口を出そうとしたのだろう。

櫂はヴァンガードが好きだ。その気持ちは純粋なもので、井崎はそれを少しだが感じていた。

だから、普段あまり会話をしない櫂が今日こうして井崎の為に時間を作ったのもきっと、彼のヴァンガードに対する熱い気持ちがあってのことなんだろう。


「分かったよ。よろしくお願いします」

「ああ」


けど、それを言葉にしても返ってくるのは素っ気ない返事だけだと思うから、井崎は一つ小さく笑うだけにして、櫂の言う通りにデッキを広げて彼のアドバイスを素直に受けるのだった。










「ごめん三和!」

「いいって。気にするなよ。その日は櫂に井崎を借りるって予め言われてたからさ!」

「は?じゃああの日用事があったのって本当は…」

「そ、櫂の方だったってわけ」

「はぁぁぁぁっ!?」


翌日、いつものようにカードキャピタルに顔を見せた三和に、井崎は顔の前で手を合わせ、勢いよく謝った。

だが、三和は特に気に留めていなかったようで、彼らしい明るい笑みを浮かべながら言い返した。

そして、そんな彼から告げられた内容に井崎はここがショップ内ということも忘れて大きな声を張り上げてしまった。

そんな井崎をじろりと睨み付けてくる店員の戸倉ミサキの視線を背中いっぱいに受けながら、井崎は抑えた声量で三和へと詰め寄った。


「なんでだよ!つか、それを早く言ってくれよ!」

「はは、わりぃ。でもさ、櫂はあんな性格だって分かってるだろ?な?」

「そりゃあそうだけどさ」

「櫂は、不器用なやつだからさ。でも、底にある気持ち、分からなくないよな」

「………」


まったく、三和も櫂も難儀な関係をしている。思わず、溜息が出る。

口下手な櫂、器用すぎる三和。二人は不思議な関係だ。

櫂が付き合ってくれたことに加えて、三和にこう言われてしまえば井崎は反論出来なくなってしまう。


「分かったよ。じゃあ、この話は三人だけの秘密、だな」

「そういうこと!ってわけでこの話は終わり!ほら、アイチ達が呼んでるぜ」

「ああ!ありがとうな、三和。櫂にも、そう伝えておいてくれ!」

「おう!」


肩を竦めて一つ笑みを零す。

三和へ分かったと返せば、まさにその通りだとでも言いたそうににっこり笑った三和が井崎を呼ぶアイチ達へと視線を移す。

ファイトテーブルで井崎を呼ぶアイチ達の元へ声を掛けてから、井崎は三和に手を振って彼らの元へと駆け寄って行った。


「好きなら好きって言えよ。あんな回りくどいデートみたいなことして外堀埋めねーでさ」


アイチ達とファイトを始めた井崎を横目に捉えながら、三和は今この場に居ない人物に向かってぽつりと零す。

それは、口下手すぎる故に気になる相手に満足に好きだと言えない不器用な親友に向けて放った言葉だ。

気遣いすぎる後輩に、気遣わせすぎる親友。

後輩に負担が掛りすぎる気がするが、それはそれで面白い。

人の恋路を傍観する三和は、彼らが一悶着以上の出来事を起こすことを楽しみにしながら、早くくっ付くことを願ったのだった。



(そこで起こる化学反応)


さぁ、二人の始まりはいつになるだろうか。