Side:三和

「な、櫂。今日は少しオレに付き合ってみねぇ?」


そう言って俺の肩に腕を回し有無は言わせないとでも言いたげな視線を寄越す三和に連れてこられたのは、学校帰りの学生で賑わう駅前のファストフード店だった。

三和の後ろに歩くようにして入口の自動扉をくぐれば、カウンターで客の注文取りを行う女性アルバイトの元気で溌剌とした挨拶が櫂達を出迎えた。

それを受けながら、運良く誰も並んでいなかったレジへと真っ直ぐに足を進めた三和がさっさと目当ての物を注文する。


「んじゃ、このセットのLサイズを一つ。ドリンクはアイスコーヒーで」

「かしこまりました。ご注文の品は以上でよろしいですか?」

「あ!あとこのフル―リーも一つ追加で」

「はい!ありがとうございます。出来上がりましたらお呼びいたしますので少々お待ちくださいませ」


そうして注文を終えた三和が俺の横で品物が出てくるのを待つのと同時に、ポテトをフライヤーの中へ沈める激しい音がフロアに響く。

バンズに挟むミートパティの焼ける音に、カウンターのアルバイトが注文されたドリンクとフル―リーを指定の容器へと入れる音。

誰も並んでいなかったのが幸いしたのだろう。注文したそれらの商品は温かさを失うことなくトレーの上に乗せられ、受け取った三和は櫂を連れ二階の飲食ルームへと移動した。


「ほら、食えよ」

「………なんのつもりだ」


学生達で賑わう二階席、隅に空いた二人用の席に向かい合うように腰掛けた二人の中央に、先ほど受け取ったトレーを置いた三和が、その言葉と同時に櫂へとトレーを傾けた。

そんな彼の突飛な行動と、ずいっと差し出された商品に多少驚きはしたものの、意図が読めないという視線を三和へと投げ掛ける。

けれど三和は、端から見れば睨み付けているようにも窺える櫂の剣呑な視線を受けながらも、飄々とした様子でこう告げた。


「誕生日おめでとう。櫂」

「……お前もか」

「他の皆からも貰っただろうけど、オレもお前にプレゼントしたくてさ。ま、カードは誰かがやるだろうから選択肢から外しといて正解だったぜ」

「それで考えたのがこれか」

「あ、なんだよその不満そうな顔!お前だって高校男児のお財布事情が結構切ないの分かるだろ!これでも精一杯なんだぞ!」


そう言って頬を膨らませた三和が、櫂をじとりと睨む。

そんな三和に最初こそ何かを言おうとしていた櫂だったが、三和が面白いのであえてその言葉に反論はしないでおいた。

おめでとうと、今日に入って一体何人の人間に言われただろう。


「……ありがとう」


気が付けば、櫂はそう零していた。

良く耳を澄ましていなければ、周りの喧騒に消えてしまいそうなほどに小さな、囁きにも似た声量で。

けれど、それをしっかりとその耳で聞いた三和が、二カッと無邪気に一つ微笑んだ。

その笑みに、先ほどまでに櫂にプレゼントをあげた人物たちの笑顔が重なる。

きっと、三和も彼等と同じ気持ちで、櫂の誕生日を祝っているのだろう。

それがとても嬉しくて、でも素直に言葉や態度に出せなくて。

櫂はトレーに載せられたバーガーの包装紙を解き、バンズに歯を立てる。

もそもそと食べ始めた櫂を見て、三和は自身の為にと注文したフル―リーをスプーンで掬い、口元へと運ぶ。


「来年はもっといいもん用意しとくからな!」

「…楽しみにしている」


互いに口に物を詰めた状態で、普通の男子高校生らしく、櫂と三和は笑い合った。


(Side.アイチ)