Side:ミサキ

「はい、アンタにあげる」


そうして差し出されたのは、ヴァンガードのブースターパックだった。

それを差し出したのは、櫂がいつも利用しているカードショップ『カードキャピタル』のアルバイトである少女、戸倉ミサキであった。

櫂がいつものようにショップ内に設置されたテーブルでデッキの再構築を行っているその時に、彼女は櫂の視線の中央へとパックを差し出してきた。


「アンタ、今日誕生日なんだって?」

「誰に聞いた」

「あんだけデカイ声で店前で騒がれてたら嫌でも分かるよ」

「葛木のやつ…」


彼女には教えていないはずの誕生日を、なぜ知っているのかと素直に問い掛ければ、彼女はついっと視線を外しながら数分前に櫂がカムイと店先で騒いでいたことを話した。

その言葉を聞いて、櫂はその視線をファイトテーブルでアイチ達中学生組とファイトに興じるカムイへと向ける。

もちろん櫂の視線になど微塵も気付いていないカムイは、今まさに対戦相手の森川相手にフィニッシュを決めようとしていた。


「それに、そんなに可愛らしいお菓子の包みが鞄からはみ出てるの見てたら分かる」

「……っ!」

「エミちゃんから貰ったんでしょ?ギャップがあっていいと思うけど」

「戸倉…」


そんな櫂を知ってか知らずか、ミサキは続けて櫂の通学鞄を指さし、そこから微かに姿を覗かせているピンク色のリボンが巻かれた菓子の包みへと視線を移した。

彼女の言葉通り、その包みは今朝アイチの妹である先導エミから貰った物だ。

けれど、それがまさか彼女に見つかってしまうとは思っていなかった櫂は、恥ずかしさを隠すようにミサキを睨み付けるが、彼女はそれが照れ隠しだと分かっていたからか、怯むことなくむしろ面白いものをいたとでもいいたげにゆっくりと微笑んでみせた。


「だから、今日誕生日のアンタに私からプレゼント」

「お前がか?」

「不満?私にだって仲間の誕生日を素直に祝える心くらいあるよ。今日くらい人の好意は素直に受け取ってみたら?」


ミサキからの誕生日プレゼントだと渡されたブースターパックは、今まで出ているものが二、三パックずつ重ねられていた。

普段は櫂自身と同じくらいクールな彼女からのプレゼントが以外で、櫂は窺うようにミサキを見遣る。

けれど、そんな櫂の視線が気に入らなかったのか、彼女は少しむっとしたように櫂にそう返すと、さっさと受け取れと言いたそうにパックを櫂へと押し付ける。


「いいカードが入ってるといいね」

「……ありがとう、戸倉」

「……どういたしまして」


それを渋々という形で受け取った櫂を見て、ミサキは先ほどまでの表情を和らげてそう告げる。

そんな彼女に小さくそう返せば、彼女はけれどそれ以上何も言わずにレジカウンターへと戻っていった。



(Side.三和)