Side:カムイ

「やい、櫂!今日はお前に言いたいことがある!止まれぇ!」

「なんだ、急に」


一日の授業を終え、今日はデッキの再構築をしようと考えていた櫂は、ほぼ常連と化しているカードショップ『カードキャピタル』へ向かおうと足を運んでいた。

そうして店の入口が目の前に見えてきたと思った矢先、そんな櫂の目の前に小さな影が三つ、櫂の行く手を塞ぐようにして立ち塞がった。

櫂の前に仁王立ちで構えているのは、櫂の目的地であるカードショップを利用する小学生の葛木カムイと、その友人であるレイジとエイジだった。

三人は今まさにショップへと足を踏み入れようとしていた櫂の目の前に立ちはだかり、カムイにいたっては櫂に対してすでに喧嘩腰のようであった。

だが、カムイの櫂に対する反応は日頃からのものなので、櫂にとっては特に気に留めるものではないのだが。


「お前、今日が誕生日なんだろ!アイチお兄さんから聞いた!」

「だからどうした。いいからさっさとそこを退け」

「いいやどかねぇ!つうか人の話は最後まで聞け!」

「そうですよ!カムイさんの話を最後まで聞いて下さい!」

「S(最後まで)K(聞け)っス!」


そうして四人で睨み合っていると、カムイは急に声を張り上げそう言った。

その言葉に今朝のエミとの出来事が蘇る。

隠していたつもりはないが、なぜこうも櫂と関わりのある人間が揃いも揃って櫂の誕生日を知っているのだろう。

エミは三和から、カムイはアイチから。一体、情報の発信源は誰なのだろうか?

けれどだからといって特別なにをするというわけでもないので、櫂はカムイ達にさっさと退けと命令する。

同時に発せられた鋭い眼光に若干怯みつつも、けれどもカムイ達はまだ話があるようで、断固としてその場所から動くことを拒否した。

そして、一方的に会話を打ち切ろうとした櫂に話を聞けと命令までしてきた。

そんなカムイに倣うように、珍しくレイジやエイジも強気な口調で櫂へと言う。

それがどうしてか気になって、櫂は内心呆れつつもカムイ達の話に耳を傾けることにした。


「オレはお前のこと、いけすかねぇヤツだと思ってる!その妙にクールぶってるところとか、ファイトが強いところとか、『THE』とか言ってカッコつけるところとか!とにかくオレはお前のそんなところが気に入らねぇ!」


すると、意を決したようにカムイが口を開く。

けれど、その口から溢れてきたのは櫂への不満ばかりだった。途中、褒めているところもあったが。

あまりにもいつも通りなカムイに櫂は口を挟もうとしたが、一息で言いたいことを言い終えたのであろうカムイが、なにやら背中に背負ったランドセルからなにかを取り出した。


「けど!今じゃお前もオレの大切なチームメイトだ!そいつが誕生日だって知ってなにもやらないのは男が廃る!だから、受け取れ!」


そうしてカムイが少し離れた距離からその手に持ったものを櫂へと投げ渡した。

急なことだったが飛んできたそれをなんとか掴み、無事に手に収まったそれを凝視すれば、それはカードを保護する為に使うスリーブだった。

《ノヴァグラップラー》をメインデッキとして使用するカムイが持っているのが珍しい、投げられたそれは櫂がメインデッキとして使用する《かげろう》のユニットである<ドラゴニック・オーバーロード>のスリーブだった。


「法被とバズーカデーだ!」

「カムイさん!それを言うなら“ハッピーバースデー”ですよ!」

「H(ハッピー)B(バースデー)っス!」

「うるせぇ!」


暫くそのスリーブを見つめていると、カムイがなにやら聞きなれない言葉を櫂へと投げ掛ける。

その言葉にすかさずレイジによる訂正が入り、エイジによる言葉の反芻が入ると、ようやくカムイの言いたいことが理解出来た。


「か、勘違いするなよ!これは今日お前が誕生日だから仕方なくプレゼントしてやっただけだからな!お前のこと、み、認めたわけじゃねぇ!いつか必ずお前を負かせてやる!」


そうして矢継ぎ早に捲し立てたと思いきや、次の瞬間にはカムイ達はショップの入り口である自動ドアをくぐり、先に中へと入って行ってしまった。

嵐が去った後のような静けさの中、手の中のスリーブを見つめる。

櫂達にとってはそれほど値の張るものではないスリーブも、カムイ達小学生からしてみれば結構な値の張る買い物だ。

それを、あのカムイが櫂の為にと買った。


「フッ…」


カムイのそんな不器用で素直ではない態度に小さく微笑んでから、櫂はそのスリーブを通学鞄の中へと仕舞い、カムイ達に続くようにしてショップの入り口へと足を進めた。


「ありがとう」


誰に聞かれるでもなく、口からそう零しながら。


(Side.ミサキ)