※レン×ショタ三和です
※ショタ三和君にやりたい放題なレンさん
※レンさんが変態くさい
※イメージ崩壊注意










朝、FF本部のビル内に用意された自室にて鳴海アサカが淹れた紅茶に茶柱が立った。

たったそれだけのことだったのに、何故だかそれが良い事が起こる前触れだと勝手に解釈したレンは、学校での授業を終えた午後、そこから少し離れた場所にあるカードショップ、“カードキャピタル”へと足を運んだ。

世界で今もっとも注目を集めているカードゲーム、『ヴァンガード』。レンもその例に漏れず、のめり込んでいるものだった。

そのカードを扱うショップは今はどこにでも存在しており、どの店にも優良なカードファイターが日々ファイトに明け暮れている。

しかし、そこはレンの行きつけのカードショップというわけでは無かったが、その場所に通い詰めている人物に数人、自身の知り合いがいたからこうして時間の空いた時には足を運ぶようにしていたのだ。

だが、その店に通うレンの知人達も腕と名のあるファイターだから、その点では退屈せずにファイトが出来る良い店でもある。


「こんにちは」

「…レンさんっ!」

「レンっ!……なんて間の悪い…」


きっと、今日の朝の縁起の良い出来事はこのショップでファイトをすることに関連付いていると思っていたレンは、嬉々とした感情を隠しもせず、いつもののんびりと、それでいて少し弾ませた声音で挨拶をするのと同時に店の自動ドアを通る。

だが、そんなレンを出迎えたのは焦りの滲んだ二人の人物の声だった。

最初に声を発し、レンの名を呼んだのは先導アイチ。鮮やかな蒼い瞳を大きく見開かせてレンの来訪を出迎えた。

そして次に声を発したのがレンの中学校時代からの友人の櫂トシキ。いつもは感情を表に出さない彼だったのだが、今日は先ほどのアイチと同じように翡翠色の瞳を見開き、さらには忌々しげに悪態を吐く始末。

ただ訪ねて来ただけなのにここまで邪険にされるとは微塵も思ってなかったレンは、未だ焦りと苛立ちを隠そうともせずにいる二人の元へと歩み寄る。


「二人ともひどいです。まるでボクが来たらいけないみたいな顔をして…ん?」

「なにすんだよ櫂!苦しいって!」

「おい、暴れるな三和。落とす……っ!!」

「うわっ?! …い、ってぇ〜。いきなり何するんだよ櫂の乱暴者!……んぁ?」

「誰ですか、キミは」


はぁ、とわざとらしく大きな溜息を零しながら近づいて行くと、どうやら二人の後ろにはもう一人誰かがいたらしい。

少し高い、まだ幼さを残すその声音にどこか聞き覚えがあって、彼等の顔を覗きこむようにすれば、櫂がそんなレンから逃げようと身体を逸らす。

だが、その腕に抱いていたのであろう人物が暴れたことによって、櫂はレンから遠ざけておきたかった人物を床へと落としてしまった。

落とされた時に打ち付けた場所を擦りながら、櫂へと不満の声を上げるその人物をようやく見ることの出来たレンは、しかしその人物を視界に収めた瞬間に思考が止まりかけた。

ふわふわと跳ねる金の髪に、暖かな光を灯す蒼灰の瞳は、レンも良く知る人物のパーツであった。

だが、その人物は自身と同じ背丈で、年齢だったはずだ。

少なくとも、今レンの前でレンに名前を問われている小学生くらいの大きさではなかった。

思わず口から零れたのは、名を問う言葉だったが、それさえも実は意味の成さないものであった。

目の前に居る少年は間違いなくレンの記憶に残る人物であるはずだ。それでも問い掛けたのは、人違いであってほしいというレンの願いがあったからだ。


「誰って…。オレは三和。三和タイシ!そういうお前こそ誰だよ。『名乗るからにはまず自分から』って言う言葉があるの知ってるだろー?」

「……。ボクの名前は雀ヶ森レンです。レンと、呼んで下さい」

「おう、よろしくなレン!オレのこともタイシ。って呼んでいいぜ!」


そんなレンの小さな願いは、けれど容易く打ち消された。

屈託なく笑う彼が告げた自身の名は、紛れも無く『三和タイシ』の名そのものであった。

だが、どうやらこちらのことは覚えていないようで、怪訝そうに名を尋ね返されたレンは、少し言葉を詰まらせながらそう応える。

けれどそんなレンの心情など知る由も無い三和は、カラリと笑ってこちらへ笑みを向けてくる。


「……どういうことです。櫂、アイチ君」

「俺が知るか。そもそも、お前が来なければもっと穏便に事が運んでいたというのに…っ!!」

「櫂君、それは言い過ぎじゃないかな…?でも、櫂君の言う通り、僕達にもさっぱり訳が分からないんです」

「学校では普通だったんですか?」

「……三和は今日、学校を欠席した。俺は気が向いたからここに来ただけだ」

「実は、僕や櫂君よりも先に三和君が来ていたんですけど、その時にはもうこの状態になっていたらしくて…」


小さくなってしまった三和は、今ではカムイ達と共にファイトテーブルでヴァンガードに興じている。

いつもは眺めることが主だった彼のその姿は、サイズも相まって非常に新鮮なものであった。

それを横目で見遣ってから、レンは視線を三和達から離れた場所にあるテーブルの向かい側に腰かけた櫂とアイチへと向ける。

レンの聞きたいことは一つだけ。単刀直入にそう告げれば、櫂は未だ苛立った様子でこちらを睨み付けながら応える。

そんな櫂の態度に意見しながらも、アイチが告げる内容は櫂とそうほとんど変わらなかった。

学校を欠席した三和が、いつこの状態になってしまったのか、また、何故幼くなり記憶まで退行してしまったのかを知り得る人物はいない。

今の三和が分かる事象は、同じクラスにいた櫂のことと、ヴァンガードのことくらいということ。

しかし、高校生の櫂のことは『櫂の親戚の兄ちゃん』という認識らしい。事態を深刻に構える櫂やアイチには悪いが、これには少々笑わせてもらった。


「しかし、今のところ実害は無いんでしょう?なら戻るまで大人しく様子を見ておけばいいじゃないですか」

「いつ戻るかも分からない、そんな確証の無い状態があと何日も続いていいと?レン、お前はそう言っているのか」

「だってボク達じゃどうにもなりませんもん。仕方ないじゃないですか、ねぇアイチ君」

「そ、そうですね……。それに、今の三和君、とっても楽しそうだし…」

「アイチ…、お前は一体どっちの味方なんだ!」

「ええっ!? そんなこと言われても…。それに、味方とかってある…の…?」


つい、と視線を三和へと移したアイチに倣うように、レンも再び三和へと視線を移す。

そこにはカムイ達と楽しそうに笑いあいながらファイトをする三和の姿があり、レンは何故だかそれが無性に羨ましかった。

口にこそ出したことは無いが、レンと三和は所謂『恋人関係』にある。

主にレンが三和へとへばり付き、構え構えと甘え倒す関係であったが、それを三和は否定したことは無い。

だが、今のように気軽にヴァンガードをする姿は今まで見ることが無かった。

ライトユーザーであると、以前聞いたことがある。その時の気分で、勝敗がかなり左右されるとも。


―『だから、オレじゃお前の満足出来るようなファイトは出来ねぇんだ』


AL4のリーダーであるレンの腕は、それこそ三和よりも優れているものだ。それが例え全国大会の様な真剣なものではない、退屈な時間を潰すくらいの軽いものをしたとしても、勝敗は目に見えていたし、暇を潰すほど粘れるわけでもない。それを知っていたからこそ、三和にはいつもファイトの申し出を断られていた

だが、今はどうだ?カムイ達と仲良くファイトに興じる三和は、とても楽しそうではないか。

自分と居る時は、あんなにもファイトを拒み、苦笑ばかり浮かべていたのに…。


「……っ」


ぎりりと噛み締めた奥歯が軋む。気が付けば、見るだけだった視線はいつしか睨み付けるようなものになっていた。

羨ましい。その想いがレンの中に生まれるのと同時に、邪な気持ちも芽生える。

きっと、今の三和なら自身の願いも叶えてくれる。

それなら、誰にも邪魔されない場所でゆっくりとヴァンガードファイトに興じようという想いが。


「タイシ」

「ん?なんだよレン」

「次はボクとファイトしてくれませんか?」

「いいよ。あ、でもオレ自分のデッキ持ってねーんだ…。これもこの店から借りたデッキだし…」

「ボクの家に来てくれれば、キミの好きなクランのカードでデッキを組むことが出来ますよ?」

「えっ、マジ?! じゃあ行ってもいいか…?」

「ええ。そうと決まればすぐにでも行きましょうか」

「おう!早く行こうぜ!店員のねーちゃん、これありがとーな!」

「どうも」


今もなお少し離れた場所で言い合いを続ける櫂とアイチを尻目に、レンはカムイとファイトが終わりデッキを片付けていた三和へと話し掛ける。

カムイ達はすでに他の人間とファイトを始めていたから、レンのその誘いを遮る者は誰一人としていなかった。

案の定、遮られなかったその誘いを受けた三和がぱぁっと顔を輝かせるのを見たレンは、早く行こうと三和を急かす。

その言葉に従うようにいそいそと店から借りていたデッキをカウンターで本を読んでいた店員のミサキに返した三和は、レンの手を取って外へと歩き出す。

それを見たミサキは何かを言い掛けたが、レンに連れられた三和の笑顔が眩しすぎて言葉を紡ぐことを躊躇ってしまった。

それが、間違えた選択だと気付かずに。




















「あー!また負けたー!レンお前強すぎだって!!」

「例え子供相手でも手は抜きません。だって、それがヴァンガードファイトなんですから」

「櫂みたいなこと言うんだな…。あーあ、悔しいなぁ…」


あれからレンの自室へと招かれた三和は、レンがコレクションしていたカードの中から気に入ったクランのカードを選び、即席で作り上げたデッキでレンとのファイトに興じていた。

だが、結果は歴然。ヴァンガードにおいては全国一位の実力を持つレンの圧勝だった。

しかし、幼い三和が即席で作り上げたデッキであったがレンに対して善戦した方だと思う。

ライトユーザーであるのが惜しいセンスを、目の前の三和が持っていることにレンは驚いていた。

だが、当の本人は負けたことがやはり悔しいのか、むすっと口を尖らせて拗ねるような仕草で展開されていたカードを纏めはじめた。

いくら縮んでしまったとはいえ、三和はレンの恋人である。恋人のそんな新しく可愛らしい一面を見れたことがレンは嬉しくてたまらなかった。


「そんなに拗ねないで下さい。タイシはその歳にしては充分強い方ですよ」

「んっ!」


俯いて眉を寄せる三和に慰めるように優しい言葉を掛けるのと同時に、顔を上げさせその小さな唇に自身のそれをそっと重ねる。

いつもの男らしいカサついた感触は無く、子供特有の甘く柔らかい感触がレンの気持ちを高ぶらせる。

そっと唇を離して三和の様子を窺えば、ぽかんとこちらを数秒見つめてから、やがて顔を真っ赤にさせて悲鳴のような声を上げた。


「な、な、な、何すんだよ!!」

「キスですよ。ちゅー。って言った方がよかったですか?」

「そういうことじゃなくて!オレも、レンも男だろ?!」

「でも、ボクと大きいタイシは恋人同士なんですよ」

「ええーっ!ウソだぁ〜」

「本当ですよ。だから、キス以上のこともしたことがあるんですよ」


レンが予想していた通りの反応を返す三和に、レンは至って冷静に応答する。

その中でレンと三和が恋人同士であることを伝えると、幼い三和はとても信じられないとでも言いたげに目を丸くして疑いの視線を向ける。

だが、それに加えてレンは幼い三和の脳のキャパシティを超えてしまうことを危惧しつつも、互いの間に身体の繋がりがあるということを伝えた。

しかし、そのレンの言葉の裏に隠された内容に知識が追い付いていないらしく、首を傾げてレンを見遣った。


「キス以上のこと…?それってなんだ?」

「…知らないんですか?」

「オレだって知らないことぐらいあるんだよ!で、なんだよそれって!!」

「そうですか、知らなかったんですか…。残念です」

「う…。な、ならお前がオレに教えろよ!」


わざとらしく肩を竦めてみせるレンに、三和は言葉を詰まらせながらも爆弾を落とした。

知らなくて当たり前なのだ。相手は今、高校生では無く小学生なのだから。

けれど、湧き出る好奇心を殺すことなど出来なくて、レンは三和が自身に教えを請うように言葉巧みに仕向けた。

その結果、三和は面白いくらいに自分の思い通りに動くではないか。

レンは三和のその返答に口端をいびつに歪め、彼へと目線を合わせて念を押すように尋ねる。


「そんなに教えてほしいんですか?」

「お、おう!」

「分かりました。ですが、教えるのにも条件がありますよ」

「なんだよ」

「“何があっても途中で止めることはしません。”これが条件です」

「男に二言はねー!その条件受けて立つ!」

「さすがタイシ。じゃあ、こっちの寝室へ来て下さい。ゆっくり、教えてあげますからね…」


条件付きの提案を見事に呑んだ三和に、レンはにっこりと無邪気な笑みを浮かべてから三和の小さな手を引いて寝室へと向かっていく。

その途中で見下ろした時に見えた三和の好奇心を前面に出しながらもどこか不安に怯えているような顔が、レンの嗜虐心を煽った。