※櫂三和です!
※デレ櫂君はすべてイメージ!










「なぁ」

「………」

「暑いんだけど」

「エアコンが入っているだろう。暑ければ温度を下げればいい」

「オレから櫂が離れた方が早いし、そっちの方が地球にも優しいと思うんだけど…」


蝉が眩しく光り、アスファルトをじりじりと照り焼き付ける外から逃避し、冷房がフル稼働した涼しい室内、もとい櫂の家に招かれた三和は、今その部屋の主である櫂によって身体を拘束されていた。

三和の背後に回り込んだ櫂は、後ろから羽交い絞めにするように三和の腰へと両腕を回し、背中へ擦り寄るようにして自身の身体を密着させていた。

拘束されている三和は、そんな櫂の突飛な行動に大した抵抗も抗議も出来ず、この状態になってからすでに数十分経過した今も、さてどうしたものかと思案していた。

冷房が効いているからか、今の季節的に暑いその行為も大した熱を与えず、むしろ冷え過ぎた身体には丁度いい温度で三和に寄り添うものだから、ここで引き剥がしてしまうのはもったいない気がしたし、なにより、普段はクールで他人を寄せ付けない冷たい態度を崩さないあの櫂トシキという男が、珍しくこのような行動に出たものだから、三和は抵抗するにも出来ない状況に陥っていたのだ。

けれど、ここまで櫂がしおらしい態度を取ったことが無かったためか、どうにも落ち着かない。

だから本音を言えば今すぐにでも離れてほしい三和が先ほどから言外に離れるように櫂に言っても、櫂は上手くはぐらかすばかりでまったく解決の糸口が見つからない状態だった。

高校男児がじゃれるでもなく必要以上にくっ付いている。端から見ればこの光景は『櫂が起こしている行動』という点を抜いてもかなり異色である。

普段行きなれているカードキャピタルの面々、特に森川やカムイ達が見たらきっと卒倒してしまうくらいのインパクトだ。


「…何を笑っている」

「いや、櫂にも人恋しくなる時とかあるんだなと思ってさ」

「何のことだ」

「分かんねーならいい」


そのイメージが思いの外ハマりすぎていたものだから、三和は小さく笑みを吐息に混ぜて零す。

すると、今まで黙ったままだった櫂がそれを拾い、三和の背後から問い掛けるように言葉を投げ掛ける。

きっと、真正面から見たらそれはもう縮み上がるくらい鋭い眼光が自身を射抜くのだろうというぐらいの声音だった。

そんなところまで容易にイメージできるのは、今まで櫂トシキと言う人間を傍で見てきた三和だからこそ出来るのだ。


「何か、悩みでもあるのか?」

「無いな」

「即答かよ。ならさ、いい加減離れてくんね?」

「断る」

「あのなぁ…」

「お前を…」

「ん?なんだよ」


けれど、今その鋭い翡翠の光は自身に向けられていない。ならば、それを好機として、三和はゆっくりと櫂へ問い掛ける。

口下手で多くを語らない櫂の性格を熟知した上で、彼が話し易いようにつとめて優しく。

そうすると、初めはなんでもないように装っていた櫂が、不意に口を開いた。


「お前を抱き締めてると落ち着くんだ。色々と、な」

「…っ! お前、なぁ…っ!!」

「耳が赤いぞ、三和」

「誰のせいだと思ってんだよ…っ!!」


その口から紡がれた言葉は、三和の予想を裏切るほどの破壊力を持って三和の顔を赤く染めた。

耳元へ向かって囁きかけるように紡がれたその言葉は、櫂が言外に何を伝えたいのかを表しており、彼の指摘通り三和の顔の他に、耳元も朱色に染まっていた。

顔が見えないことを好機だと思っていた三和だったが、どうやら櫂の方が一枚上手だったらしい。

きっと人の悪い笑みを浮かべてこちらの反応を愉しんでいるに違いない。

そこまで考えてしまうとさっきまで甘受していた彼の拘束から逃れたくなって、三和は身体をジタバタと動かして櫂から距離を取ろうとする。

だが、それを容易に許す櫂ではない。

先ほどまで緩くしていたハズの腕の力を強め、拘束をより強くして身体を密着させる。

すると今まで意識していなかったのもあるが、より近くに櫂の体温と身体の線を感じてしまい三和の心臓はドクンと高鳴った。


「エアコンの温度、下げるか?」

「……お願いします…っ!!」


それを知ってか知らずか、櫂のその提案に、三和は顔を俯かせながら絞り出すように紡いだか細い声でそう懇願せざるおえなかった。

三和のその反応に満足したのか、櫂はフッと小さく吐息を零して、三和の腰へ回した腕を組み直すようにして抱き締めた。

その行動からまだしばらくはこの体勢が続くことを察した三和は、それ以上抵抗することはせず、櫂の体温に溶けるように、彼の身体へ自身の身体を預ける。

瞳を閉じて、櫂の身体に包まれる感触を甘受する。

冷房で冷え切った身体に、櫂の持つ温かさはひどく心地良くて。

暑い暑いと唸っていたことがまるで嘘のように、三和はやってくる睡魔に意識を沈ませるようにして眠った。


「おやすみ、三和」



(眠るなら君と共に)



眠りに就いた三和の耳へ囁きかけるように、櫂は優しい声音でそう呟いた。