※ショタレン三和です ※両方小学生 ※捏造なので二人は同じ学校通い 「ねータイシ、ちゅーしましょう。ちゅー」 「ちゅう?」 よく通るレンの間抜けな声が発した言葉の内容を反復するように、オレもまた間抜けた声で問い返す。 オレ達がいる場所は、内緒話をする時によく使う公園で、それもさらに人の来ない薄気味悪い公衆トイレに近い森みたいな茂みの中。 学校のみんなは不審者が出るとか、幽霊が出るとか言ってこの公園自体に近付かないし、近所の保育園に通うような子供を持った人も、今の時間はもう夕ご飯の準備をする為に家へと帰ってしまう時間だった。 遠くでカラスがカァカァって鳴きながら空を飛ぶ音が聞こえて、ほぼ条件反射のようにお腹がぐぅっと小さく鳴って空腹を訴える。 でも、オレは今目の前でぽやぁっとこっちを見るレンの会話を途切れさせたくなくて、こいつにばれないようにお腹をそっとさすった。 雀ヶ森レン。オレと同じ学校に通う、オレのクラスメイト。 いつもはオレ達二人にもう一人、櫂トシキって言う二人の共通の友達が加わって三人で空が暗くなるまで遊び歩くんだけど、今日は櫂のやつがどうしても外せない用事があるからって言って先に帰ってしまった。 でも、櫂がいないから真っ直ぐ家に帰るなんてことは無くて、オレとレンはその日にあった授業のこととか、今日の夜に見るテレビの話をこの場所でゆっくりと話していた。 さっきも言った通り、ここは人通りが少ない。でも、オレ達にとってはここはすっごく過ごしやすい場所なんだ。 夏休みが近付いてくるにつれて外が暑くなってきたらここに逃げてくる。 他の場所より日陰の出来る面積が大きくて涼しいし、こうやって内緒話が出来たりするから。 そんな中で告げられた言葉は、まだオレ達にはあまり馴染みの無い言葉だった。 「そうです、ちゅーです。キスしましょう、タイシ」 「……なっ!」 問い返したオレの言葉に応えるように、再度レンから放たれた言葉は、大人の言葉になってオレに返ってきた。 キス。ってあれだろ?口と口を合わせるやつだろ? いつも通りストレートに伝えてきたレンの言葉を理解するのと同時に、オレの顔は真っ赤になった。 だって、そんなこと今までしたことないし、それに、今そんなことを言われるとは思ってなかったから。 でも、レンの性格じゃあここでオレが嫌だって言っても聞いてくれないんだろうな。 天然なくせに態度がデカくて、櫂とはまた違った意味で活発な奴だから、それに振り回される人間のことなんてこれっぽっちも考えたことないんだろうな。 「でもさ、キスって言うのは『好きな人』するもんだ。って先生が言ってたじゃん」 「ならいいじゃないですか。ボクはタイシが好きですもん。それとも、タイシはボクが嫌いなんですか?」 「いや、そんなことじゃないんだけどさぁ…」 「じゃあやりましょうよ、キス。ね、タイシ」 「うぅ……」 それでも一応抵抗はしてみる。でも、やっぱり意味は無かった。 レンの手がオレの肩に乗って、レンの顔がどんどん近付いてくる。 その気になればレンのことを突き飛ばすことくらい出来たけど、オレも所詮好奇心旺盛な小学生だから。 キスっていうのがどんなものなのか、体験してみたかったから。 レンの柔らかい唇がオレの唇に重なるのをゆっくりと受け止めた。 「んっ、は、……ふっ、う…!」 「……ん、…」 夏が近付いていることを感じさせる生温い風が頬を撫でていく。 空は茜色に染まり始め、夕焼け空を泳ぐカラスの声がが生徒達の帰宅を促す中、オレはレンと学校の屋上で互いの唇を貪り合っていた。 いつの日かした、幼稚なキスとは違う。舌と唾液が絡まり、混ざりあう大人のキスを、どちらからともなく仕掛ける。 合間に漏れる吐息は空に溶け、初夏の風に淫靡な空気は攫われていく。 どちらも余裕の無いキスは、中学生のオレ達にはお似合いで。唇を離した後の息も絶え絶えの中で、オレ達は互いを挑発するように笑い合う。 「考え事ですか?余裕そうですね」 「思い出してたんだよ。昔、お前としたキスは今よりもっとガキっぽかったなって」 「あの時のことですか」 「ま、お前は今も変わらず加減ってものを知らないキスだったけどな」 「タイシ、息が上がっていてとても可愛かったからつい…」 「そんなこと欠片も思ってねぇくせに」 「少しは思ってますよ。本当に少しですが、ね」 オレの口端に流れる唾液を舐め上げたレンが、確かめるように問い掛ける。 レンのその言葉に、オレは今のキスで昔のことを思い出していたと素直に返す。 今と同じ、夏が近付いたある日の夕方。 オレ達は生まれて初めてキスをした。 『ファーストキスはレモン味』なんて言葉を姉ちゃんが言ってた気がするけど、そんなこと確かめるほど余裕なんてなくて。 口が塞がってる間どうやって息すればいいんだとか、レンの唇がふにふにして柔らかくて気持ちが良いとか、そんなことばっかり考えてて。 それからレンが満足して唇が離れた頃には、オレはすっかり息が上がってて。 「腰の抜けたタイシをおんぶしたのはいい思い出です」 「忘れろよ…」 意外にも体力に自信のあったレンに、おんぶをしてもらって帰宅したことまで思い出してしまった。 恥ずかしいからそれ以上はあまり思い出したくなくて、続きを催促するように、オレはレンの制服の詰襟部分を強く引っ張って自分の方へと近付けた。 「今日は随分積極的なんですね」 「嫌いじゃねーくせによく言うぜ」 「ええ。いつもこれくらい、夜の方も積極的だと嬉しんですけど…」 「……っ!! 言ってろ…っ!!」 吐息が触れる場所で止めて、言葉を紡ぐ。 レンの真紅の瞳にはオレが、オレの蒼灰の瞳にはレンが、それぞれ映っている。 あの日から互いに成長し、オレ達は中学生になった。 キスをして関係が変わってからも、オレとレン、そして櫂の交友関係は続いていた。だが、あの日からこうして人目を盗んでキスをするようになってから、オレとレンは櫂にも、そして他の誰にも言えない秘密を抱えて生きている。 それを苦しいとは思わない。それは、まだこの関係の行き着く先が穏やかなものであると信じて疑わない、純粋な二人の想いが幸せを作っているから。 キスも、それ以上のこともした。触れ合って、重なって、一つになって。 そこに芽生えるのは紛れも無く透き通った愛情で。 例えそれが小学生が好奇心で手を出して、中学生が形を作ったものだとしても。 レンもオレも、幸せだから。 「今日はボクの家に来て下さいね、タイシ」 「嫌だって言ったら?」 「無理矢理にでも」 「…行くよ。だからさ、あともう一回だけしろよ。レン」 「ええ。仰せのままに」 誘うレンの優しい声音に重ねるように、請うような声を乗せる。 突き出した唇と意志に小さく笑ってから、レンは畏まるようにオレの頬に手を当てて。 「大好きですよ。タイシ」 その言葉を返すのは、また今度にしよう。 とびっきりの甘さを加えて、お前だけに伝えられるようになるまで。 (小さな恋のものがたり) オレも好きだよ、レン。 |