「レン様、三和タイシをお連れしました」

「ご苦労様。あれ、まだ寝てるの?」

「はい。どうやら薬が効きすぎているようです…」

「ま、それはそれで好都合だけどね…。あ、彼はそのベッドへ運んで下さい。そうしたらお前はもう下がっていいよ」

「はい」


レンがFFの部下に三和タイシの拉致を命じた翌日、彼等は早速、学校帰りの三和タイシをこのFFの本部であるビルに存在するレンの私室へと運んできた。

力に自信のある部下の一人に姫抱きにされた三和は、どうやら拉致する際に用いた催眠薬を嗅ぎすぎたらしい。未だ薬の効果が切れていないのか、その瞳は固く閉ざされたままだった。

だが、寧ろそちらの方が好都合だったとレンは彼等の言葉を聞きながら考える。

会って早々に険悪なムードになるのも、彼に暴れられて部屋を荒らされるのもどちらも面倒くさいと思ったからだ。

だから、彼が意識を失っている今のうちに、一つでも多くこちらのアドバンテージを作っておこうと考えたレンは、未だ担がれたままの三和を部屋に設置されているレンの寝室にあるベッドへと連れて行かせ、寝かせた。


「それでは失礼いたします」

「ああ。あ、しばらくはこの階に人を通さないでおいてね」

「はい、畏まりました」


三和が静かな寝息を立て、小さく胸を上下させるのを少し見てから、レンは部下を下がらせる。

命じられた男も、それ以上は追及をせず、ただ一つ深々と頭を下げてその場を後にした。

パタンと背後で扉の締まる音が静かに響くのと同時に、レンは三和が寝かせられたベッドへと片足を乗り上げる。

ギシリと鈍い音を立てるのと共に、二人分の体重を受け止めたベッドが重力で沈む。

レンはその音をどこか遠くで聞きながら、静かに寝息を立てる三和へと顔を近付ける。

視界の端に、ゆっくりと上下する胸を収め、呼吸を確かめようとしたレンは、ふとした違和感に気付く。

それは、今のように顔を近付けないと分からないくらい小さな変化で、けれどそれは時間が経つにつれて大きく目に見えるものになっていっていた。


「は……ぁ、…ん、ぅ…」

「これは…」


先ほどまで静かに寝入っていたはずの三和の呼吸が、どんどん乱れて始めたのだ。

よく見れば頬が紅潮し、身じろぐ回数も増えてきた。

三和のその反応は風邪を引き熱が出た時に、抗いきれない熱の塊から逃れようとするのに良く似ていた。

そんなことを冷静に考えていたレンだったが、何故今のタイミングで三和がこのような反応を示すのか全くもって理解出来なかった。


「一体、どうしたのでしょうか」


そんなことぽつりとレンが零した間にも、三和の呼吸はどんどんと激しくなっていく。

口から零れる喘ぎに似た呻きも、どことなく艶を含んでいるように聞こえ始めてきた時、呼吸音以外の無音が占めるその部屋に、軽快な電子音が響いた。

その音の正体は、机に置かれた電話からのもので、レンは一旦三和の元から離れ、受話器を取った。


「はい。なんですか?」

『レン様、一つ言い忘れていたことがあります』


そこから聞こえてきたのは、つい先ほどレンの私室を後にした部下の声であった。

いつもは感情を押し殺したような低く落ち着いた声であったはずなのに、今受話器から聞こえる彼の声は、どこか焦っているようにも、恐れに奮いているようにも聞こえた。

まるで、何か重大な失態を犯し、それを報告した後の自身の末路を恐れるように。


『先ほど、三和タイシを拉致する際に用いた薬ですが、どうやら、……媚薬として用いられる成分も入っていたようです…』

「なに…?」

『申し訳ございません。すべてこちらのミスです。鈍効性となっていたので、今になって効果が出始めていると思われるのですが…』

「ああ、だから彼、こんなに息が荒いんだね」

『やはりそうでしたか…。効果が切れるのには個人差があるようで、レン様の望み通りの状況が作れず、誠に申し訳……』

「いや、これでいいよ」

『は?』

「うん。これでいい。だから気にしなくていいよ、じゃあ」


絞り出すような彼の言葉から出てきたのは、俗に言う性的欲求を高まらせる薬、媚薬という言葉。

どうやら三和が先ほどから呼吸を荒くしているのも、催眠薬にオプションとして入っていた媚薬の効果が表れたかららしい。

鈍効性ということだったから、今になって薬の効果が出てきたと、彼は続けた。

例え彼がもし目覚めたとしても、この媚薬の効果が続く限り、三和とはまともな話は出来ないであろう。受話器越しの彼が心配しているのは、自身がレンの望むその状況を壊してしまったからであった。

気分屋なレンを怒らせたとなれば、FFとして生きていけなくなってしまうことを、よく分かっているからこその発言である。

電話越しの彼が死刑宣告を待つような気持ちでレンからの返答を待っていた時、レンはそう言って彼の言葉を遮った。

予想外なレンの反応にまたもいつもの声の調子を崩した部下の言葉を待たず、レンは一方的に通話を切った。

そうしてそのまま唯一の通信回路である電話線を引き抜き、寝室へと足を進める。


「は、ぁ……あ!……ぁ、ぁ…」


いよいよ本格的に薬が効いてきたのだろう。三和の声は呻き声から完全に喘ぎ声えと変化していた。

苦しそうに、溜まった熱の解放を望むように暴れる肢体を見つめ、レンはうっそりと微笑み、再度ベッドへと乗り上げる。


「ねぇ、苦しいですか?」


答えが返ってこないのは知っている。そう、返ってこなくていい。

そんなもの、自分の目で見ればすぐに分かることだから。


「その熱、ボクが解放してあげますよ。タイシ…」


そう、苦しいままでいい。

狂ってしまうほどの熱の中で、キミはどれだけ正気でいられるのか、とても楽しみです。

喘ぐ三和を見下ろし、声に出さずそう告げるレンの瞳は、厭らしく細められていた。



(睡眠薬兼鈍攻性媚薬)



「すぐ、気持ちよくしてあげますね」


お題/モノクロ メルヘン『拉致監禁強姦』