※三和×井崎
※ついったでのお題診断










「へぇ、三和って結構アクセサリー持ってんだな」

「まぁな、つっても、ここ最近は邪魔にしかならないから着けてないんだけど」


黒く仕切られたアクセサリーケースの中に丁寧に仕舞われたリングを一つずつ取り出し、部屋の蛍光灯の光に照らしながら見つめる。

酸化して黒ずんでしまわないように、しっかりと手入れされているそのリングは蛍光灯の光を受け、鋭く輝いている。

学校も休みの休日に、三和の自宅に招かれた井崎はそれから彼に勉強を教えてもらったり、共通の娯楽であるヴァンガードでファイトに興じていたのだが、しばらくするとそれも飽き、井崎が三和の部屋の物色を始めたのである。

井崎は、三和と世間一般で言うところの恋人同士という関係になってからというもの、幾度となく彼の部屋や自身の部屋を行き来している。

だが、今まで互いの部屋の中を好き勝手に漁ることはしたことがなかった。

お互い人に気を遣う性格であるからか、三和も井崎も『他人が嫌なことは自分からもしない』と思っているからである。

例え恋人同士だろうと、踏み込んでいい領域というものは確かに存在するわけで。

だからこそ、今日まで二人は部屋を物色するということはしたことがなかったのだ。

そして、そんな二人の間で出来ていた暗黙の了解を先に崩したのは、意外にも井崎の方だった。


―『なぁ、これ、見てもいいか?』


そう言ってこちらを窺うように見つめる井崎の手の中には、三和が一時期ハマり集めていた装飾品を仕舞い込んだケースだった。

中には、リングをはじめネックレスやペンダントが並べられている。いずれも、三和が気に入って購入したものだ。

とは言っても、ここ最近それらを身に着ける機会はぐっと減った。先ほど井崎にも言った通り、邪魔になるようになってしまったからだ。

決して運動をするからというわけではない。ただただ、鬱陶しく感じるようになったから。

だから、井崎達や親友である櫂も、三和がこういった装飾品を持っていることを知っている者はいない。

井崎が、初めてこの事実を知った人物となる。

たったそれだけだったが、三和は今、胸が張り裂けそうなくらい嬉しい気持ちでいっぱいだった。

表情に出ていないのが不思議なくらい、気を抜いた瞬間に頬が緩んでしまうくらいに三和は浮かれていた。

無遠慮に踏み込んでこない、井崎のそんな性格が好きであるのと同時に、そんな井崎に歯痒さを感じていたのも事実だ。

恋人にくらいありのままの自分を知ってもらいたい。思春期の少年でなくても、恋をしていれば誰だって持つ感情だ。

でも、こちらから行動を起こしてしまうには、それではあまりにも自分に余裕が無さすぎるのではないか?なんて、柄にもなく思ったりしたこともある。

焦りすぎて、せっかく手に入れたものをそう簡単に手放したくはなかった。

だから、こうして井崎が自分から自身の一部に触れてくれることが、三和は堪らなく嬉しかった。


「ははっ、見ろよ三和。試に嵌めてみたけどほら、サイズが合わなくてスカスカだ」

「な……っ!?」


そうして思い耽っていると、急に目の前の井崎の口から笑い声が聞こえ三和は視線を上げ、目に飛び込んできた状況に言葉にならない声を出してしまった。

仕舞われていたリングの一つを徐に指に嵌めていた井崎は、けれどもサイズが合わず指の間でくるくると回る指輪に笑みを零していた。

驚いたのはそれだけではない。井崎が指輪を嵌めていた指はなんと右の薬指だったものだから、いよいよ三和の頭は混乱を始めた。

狙ってやっているわけでは無いのは分かっている、けれど、未だ指輪を指の間で遊ばせてへらへらと笑っている井崎を見ていると、胸がどうしようもなく張り裂けそうなくらいばくばくと脈打って。


「うわっ!な、なんだよ三和ぁ…」

「それはこっちのセリフ。ったく、狙ってやってんのか?それ」

「はぁ?なんのことだよ」

「いや、分かんないのならいいや。悔しいけど」

「変な奴…」


衝動に任せるまま、三和は井崎を押し倒すようにして抱きかかった。

もちろん三和を受け止める準備も力も無い井崎はそのまま三和と共に部屋のカーペットへと倒れ込む。

急に行動を起こした三和を当然の如く井崎は問い詰めるが、自身を抱き留めたまますりすりと頬を寄せる三和に諦めがついたのか、ただそれだけ零すと、それ以上は追及をしてこなかった。

するりと井崎の掌へと手を滑らせる。指の間で揺れるその指輪をぐっと嵌めこむように力を入れてみるが、やはりサイズが合わないらしい。

大きすぎるそれは、くるくると回って指の隙間を往復するだけだった。


「(でも、今はそれでいいや)」


井崎の服から香る太陽の匂いとその感触に頬を緩ませながら、三和はそんな風に考える。

今はまだサイズの合わない指輪でも、いつか、井崎のサイズに合うような物を贈りたい。と、そんなことを。

指輪でもいいし、他の物でもいい。彼に“そういった類の物”をプレゼントする一番最初の人間が、自分であれば、なんだっていい。

そうして今みたいに笑ってくれ。その幸せがずっと続くように、ただ、気の抜けた柔らかい微笑みで。



(サイズの合わない指輪)



そんな三和の願いを叶えるように、指輪が小さくキラリと光った。そんな気がした。