※アイチ誕生日企画文 ※惑星クレイパロ(2期ネタ有り) ―『お誕生日おめでとうございます。アイチ様』 そう言った白銀の鎧を纏った僕の騎士、<ブラスター・ブレード>はにこりと微笑みながらまだ幼い僕の目線に合わせて屈みこむと、目の前に何かを差し出してきた。 その正体をまじまじと見つめれば、それはとても美味しそうな苺ののったショートケーキだった。 ふわふわのスポンジにキメの細かく甘そうな生クリームもとても食欲をそそられたが、アイチの視線を占めたのはそのケーキのてっぺんだった。 苺は《メガラニカ》で育った赤く熟れた大粒のものであったのもあるが、それよりも目を引いたのはコーティングされた苺の上にのった小さな王冠だった。 ―『飴細工で作ったのですよ。この、聖騎士団<ロイヤルパラディン>の皆で』 未だその場所へ視線を注ぐアイチへ優しく、ブラスター・ブレードは語りかける。 その言葉と同時に顔を上げ、彼へと視線を移せば、その彼の後ろには彼と同じように微笑みを浮かべこちらを見遣るロイヤルパラディンの聖騎士たちが居た。 ―『例え幼くても、貴方は私達にとってかけがえのない、大切な存在です。生まれてきてくれて、ありがとうございます』 幼いアイチはひどく内気で、はっきりと物を言うことの出来ない子供だったせいか、そのせいで毎日のように同年代の子たちから辱めを受けてきた。 そのせいか、内気な性格にさらに拍車が掛り、こうして《ユナイテッド・サンクチュアリ》に駐屯する聖騎士団<ロイヤルパラディン>の先導者(ヴァンガード)となっても、彼らと上手く打ち解けることがなかなか出来ないでいた。 そんな彼を時には優しく、そして厳しく見守ってきたのが、アイチの目の前にいる聖騎士、ブラスター・ブレードである。 勇気の名を冠する兵装を纏った彼は、その名の通り、今まで幾度となく内気なアイチを勇気付けてきた。 そんな彼や仲間の言葉に、気が付けばアイチはその大きな瞳から涙を次々に零していた。 今までずっと否定されてきた自分が、初めて家族以外にそんな言葉を言われたのが、アイチはたまらなく嬉しかったからだ。 ―『だから、これからも私達と共に居て下さい』 アイチの瞳を流れる涙を拭いながらそう告げる彼に、アイチはしゃくりあげながら頷くことしか出来なかったが、その顔には笑顔が浮かんでいた。 「アイチ!こら、起きろって!」 「いてっ!」 「まったく、本当にオレ達のヴァンガードはのんびり屋だな」 「……んぅ?あれ、サグラモール…なんでここに…」 「それはこっちのセリフ!全く、なんて所で昼寝してるんだよ。おかげで探すのにこんなに手間がかかったじゃないか。少しはヴァンガードとしての自覚を持ってくれよな」 「えっと……なんていうかその……ごめんなさい」 「分かればいいんだよ」 ゴツンとかなり激しい打音と痛みに、アイチの意識は現実へと一気に覚醒した。 そんな寝ぼけた状態のアイチの目の前ではぁと呆れたように溜息を吐いて小言を零したのは、アイチが今ヴァンガードとして身を置いている<ゴールドパラディン>に所属する、<草原に吹く風 サグラモール>だった。 腰に手を当てて、まるでアイチの妹の先導エミのように説教をするサグラモールの言葉に謝罪をしながら、アイチは周りへと視線を巡らす。 そこでようやく、先ほどまでの出来事が夢の中のことだということに気付いた。 「(そうだよ。だって、僕の仲間は……)」 未だ鈍痛を訴える額を摩りながらのアイチの脳裏に過るのは、未だ記憶に新しい身を裂くほどに悲痛な出来事。 この惑星クレイの地に、突如として現れた謎の勢力の力によって、アイチが以前率いていたクラン、<ロイヤルパラディン>を始め、<かげろう>・<シャドウパラディン>の先導者が封印されてしまったのだ。 本当なら、そこで封印されるのはアイチだったハズなのだ。だが、そんなアイチの代わりに封印されたのは、彼の騎士であり分身である勇気の剣士、ブラスター・ブレードだった。 ―『アイチ様、危ないっ!』 その言葉と共に、自身の前に立ちはだかった彼に落ちた、一閃の光。 その光に連れ去られるようにして、彼はアイチの目の前から消えてしまった。 そして、時を同じくして、帝国の暴竜である<ドラゴニック・オーバーロード>と、ブラスターブレードを対を成す黒き覚悟の剣を携えた剣士、<ブラスター・ダーク>も、同じ光に呑まれ消えてしまった。 国の要とも言われる先導者を失ったクランは、途端に力と戦う気力を失い、いつしか消え去ってしまった。 アイチのロイヤルパラディンのヴァンガードであることを表す手の甲の紋章も、彼らの戦線離脱と共に形を無くし、消えてしまった。 ―『限界を突き破る力をっ!』 そして失意の底に落ちるアイチに喝を入れたのは、そんな勢力に立ち向かおうと新たな力、<ゴールドパラディン>というクランを結成させた者達だった。 彼らはアイチの前に立ち言った。『共に脅威に立ち向かい、かつての仲間をその手で取り戻せ』と。 そんな彼らに半ば引っ張られるようにして、アイチは今再びヴァンガードとしての道を歩んでいる。 「って、聞いてるのかアイチっ!」 「うわぁっ!う、うん!聞いてるよ」 「ならいいんだよ。ほら、早く身体を起こしてオレの後に付いて来て」 「?う……ん」 そしてまたも目の前の彼の存在を蔑ろにしていたせいか、今度は先ほどよりも大きな声で叱られる。 その彼の言葉に曖昧な相槌を打って話の先を促せば、彼はそれ以上アイチに何を言わずくるりと背を向けて歩き出した。 アイチは話の前後が分からない為、だがそのことを聞くことは先ほどの会話で出来なくなってしまったので彼の後に大人しく付いて行くことにした。 「アイチ連れて来たよー!」 「こら、サグラモール!『マイヴァンガード』か『アイチ様』と呼べと言っただろう。いい加減覚えないかっ!」 「はいはい」 「まったく……。それよりもアイチ様、急に来いなどと言ってしまい申し訳ありませんでした」 「ううん。僕こそごめんね。君たちが探していることに気付かなくて…」 そうしてアイチが連れてこられたのはゴールドパラディンが駐屯する、以前はロイヤルパラディンとシャドウパラディンのユニット達が日々を過ごす城の中庭だった。 バラ園やちょっとしたカフェテラスが設けられたその広い中庭には、よく見ればゴールドパラディンに所属するほとんどのユニットがその場所へ佇んでいた。 そしてアイチをここまで連れてきた張本人であるサグラモールが声を張り上げると、すかさず彼を窘めるよう怒声がアイチの鼓膜を揺らした。 その声の発信源は、<美技の騎士 ガレス>という青年で、そんな彼の言葉を軽くあしらったサグラモールにそれ以上言及する素振りも見せず、彼はアイチへと向き直った。 深々と頭を下げるガレスに申し訳なさと居心地の悪さを感じながら、アイチは頬を掻く。 「ところで、僕に用事があるって聞いたんだけど…」 「ええ、そうです。……実は、アイチ様にこれを差し上げたくて…」 そろそろ本題にと、未だ頭を下げたままのガレスに促すようにそう話題を切り出せば、パッと頭を上げた彼は思い出したように自身の背後を見遣る。 アイチもそんな彼にならうように彼の背後を見遣れば、そこには黄金の鎧に身を包んだ、かつてのロイヤルパラディンの仲間であり、今はゴールドパラディンの仲間である<大いなる銀狼 ガルモール>がこちらへ向かって歩を進めていた。 その手には、小さな皿に載せられた何かを持って。 「お誕生日おめでとうございます。アイチ様」 「…………え?」 ガルモールのその言葉と共に差し出された皿に乗っていたのは、白いスポンジと赤いいちごがのった、『Happy Birthday』と書かれたプレートの添えられたケーキだった。 「お忘れですか?今日は、アイチ様の誕生された日なのですよ」 「え……あ、……あっ!」 だが未だその状況を整理しきれていないアイチに、ガルモールは優しく諭すように語りかける。 そうしてようやく、アイチは頭の中で今日の日付と先ほどの彼の言葉を反芻し、彼らの言葉にワンテンポ遅れて大きな声で反応を返した。 そう、今日はこの惑星クレイの暦でいうところの六月六日。つまり、先導アイチがこの世に生を受けた日である。 謎の勢力の襲来に加え、新たなクランのヴァンガードとして日々を多忙にしている内に、アイチはいつの間にか誕生日が近付いているということを忘れてしまっていたらしい。 口をパクパクとさせながら言葉を紡ごうとするアイチだったが、その視線はある一点を目視した途端、動きを止めた。 「この王冠……」 「そうです。以前、ロイヤルパラディンの皆が幼いアイチ様の為にと作ったケーキと同じものですよ」 キメ細やかなスポンジを覆うように塗られたふわりとした生クリームの上に、コーティングされた大粒のいちご。 そして、そのいちごの頂上には飴細工で作られている王冠がのせられていた。 そこまで見て、アイチはハッと気付く。 これは先ほどまでアイチが夢の中で見ていた、かつて自分が幼いころロイヤルパラディンの皆が自分の為にと作ってくれたケーキと同じだということに。 その事実を肯定するように、目の前のガルモールも言葉を紡ぐ。かつて、自身が所属していたクランの仲間たちへ想いを馳せるように。 「貴方にとっては、辛い記憶を呼び起こしてしまうかもしれない。そう、思っていた時もありました」 「………っ!」 「ですが、このケーキだけは、どうしてもこの皆からも贈りたいと思ったのです」 「え……?」 ガルモールの言葉に、アイチの脳裏をあの場面がフラッシュバックする。 自身を盾にアイチが封印されるのを防いだ勇気の剣士の姿が。 悲痛に顔を歪めるアイチを前に、けれどもガルモールは言葉を続ける。 ゴールドパラディンの仲間たちで、アイチのケーキを贈りたいと。 その言葉に、アイチは問い掛けるような表情でガルモールを見つめる。 そんなアイチの言葉に答えるように、ガルモールはまたも口を開いた。 「このゴールドパラディンにとっても、アイチ様、貴方は大切な存在だということだからですよ」 「……っ」 「例え、貴方にとっての一番がロイヤルパラディンの仲間達であっても、今は私達と共にある貴方を、私達は命を懸けて守ります。貴方が、いつかこの手でかつての仲間とこの世界の平和を手にするその日まで」 ―『貴方が、私達のヴァンガードで良かった。生まれてきてくれて、ありがとうございます』 「……っ、……っ!」 ガルモールのその言葉に、アイチは今は封印された自身の騎士の優しい微笑みを垣間見た。 泣きじゃくる幼いアイチの頭を撫で、微笑みを浮かべる彼のあの顔が。 そして、境遇は違えど昔と変わらぬ言葉をアイチに贈る目の前の彼らの暖かさと優しさに、アイチはいつしか声にならない嗚咽を響かせていた。 そんなアイチを近く、そして遠くから淡い笑みを浮かべて見守る仲間や、泣きじゃくるアイチの頭を撫でるガルモールに、アイチは静かに誓う。 今自身に新たに宿った灼熱の力を奮い、必ずかつての仲間を取り戻すことを。 そして、今不安でいっぱいな自分を精一杯支えてくれる仲間たちの為に、この世界の平和を取り戻すことを。 (光を導く君への称号) アイチは、泣き腫らした心の奥で誓うのだった。 |