※百合櫂アイ
※ヤンレズ櫂君に監禁されるアイチ
※アイチが可哀想










「櫂君、……ここから……出して…」


カーテンが引かれ、日が差し込まない小さな部屋で、か細い声が懇願する。

アイチは自分一人しかいない部屋の中、どこともつかぬ虚空を見つめ、そう呟いた。

その小さな身体には、衣服というものはほとんど着用されておらず、申し訳程度に上半身を覆うカッターシャツだけがアイチの衣服と呼べるものだった。

それだけでも異常だというのに、さらに彼女の首には真っ赤な首輪が嵌められており、改めて彼女の置かれている環境が狂気に満ちていることを実感させていた。

そんな狂った環境の中に身を置くアイチが零した『櫂』と言う人物の存在。それが、アイチを現在この部屋へ監禁している少女の名だった。


櫂トシキ。アイチが憧れ、目標とする人物。

幼い頃、内気な性格ゆえイジメの対象として日々虐げられていたアイチに勇気の剣士<ブラスター・ブレード>を与え、彼女を勇気付けた少女。


―『イメージしろ!強くなった自分を』


そう言ってキラキラと目を輝かせ力説する彼女に、幼いアイチの心は淀んだ世界から引き上げられた。

それから間もなくして櫂は引っ越してしまったことを知り、悲しくなったも確かだが、それ以上に彼女がくれた勇気やあの笑顔がアイチを今まで元気付けてくれたのだ。

だがら、それから四年後に再び彼女と再会出来たことは素直に嬉しかった。

昔の彼女のように、陽気で快活な雰囲気はなりを潜め、ひどく冷たい態度がアイチの胸を時折締め付けたが、それよりも彼女にまた会えたことの方が勝っていた。


「どうして……どうしてなの……っ!!」


ほんの数週間前までの穏やかで暖かな日常と今の現状を比較し、アイチは瞳に涙を浮かべ、一人きりの小さな部屋で問い掛ける。

つい最近までは、“いつもの日常”だったのだ。

クラスメイトの森川達と一緒にカードキャピタルへ赴き、店員である戸倉ミサキや可愛い弟分である葛木カムイ達とカードファイトに興じる。

合間に挟まれる会話などに微笑みを浮かべ、笑い合っていたあの日常は、しかし突然崩れ去った。

アイチの憧れの存在、櫂の手によって。



『いやっ!櫂君、や、やめて……っ!!』



急に彼女に手を引かれ、向かった先は彼女の自宅であろうマンションの一室。

玄関へ連れ込まれたのと同時に掛けられる鍵、靴を揃えることさえもそこそこに、櫂は苛立ちを隠そうともしない足取りで寝室へと歩を進めた。

そうしてベッドの上へとアイチの身体を投げ、衝撃に顔を歪めるアイチの言葉を待たずにその身に纏う制服を裂いた。


『きゃあっ!や、ヤダヤダ!櫂君、なんで、やだぁっ!』


服を裂かれたことによって、明確な狂気を感じ取ったアイチが本格的に抵抗を始め、拒絶の意を叫んでも、櫂は無表情でアイチの腕を縛り上げ、服を裂き脱がしていく。

それから先は、思い出したくもない。

泣き叫ぶアイチの身体を愛撫し、辱め、果てにはアイチの純潔と彼女への思慕の念を、下腹に装着した男性器を模したゴム製の玩具によって櫂は散らした。

同性である櫂に襲われ、処女膜を破られ絶望するアイチに、けれどあの時の櫂はアイチを揺さぶり快楽を与えながら、確かに笑っていたのだ。


『アイチ……愛してる。もう、……離さないからな』


熱に溶かされた、愉悦の混じる暗い声音で。

櫂は確かに、嬉しそうに言ったのだ。


あの日から、アイチはこの部屋から出ることが叶わなくなってしまった。

アイチが分かるのは、櫂の勉強机の上に置かれた日めくりカレンダーの今日の日付で、監禁されてから経ってしまった日数だけ。

自身の家族や森川達をはじめとしたカードキャピタルに集まる面々への心配。

自分が居なくなったことで、きっと迷惑を掛けているに違いない。

けれど、それを確認する術をアイチは持たない。

それに、アイチが櫂以外に意識を向けることを、櫂自身が嫌うのだ。


『お前は俺だけ見ていればいい』


そう言って険しい顔で自身に触れる櫂の怖さを思い出し、身が震える。

逆らっても、大きな力と快楽で捻じ伏せられる。

そこに純真な愛など無い。あるのは、櫂の異常なまでの独占欲と執着心が生み出した歪んだ愛だけだ。


けれど、アイチは櫂のその思いに決して負けたくなかった。

例え思慕の念を砕かれても、あの記憶は間違いなくアイチの心を照らし続けているのだから。

いつか、櫂が自身の間違いに気付くまで、アイチは抵抗することを止めないであろう。


「そうすることが……君に対する僕の、……精一杯の“愛”だから…」


そう決意するのと同時に、玄関の扉が開かれる。

櫂が帰ってきた合図だ。

靴を脱いだ彼女は真っ直ぐにこの部屋にやって来る。

まるで、アイチが逃げ出していないことを確認するように。


「アイチ…。ただいま」

「………」


そうして今日も逃げ出さず、鎖に繋がれたままのアイチの姿を見て、櫂はやはり微笑んだ。

その温度を確かめるように、帰宅を告げる言葉と共にアイチの頬に櫂の手が触れる。

掌はこんなにも暖かいのに、何故、どこで狂ってしまったのだろうか?

それを知る術は、今のアイチには無いけれど。

どれだけ泣き叫んだっていい。尊厳を踏み躙られ、身体を飼い殺さっていい。

けれど、心までは渡したくない。



(抵抗せよ、その“愛”に)



アイチは、熱に溺れる寸前まで、そんなことを考えていた。