※両方女体化(つまり百合) ※櫂君がむっつり 「なんだ、その子供っぽい下着は」 それが、睦言を終えて帰り支度をする僕に櫂君が掛けた辛辣すぎる言葉だった。 ベッドの中から僕の着替えを舐めるように(これは僕にとっては既に慣れてしまった事象であるし、今さら恥ずかしがってもきっと彼女はいつも浮かべるあの人の悪い笑顔でこちらを煽るからこの際無視をすることにする)、僕の支度を眺めていた櫂君は、まるで気に入らないとでも言いたそうな表情で僕の身体、正確に言うと下着を見ていた。 子供っぽい。そう言われたことを心の中で反芻し、今しがた身に着けたばかりの下着を見下ろす。 「それはお前が自分で選んだ下着か?」 「え、ううん。妹のエミと一緒に買いに行った時にエミが可愛いからって言うから…」 「なるほど」 見下ろした下着は上下セットで買ったもので、一面にパステルカラーの星がプリントアウトされているものだ。 小振りなアイチの胸や身体を、より一層幼く見せているようにも見える。 確かに、そう言われてみればそうなのかもしれない。 体育の着替えの時にちらりと見えた同じクラスの女友達も、自分よりもいくらか大人っぽい柄だったし、なにより、目の前の櫂とは一年しか歳の差が無いのに対し、彼女の下着の柄はとても大人っぽくて素敵だった。 ベッドに裸のまま入った状態で、なおもこちらを見つめる櫂はアイチよりもスタイルが良い。 アイチの貧相な胸の膨らみと比較すれば、彼女の胸がどれほど大きいかなど一目瞭然。 色白で、制服のスカートから覗く脚はスラリと長く、まるでモデルのようでもある。 そんな彼女が今のアイチの下着を見れば、嫌でも子供っぽいと言われるのは当然のことなのだろうと思えてきた。 「そうだよね。櫂君の下着、大人っぽいもんね…」 「年相応だろ?それに、あれくらいなら三和だって着けてるぞ。今まで思っていたが、もしかして今まで身に着けてた下着も妹が選んだやつか?」 「うん…。だって僕、センス無いから…」 年頃の女の子であるはずなのに、アイチはこういった物にあまり興味がないことを自覚していた。 それを妹のエミも十分に理解していたし、なにより、エミはそういったものにとても興味のある方だったのだ。 だからこそ、休日ともなれば姉であるアイチを引っ張ってウインドウショッピングに興じていたのだ。 彼女がアイチの下着を選んでいるのも、ショッピングの一環に過ぎないのだ。 アイチもそんな妹の邪魔をするつもりもないので今まで黙っていたのだが、まさか憧れで恋人である櫂にこんなことを言われてしまう日が来るとは考えてもみなかった。 「なら、俺が選んでやる」 「え……?」 「お前が着けても大丈夫な柄で、もう少し年相応の下着を選んでやると言ってるんだ」 考えれば考えるほどにショッキングな彼女の言葉を、頭の中で反復させながら気持ちを沈ませていると、櫂ははぁと小さく溜息を零してからそう告げた。 櫂が、アイチの下着を選ぶ。 ―『彼氏が彼女に服を贈る時って、脱がせたいっていう願望もあるんだって』 いつかエミが言っていた言葉が不意に蘇る。 櫂も、アイチの為と選んだ下着を脱がしたいがためにこのような提案をしたのだろうか…? 「(櫂君に限ってそんなことなはい…っ!)」 と、そこまで考えて瞬時に思考を霧散させる。 そうだ、櫂のこの言葉は本心からきているのだ。アイチが今考えていたような下心など一切無いに決まっているではないか。 「ちょうど明日は学校も休みだからな。急だが明日に近くのショッピングモールへ行くぞ」 「あ、うん!えと……、よろしくお願いします!」 一人百面相を浮かべるアイチを見ながら、櫂はすぐにでも言いたげにそう言った。 もともと明日は櫂と過ごす予定だったし、なにより、いつも彼女の家でデートと呼ぶには爛れた行為しかしていないアイチにとって、この誘いは素直に嬉しかった。 目的は自分の下着を買うことだが、明日はショッピングと称したデートをするということに、アイチは完全に浮かれきっていた。 だから、アイチは見ていなかった。否、見れなかったのだ。 はしゃぐアイチを余所に、櫂が妖しく微笑んでいたことを…。 「いらっしゃいませ!お客様、いかがなさいましたか?」 「この子に新しい下着を買ってやりたいんですが、サイズを測ってもらえないですか?」 「かしこまりました。それでは、こちらの試着室へどうぞ。中へ入ったら上着とブラジャーだけ脱いでお待ち下さい」 休日ということもあり、それなりに混みあっている近場のショッピングモール内のランジェリー売り場にて、櫂は淡々と店のスタッフへそう告げる。 アイチはそんな彼女の後ろに隠れるようにしていたのだが、櫂が身を逸らしスタッフにアイチを紹介すると、スタッフがにこりとアイチへ微笑む。 人の良さそうなスタッフに初めて来た場所への緊張をいくらか解されながら、アイチと櫂は彼女に案内された試着室へと移動する。 試着室の外に用意されたソファへ櫂が腰掛け、アイチはその横で待っているスタッフの為に急いで試着室へと入る。 家族や櫂以外の他人に素肌晒すことは内気なアイチにはひどく恥ずかしかったが、せっかくの櫂の行為を無下にするわけにはいかない。 サイズを測ってしまえば後は下着を選ぶだけなのだ。さっさと終わらせてしまおう。 深呼吸を一つして、アイチは上着へと手を掛けた。 「どう、櫂君」 「ああ。それでいいんじゃないか?」 あれから手慣れたスタッフの手によってあっという間に自身のサイズを測られたアイチは、櫂が選んでくるいくつかの下着の中から順に身に着け、その姿をその都度彼女に見せていた。 そうしてようやく、自身が一番気に入った下着を見つけることが出来た。 上下セットだと言われて渡されたブラジャーは、谷間やフロント側のストラップの近くに着けられたチェックのリボンが特徴的で、上胸を覆うようにあしらわれたレースがとても可愛らしかった。 色は淡い水色と白が基調となっており、スタッフが「今夏流行のフレンチマリンスタイルですよ!」と熱く語っていた。 「じゃあこれを一つ。あと、さっき試着したエメラルドグリーンの下着もセットで」 「かしこまりました。一応、先ほどの下着ももう一度試着していただいてもよろしいですか?」 「構わないか、アイチ」 「え、う、うん!大丈夫です!」 「それではご用意致しますので少々お待ちくださいませ」 そうしてスタッフはフロアへと消えていった。 先ほど、アイチのサイズの下着はよく売れるサイズの為か、なかなか在庫のあるものが無いと言っていたのを思い出した。 きっと、先ほど櫂が言ったもう一着の方の在庫を確認しに言っているだろうから、こちらへ戻ってくるのには少し時間が掛りそうだ。 なら、今のうちに身に着けている下着は脱いでしまおうと思った矢先、先ほどまでソファに腰かけていた櫂が試着室の中へと身を潜らせて来た。 何故か、カーテンまで閉めて。 「か……櫂、君?どうしたの?」 「よく見ておこうと思ってな。それに、…」 「ひっ!? や、櫂君!な、に……ぁ、」 「着け心地の方も少し確かめておかないと、な」 「何言ってるの?! や、やだ……っあ!」 「声を抑えないと誰か来るぞ?」 先ほどまでとまるで雰囲気の違う櫂に、さすがに違和感を感じたアイチが振り返ろうとする。が、それよりも早く櫂の手が未だ試着したブラジャーに覆われたままのアイチの胸へと伸び、無遠慮に掴んだ。 フィッティングの確認だと言いながら、確実に欲を煽る触り方をする櫂の手を振りほどこうにも、彼女の手によって快楽に慣らされたアイチの身体は、その動きを敏感に拾い、口からは抑え込まれた嬌声を響かせるだけだった。 櫂の手は、始めは胸の感触を楽しむように掌全体でアイチの胸を覆うようにして揉みしだき、次第にブラジャーの形をなぞる様な動きへ変わる。 そうして、ついにはブラジャーの中へと手を差し入れて、愛撫によって形を成してきたアイチの桃色を突起を親指と人差し指で軽く摘まんだ。 「っ!〜〜〜〜〜〜〜んんぅっ!!!」 「ふ、よく耐えたな」 「ひ、……櫂、く、……も、やぁぁっ!」 いつもカードを扱う、女性らしい白く長い指が、柔らかな掌が、アイチの発育途中の胸を辱めるために動き回る。 綺麗に整えられた指先で、なおも桃色の突起を弄り、くりくり、ぐりぐりと緩急をつけてアイチの羞恥を煽る。 いつ、あのスタッフが戻ってくるかも分からないという不安、緊張がアイチの感覚を余計に研ぎ澄ませ、彼女の愛撫一つ一つに過剰に反応する。 そうしていくつかの辱めを受けているうちに、不意に下腹がじゅん。と濡れるのを感じた。 その瞬間、それまで赤かったアイチの顔は蒼白に変わる。 それ以上はマズイと、本格的に抵抗を始めたアイチなどものともせず、櫂は小さなアイチの身体を掻き抱くようにし、耳を食む。 「ぅんんっ!! や、もうだめ…。櫂、く…もうやだ、ぁ…!」 「観念しろ、アイチ」 そうして、ついに彼女の唇がアイチのそれに重なろうとした時、外からコツコツとした靴音が響いた。 それが耳に届いた瞬間、櫂は弾かれたようにアイチの身体から離れ、試着室の外へと身体を出した。 「お客様、お待たせいたしました。ご用意出来ましたのでこのままお会計ということでよろしいですか?」 「はい、大丈夫です。会計は現金で」 「かしこまりました。お連れ様はまだお着替え中でしょうか?」 「はい。なので、会計は私がやります。アイチ、着替えたらレジまで来い。先に行っている」 「う……うん。分かった」 先ほどまでの淫行がすべてなかったかのように、涼しい声音でカーテンの向こうから話しかけてきた櫂に、アイチは乱れた呼吸を悟られぬように整えながら彼女の言葉に返す。 その声を聴いているのかいないのか。櫂の気配はフロアのレジへと消えていった。 「櫂君、今日はその、ありがとう、ね」 「気にするな。もともと俺が言い出したことだからな」 「でも、本当に良かったの?二着も買ってもらっちゃって…」 「俺がしたいからやったまでだ。素直に受け取っておけ」 「う…うん。……ありがとう……」 買い物を済ませた帰り道、先ほどのこともあってか互いに口数が少ないままに二人は家までの帰路を辿り、肩を並べて歩いていた。 櫂はもともと口数が少ない方だし、アイチも、先ほどのことが脳裏にちらついて彼女になんと声を掛けていいのか分からないでいた。 とりあえず、下着を買ってくれたことに感謝の言葉を述べれば、そんなアイチの気持ちなど露知らず。櫂はいつも通りに素っ気なく返してきた。 アイチなりに頑張ってみたがそれ以上会話は続かず、気が付けばもうすぐ家に帰るための分かれ道へと近付いていた。 ここから先は別々に。櫂は左へ、アイチは右へ。それぞれの家へ向かう。 「あ、じゃあ僕もう帰る、ね……。本当に、今日はありがとう。……また、ね」 今日はもうこれ以上は一緒に居られない。でも、一緒にデートが出来ただけでも満足だ。 アイチはそう心の中でもう少し彼女と居たいという気持ちを抑え、自身の家へ向かって一歩踏み出した。 はずだった。 「待て、アイチ」 「え…?」 「誰が帰っていいと言った」 歩を進めようとしたアイチの腕を、他の誰でもない、今もアイチの横にいる櫂の手が掴む。 そして、その口から発せられた言葉は、少し不満げにも聞こえた。 そんな彼女の糸が分からず、未だ掴まれたままの腕と彼女の顔を交互に見遣りながらアイチが声を掛けると、こちらへ向き直った櫂は厭らしい笑みを浮かべてアイチを見つめ返した。 アイチを組み敷き、快楽へ誘うあの顔で。 「せっかく新しい下着を買ったんだ。一番先に見る権利が俺にはあるだろう?」 「っ!? そ、それって……っ!」 「何を今さら恥ずかしがっている。さっきの続きをすると言っているだけだろう?あれで終わりだと思ってくれるなよ?」 「っ!! ……始めから、そのつもりで…っ!?」 「さあな。行くぞ」 「あ、櫂君!」 今度は人目を考慮してか、櫂は屈みこんで、アイチの耳元で囁くように淫靡な言葉を口にする。 櫂だけは。と思っていたアイチの気持ちを裏切るような櫂に、アイチは驚きを隠せない。 けれど、そんなアイチの気持ちなど知る由も無い櫂にとって、アイチのそのイメージは勝手極まりないものであるのも確かで。 有無を言わさず櫂の自宅へとアイチの腕を引く彼女に引き摺られながら、アイチは制止の声を掛ける。 だが、そんなアイチの言葉は櫂にはもう届いていない。 櫂にとって、今日アイチを愛でるのは既に確定事項となっているのだ。 「優しくして、ね…?」 だからせめてもの譲歩として、明日一日二人でベッドの中で過ごすことになることだけは避けたいという意図を込めて、アイチは小さく呟いた。 (散らさず愛でよ) 「お前次第だ」 |