※三和×井崎
※三和君誕生日祝い、遅刻編
※微妙にみにヴァンネタ










「え……?」

「だから、今日は三和の誕生日なんだとよ!」


小声で、しかし強調するようにそう告げた森川が、続けてしっかり聞けよとでも言いたそうに俺の肩を強く叩く。

そう言われてこっそりと話題に上がっている人物の方へ視線を向ければ、櫂にカードの入っていない、代わりに馬鹿にするような紙切れを渡された三和が、大げさな泣き真似をしながらカードキャピタルの店員である戸倉ミサキへと擦り寄り、キックを一発もらって壁にめり込んでいるところだった。


「僕も今日いきなり言われたから何も用意してなくて…」


未だ小声で騒ぐ森川の話を軽く受け流していると、いつの間にか近くにまで来ていたアイチが困惑したように眉を下げて呟く。

きっと、優しい性格のアイチのことだ。日頃お世話になっている三和の誕生日プレゼントのことに頭を悩ませているのであろう。

だが、それは井崎だって同じことだった。

自慢ではないが、井崎自身も人に気を遣う性格であり、それが日頃一緒にいる相手の一大イベントがあると知ればなおさら、なにかお祝いをしてあげたいと思うのだ。

同じ、手のかかる友人(これは暗に櫂のことを指しているが、それを三和と仲良く話のタネに出来るほど、井崎は命知らずではない)を相手にしているからこそ、共感できるものもあるもので、皆に知られているかは分からないが、井崎と三和はよく言葉を交わすほど仲が良いと、井崎は自負している。

だからこそ、日頃の苦労を労うのに最適な誕生日を知らなかったことに、少なからずショックを受けているのである。


「井崎君も、知らなかったよね」

「ああ。なんかあげてやりたいけど、今から用意するのも大変だしな…。つか、三和も早く言えばいいのにな」

「驚かせたかったんじゃないかな?三和君、そういうの好きそうだし…」

「なんか分かっちゃうから困るよな…」


アイチも良い案が浮かばないのだろう。

助けを求めるようにこちらへ視線を寄越してきたが、井崎自身でさえもなにも浮かんでこないのだ、今のアイチと同じように眉尻を下げて苦笑するしか出来なかった。

確かに、先ほどのようにあそこまで大げさに騒ぐくらいなら前もって今日が誕生日だということを言っておけば、今日みたいな日と重なって信じてもらえないことも、またプレゼントが貰えないなんてことも起きなかったのだ。

だが、そこが三和タイシという男の性格が出たのだろう。

気を遣わせたくないのか、先ほどのアイチの言葉の中にあったように、皆を驚かせたかったのだろう。

だからこそ、あえて今日という日に彼は自身の誕生日を告げたのだ。と、井崎は勝手に結論付ける。


「(気なんて遣わなくていいのにな…)」


アイチ達Q4が大会に出ている間、三和や俺達は観戦席で雑談を交えながら彼らを応援するのが基本スタイルだ。

その間、森川やカムイの友人達の会話を時に広げ、からかい、常に人の輪の中心にいる彼は、自分よりも気を遣っていると思う。

だからこそ、今日みたいな日には気を遣ってほしくなかったと、井崎は残念そうに感じる。

高校生だからと、自分達よりも大人だからと、そんな小さなこと気にしてほしくなくて。


「おーう、どうしたよ中学生グループ!」

「三和君!あ、あのね、さっきの誕生日の話なんだけ…」

「三和!ちょっと来てくれよ!」


そうして井崎が一人悶々としていると、渦中の相手がとうとう輪の中へ入り込んできた。

そこですかさずアイチが話をしようとするのを、らしくなく大声で遮ると、俺は勢いのまま三和の腕を掴み店外へと飛び出した。




















「で、こんなとこまで連れて来て、井崎はどうしたいわけ?」

「あ……、それは、その…」


カードキャピタルから少し離れた路地裏、僅かに日が差し込む場所に向かい合うようにして俺は三和と二人きりになった。

三和はいきなり連れてこられたことを疑問に思いながら、けれども問い掛ける声音は優しいままに俺へと言葉を投げる。

だが、何の考えもなしに、ほぼ突発的に起こした行動の先のことなんて考えてなくて、井崎は途端に言葉を濁らせながら、なんとか話を切り出そうとする。


「その……今日、誕生日だって…」

「おう!なに、なんかプレゼントくれんの?さっすが井崎、気が利くねぇ!」


そうしてようやく決心し話を切り出せば、先ほどまでの態度が一変、三和は途端に嬉しそうにはしゃぎだした。

気が付けば今にでもプレゼントを受け取ろうと両手を体の前に差し出し、催促の状態になっている。

そんな反応をされてしまえば、いよいよ井崎は頭を抱えたくなった。

上手く誤魔化してしまうか、それとも正直に話してしまおうか。

うんうんと唸っていると、不意に頭に暖かい感触、三和の掌が置かれていた。


「なんてな!知らないの知ってたからさ。無理して用意しようと思わなくていいぜ?」


ぽんぽん、あやすように優しく撫でる三和の掌の暖かさに、ようやく肩から力が抜けた気がした。


「でもさ、俺、ずっと三和には世話になってると思ってるし、今もこうして気ぃ遣わせてるし、でも本当は俺くらいには気なんて遣ってほしくないし、なんていうかその、俺にくらいはなんでも言ってほしいと思うし…」


そうするともう、言葉が次々と溢れてきて止まらない。

文章になっていない、言葉の羅列が辛うじて会話として繋がっているくらいの拙さで、俺は言いたいことの半分以上も言えない状態で、ふと違和感に気付く。


「(どうして、俺は三和相手にこんなに必死になってるんだろう…)」


よく考えてみれば、俺と三和は友達と同じくらいの距離感なのだ。

普通、友人の誕生日にここまで思考を巡らせることなど滅多にない。

だけど、どうして三和が相手だと、こんなにも悩んでしまうのだろうか…。

分からない、形容出来ない、言葉に出来ない。


「だから、さ……あの、」

「井崎さ、俺のこと好きなの?」

「っ!ええ!な、なんだよ、いきなり!」


そんな中零された三和の呟きに、俺は瞬時に顔を発火させたくらいの勢いで赤くした。

だけど、それを否定することは、躊躇われた。

だって、見上げた三和の顔が、やけに真剣だったから。


「俺さ、嬉しいよ。そこまで井崎が一生懸命考えてくれたこと。だって、俺、井崎のこと好きだし」

「はぁっ!? え、ちょっと、待てって…ええっ!」

「言っとくけど、ライクの方じゃないからな。ラブだから、ラ・ブ!」


強調するように手でハートマークを作った三和が、それを俺の前まで持ってくる。


「井崎だって、本当は気付いてんじゃねーの?実際、なんで俺にここまで気遣うのか疑問に思ってるんだろ?」

「それは、確かにそうだけど……」

「ならさ、もう俺が形にしてやるよ。井崎のその感情を、さ」

「え……」


手のハートマークはそのままに、三和が身体を屈ませる。

綺麗な蒼灰の瞳が瞼の向こう側に消えて、それを視覚で確認したのと同時に、俺の唇は柔らかい感触に包まれた。

三和の唇に塞がれる、俺の唇。

風も、音も、時間も止まって。

呼吸さえも止まったみたいに、その間だけ、世界から全てが消えたみたいになって。

離れた瞬間、動き出した。


「だからさ、誕生日プレゼントは、井崎を頂戴」


その言葉と共に、俺の気持ちも、心も。



(恋が生まれた日)



今日から俺は、三和のモノ。