※バミューダ△と先導兄妹の話
※ユニットのキャラは捏造










「この子にしようかなぁ〜……。でも、この子も入れてあげたいし…。あ〜、どうしよう…」


難しそうに眉間に皺を寄せて、私達の新しい先導者(ヴァンガード)はその手を動かす。

その小さな掌の下に置かれているのは、私達<バミューダ△>に所属するアイドル達だ。

彼女、先導エミと私達が出会ったのはつい最近。

惑星クレイに住む私達を初めて見た彼女が「可愛い!」と、陶器の様に白い頬を赤く上気させて手に取ったのが始まり。


『よろしくね!』


にこりと、私達を見下ろしながら笑っていた彼女が、私達はすぐに気に入った。

実際、彼女の方も私達をとても大切にしてくれて、今もこうして限られた人数の中でバミューダ△に所属するすべてのユニットをいかに使おうかと思考を巡らせている。


「マイヴァンガード、悩んでるみたいだね」

「あんなに悩まなくても、マイヴァンガードがイメージした勝利に一番貢献できる子を使ってあげればいいのに…」

「心遣いは嬉しいけどね」


そう口々に、私達は言葉を零す。

そう、それでいいのだ。

確かに私達にだって、それぞれにアイドルの名を背負っていることに誇りとプライドを持っている。


―出来ることなら自分を選んでほしい。そう、思っている。


でも、それが常に最善かと言われれば答えは否。

清く、気高く、美しく。そして、時には臨機応変に。

それが、アイドルという地位で生きる私達を操るヴァンガードに相応しい。

その点において、先導エミと呼ばれる少女の優しさは少しの欠点になっていた。


「どうしたの?エミ」

「あ、アイチ!」


いよいよ本格的に頭を抱えそうだった彼女に、不意に傍から声を掛けた人物がいた。

私達が視線をそちらへ向ければ、そこには私達の住む海の色に良く似た蒼を纏った人物、彼女の兄である先導アイチがいた。

机の上でカードを広げ少女らしかぬ唸り声をあげる妹が気になったようだった。

兄なりの気遣いなのだろう。少しでも力になろうとして声を掛けたに違いない。

すると、その声に顔を動かし、彼を見た途端、彼女は先ほどまでの暗い表情などどこへやら。

パァッ、と音がするくらいに顔を綻ばせ、彼の服の端をぐいっと引っ張って私達の描かれたカードの前まで強引に導いた。


「あのね、アイチに聞きたいことがあるの!」

「な、なにかな…」

「この子たちをもっと上手に使ってあげたいんだけど、わたし一人じゃ難しいからアイチの意見が聞きたくて…」

「なら、このユニットはどうかな…?」

「どれ?……」


すっと指を指した先の私達を見下ろす二人の蒼瞳が、まるで深海のように澄んでいて、誰とも分からず息を呑む。

すると、彼女の兄、先導アイチの手が徐に私達のところに向かって伸びる。

そうして、彼女よりはいくらか大きい、けれど、その歳の男の子だったら確実に小さい方に入るであろう手が、私達に触れる。


「あ……」

「あったかい…」


そうして声を上げたのは、果たして誰だっただろうか。

小さく、柔らかな少女の掌の温もりしか知らなかった私達が初めて感じた感覚。

けれど、それは決して嫌悪の部類に入るものではなかった。

次々に私達に触れる彼の手が、温もりが、想いが、ひどく心地良くて。

それは、私達を応援してくれるファンの皆の気持ちや、想いに似ていて。

優しくて、強くて。


「…そういえば、お兄さんは<ロイヤルパラディン>のヴァンガードだったね…」

「“仲間の絆を大切にする”、聖騎士団のヴァンガード。なるほどね」


ぽつりと、思い出したように誰かの口から言葉が零れる。

よく見ると淡く光を放つ、彼が触れた場所を各々が触りながら、顔には笑みを浮かべて。


「私達は、素敵なヴァンガードに出会えたみたいだね」


気付けば皆が、そう言葉を零していた。


「うん。とっても暖かで、優しくて、強い兄妹に」

「力になってあげたいね」

「言われなくても!」


そうして二人へ視線を戻せば、二人はいつの間にか食い入るように私達を見つめ、何かを真剣な表情で言い合っていた。

その様子が微笑ましくて、それからは誰も口を開かずに、事の成り行きを見守っていた。

その胸には、誰もが同じ思いを抱いて。


互いを、誰かを大切に出来るあなた達に、力を貸そう。

あなた達の応援が、想いが、心が、私達の力になる限り。

私達ユニットは、いつでもあなた達の味方だから。

だから、どうか忘れないで。



(キミは、一人じゃないよ)



ね、そうでしょう?