※BBとBDの会話
※BBがマジェスティになる前の設定
※安定の捏造










「本当はお前になど協力したくなかった」


鞘の存在しない黒き剣の刀身をこちらに向けながら、<ブラスター・ダーク>は眉を顰めながら言った。

首元に近い位置で止められた刃へちらりと視線を向けてから、私は恐れることなく彼を見据える。

彼が力を入れれば、私はあっという間に絶命することだろう。

けれど、彼にその意志が無いことを分かっていたから、私はその剣を退かせることも、彼の言葉を遮ることもしなかった。


「お前は、俺の名前を奪い、居場所を奪い、世界を奪った」

「本当なら俺が、今のお前の名前を受け継ぎ、その勇気の剣で皆と共に道を切り拓くはずだった」

「お前が、俺の人生を狂わせたんだ」


つらつらと、彼は毒を吐き出すように憎しみを露わにする。

その言葉は、紛れもなく彼の本心であり、本音だった。

かつて、この私と<ブラスター・ブレード>という名を取り合った際に、剣の持つ勇気の力を発揮できなかった彼は、私を恨むのと同時に闇に染まった。

勇気の剣と対を成す、『覚悟の剣』を携えて、白き鎧を身に纏った私とは正反対の漆黒の鎧に身を包み、剣を交えたことだってある。

そして、私の大切な先導者(ヴァンガード)である先導アイチ殿を、その腕で抱いたこともある。

アイチ殿が私達、惑星クレイに住むユニット達と共鳴し、戦いの行く末を見通す力、“PSYクオリア”に溺れた時に私を捨て、代わりに彼を自身の分身として戦っていた時があったのだ。

闇に溺れた愛しき人を助ける時に、私は初めて自分の意志で彼と剣を交えた。

彼に憑依したアイチ殿と、一つの覚悟を掲げた彼と、白銀と漆黒を交えて、己の信念をぶつけて、戦った。

結局アイチ殿は自身で答えを見つけ出したことで、再び私達聖騎士団<ロイヤルパラディン>と共にあることを選択してくれたのだけれど。

目の前の彼は、それでも納得がいかないらしい。


「何故だ!なぜ、お前ばかりが…っ!」

「っ……」


激情を吐露するように、彼の怒号が剣を揺さぶり、私の首に傷をつける。

小さく走った痛みに微かに呻きながらも、それでも私は彼から視線を外すことは絶対にしなかった。

彼の全てを受け止めるまでは、彼の言葉に、心に、触れていたいと思ったから。


「けれど、そんなことを言ったところで、事態は何も変わらない。現実は、こうだ」

「……?」

「本当は分かっているさ。なぜ、俺ではなくてお前なのかも、な」

「ブラスター・ダーク…」


と、今までの悲壮な顔を不意に綻ばせ、彼はようやく私の首元から剣を退けた。

先ほどまで高ぶらせていた感情を落ち着かせるように一呼吸してから、彼にしては珍しく、否、決別して初めて見る笑顔を浮かべながら、彼は言葉を続けた。


「剣を交えなくても、本当は分かっていたんだ。だが、それでは俺の気が収まらなかった。あの時の俺は幼く、お前を憎むことでしか自分を保つことが出来なかった」

「そう、だったのか…」

「でも、こうして再びお前と全力でぶつかり合うことで、俺はようやく、俺自身を受け入れることが出来た」


そ、固い鎧に包まれた手で、自身の愛剣に触れる。

その手つきは、やはり優しくて。

まるで、自身の今までを共にしたことを労うようだった。


「だから、俺は決めたんだ。お前に、この剣を託すことを」

「いきなり何を…っ!」


そして、次の瞬間には再びこちらを鋭い眼差しで射止めたかと思うと、先ほどまで撫でていた剣を今度は私の胸の前へを差し出した。

突然のことにもちろん事態の掴めない私は、当然のように彼に問う。

すると、今度は声を潜め、まるで秘め事でも話すように彼は言葉を紡いだ。


「奈落帝が目覚めた。お前も、その目で見ただろう?」

「<ファントム・ブラスター・オーバーロード>……。雀ヶ森レンが手にすることは、私でもおおよそ予想がついていたが…」


先導アイチが憧れ、目標としている櫂トシキが、つい先日、目の前のブラスター・ダークの所属する漆黒の騎士団<シャドウパラディン>を先導する雀ヶ森レンと戦った時に見た、“ブラスター”の名を関する奈落竜が進化した姿。

それが、<ファントム・ブラスター・オーバーロード>だ。

目の前で繰り広げられる一進一退の戦い、迫りくるほどの禍々しさを纏った暗黒の竜と、紅蓮の竜。

あの竜に立ち向かい、敗れた紅蓮の竜の悲痛な呻きが、今でも頭の中に蘇るようだ。


「俺はシャドウパラディンに属する者だが、今回ばかりはお前に、力を託そう。だから、この剣を使え」

「この、剣を…」

「お前の持つ“勇気の剣”と、俺の持つ“覚悟の剣”。その胸に、鎧に、力として宿せ」

「だが、なぜそこまでして、お前は私に力を託そうとする」


差し出された剣を取ることをせず、私は彼に問い掛ける。

なぜ、彼は自身が所属する勢力の主を裏切ってまで、私に力を貸そうとするのだろうか。

不思議で、ならなかった。

すると、その問いを受けた彼は、ふと笑顔を歪め、不敵に微笑んでから、こう言ったのだ。


「俺も、お前と同じで“先導アイチ”を愛しているからだよ」


と。


「………やらないぞ」

「いずれ、俺自身の力で奪い取って見せるさ。だから、今はお前に負けてもらうわけにはいかない」


「つまり、私とお前の戦いは一時休戦、ということか?」

「そういうことだ」


ピン、と張り詰めた空気の中で、互いに冗談交じりに言葉を交わす。

なるほど、だからというわけか。と、勝手に結論付けながら、私はとうとう彼の差し出す剣を受け取った。


「負けるなよ。お前を倒すのは、この俺だからな」

「ああ、この剣に誓う。私は、お前の覚悟を無駄にはしない」


とん。彼の鎧に覆われた手が拳を作り、私の心臓を叩く。

その拳に秘められた覚悟に、私は誓うように真剣な顔で彼を見据える。

そんな私の心を感じ取ったのだろう、彼はしかし再び顔を歪め、言い聞かせるような口調で言った。


「だが、勘違いするなよ。俺はお前の全てを理解したわけではない。今まで否定してきたお前を、理解しようとしただけだからな」

「素直じゃないな」

「お前もな」


ふ、と、互いに笑みを零す。

その瞬間だけは、私達が名を奪い合う時に戦っていた時の関係のように、穏やかで優しい時間だった。

互いを高め合う存在、ライバル達が束の間の友情を育むかのように。


「ありがとう。ブラスター・ダーク」

「ああ、頑張れよ。ブラスター・ブレード」


私も拳を作り、彼の拳とぶつけるようにして合わす。

彼の覚悟と、私の勇気を合わせれば。

怖いものなどなにも無い。そんな気がした。



(受けよ。その身に)



勇気と覚悟を受け入れて、彼は光を導く。