※おまけのギャグです
※ギャグです!










アイチとブラスター・ブレードが甘い時間を過ごしている一方、聖騎士団が拠点とする城では騒動が起きていた。


「アイチ君!チョコレートを頂きに来ましたよ」

「待てレン。アイチのチョコを貰うのは俺だ。お前はさっさと自分の城へ帰れ」

「おや、それはこっちの台詞ですよ、櫂。君こそ早く自分の国に帰ったらどうです?」


そう、聖騎士団と対を成す漆黒の騎士団《シャドウパラディン》のヴァンガードである雀ヶ森レンと、《かげろう》のヴァンガードである櫂トシキがそれぞれ奈落竜、帝国の暴竜を引き連れ城へ訪れたのだ。

これに対抗、いや追い出そうと立ち上がったロイヤルパラディン達の攻撃を躱しながら、二人はもう何度目になるか分らない口論を繰り返す。


『アイチの手作りチョコレートを貰うのは自分だ!』と。

もちろん、ロイヤルパラディンの仲間達はアイチがチョコレートをあげる相手を知っている。

そして、今まさにその二人が甘いひと時を過ごしているであろうことも。

二人の仲を祝福する自分達にとって、彼等の来訪はなんとしても阻止しなければならない事だった。


「まったく、何も知らないのも考え物だよね!こういった厄介な事に発展するって想定も出来るからさっ!」

「本当!けど、面倒くさいのに好かれちゃうヴァンガードも問題だと思うっ!」


魔導書を広げ、魔法を放つマロンが苦言を呈す。

それに同意しながら鞭を揮い、ハイドッグ達と攻撃を続けるアカネが言う。


『雀ヶ森レン』、そして、『櫂トシキ』。


この二人はアイチが憧れとしている存在であり、目標としている人物でもある。

そこまではまだいい。だが、対する二人のアイチへ向ける感情は思慕と呼ぶには不適切なものであった。

あの二人は、アイチのことを恋愛感情として好きなのだ。

暇さえあれば二人は交互にアイチを口説きにこの城へ訪れる。

そして運悪く二人が揃ってしまった日にはこの城が戦場になるのも日常茶飯事だった。


ブラスター・ブレードよりも分りやすいアプローチをあの二人はしているというのに、肝心のアイチは全くそれに気付くことは無い。

それを哀れに思う反面、早く真実に気付き打ちのめされて欲しいものだと思う仲間達だったが、きっと目の前の二人はそれくらいでめげる人間ではなさそうだということを身を持って知らされたので、毎回こうしてアイチに知られない様に追い払うのだった。










「くそっ!私だってアイチからチョコレートを貰いたかったさ…」


自身の主である雀ヶ森レン達がロイヤルパラディンの騎士達と攻防を繰り広げる様を遠目から眺めながら、《シャドウパラディン》に所属する<ブラスター・ダーク>はぎりりと歯を噛み締める。

彼もまた、先導アイチに恋慕の情を向ける者であった。

だが、彼はアイチが自身と対を成す勇気の剣士、ブラスター・ブレードとすでに恋人関係であることを知っていた。

しかし、諦めきれないのだ。

一時は自身を『分身』と呼び、付き従ったからこそ、アイチが彼を選んだことが悔しくてならなかった。

「マスター。いい加減諦めなよ。いつまでもアイチ様に執着してると、いつかマイヴァンガードみたいになっちゃうよ?」

「煩い。カロン、お前にはこの気持ちなど一生分かるまい。手に入れる寸前であっさり振られた私の気持ちなど…」

「面倒くさ…」


完全に小姑のようになったダークに対し、カロンは呆れたと溜息を吐きながら未だ悔しそうに唸る彼へと歩を進める。

その手に握られているのは、黒い包装紙に赤いリボンの巻かれた包みがあった。

先導アイチが彼、ブラスター・ダークにとカロンに渡していった、正真正銘、『アイチの手作りお菓子』である。


―『これからもよろしくね。…って、伝えておいてくれるかな?』


そう言ってこの包みをアイチから渡されたのが数時間前。

もちろんカロンの分の菓子も渡して去って行ったアイチを思い出しながら、カロンはフッと笑みを零す。

アイチのこの優しさを馬鹿にしつつも、この暖かさがカロンは嫌いではなかった。

随分彼に感化されてしまったものだ、と今度は自嘲の様な笑みを浮かべ直し、ようやくカロンはマスターであるブラスター・ダークの肩をそっと、叩くのであった。



(St. Valentine's day)



僕を支える君達に、愛と感謝の気持ちを込めて。