ボクの世界が、音を立てて崩れた。



―『人の心を持たぬバケモノ』



ゲーチスはボクにそう言った。それは、彼からの生まれて初めての拒絶。

奴のことを父として盲目的に慕っていたわけではないけれど、その言葉は深くボクを貫き、傷口を広げるように身体にめり込んでいく。

こんな痛みは初めてで、今にもこの感情に溺れてしまいそうなのに、立っているのもやっとなのに、ボクはこの痛みに逃げることが出来ないでいる。


それはきっと、ヴァイスのせいだ。


彼女がボクを拒絶しなかったからだ。
今、ボクの目の前でゲーチスと対峙している彼女の瞳が、そうすることを許さなかったからだ。

彼女はボクにとって不思議な存在だった。

特に夢も目標も無いのに出会う先々でプラズマ団の邪魔をしてくる。バトルをしていても、何を考えているのかさえ分からない瞳で、どこを見ているのか。


いつも空しか移していなかったのに。


今の彼女の瞳には、明確な闘志が灯っている。

あの光は、ボクがゲーチスに「バケモノ」と言われた瞬間、激しく燃え盛った。

それは、ボクを心配してくれていると受け取っていいのだろうか?

ボクは必要とされていると、自惚れてしまっていいのだろうか?


解らない、分らない、ワカラナイ!


気が付くとバトルは終わり、ゲーチスはチェレンとアデクによって連れて行かれており、壊れた城の王座には、ボクと彼女の二人きりしかいなかった。

彼女は息を切らせていたが、笑顔でボクに手を差し伸べ、言った。


「…よかった。無事で…」

「……っ!」


御免、ごめん、ゴメン!


君の手は取れない。今君の手を取ってしまったら、ボクはきっと壊れてしまうから!!

だから待ってて、いつかきっと会いに行くから。
その時もまた、笑って手を差し伸べてくれないかい?


そうしたら、今度こそ笑って君の手を取るよ。

今みたいな涙で汚い顔じゃなく、心からの笑顔で!


だからその時まで、



(生まれたばかりの感情におやすみ)