これの続き





「あれ?ねぇ篠ノ井、そのマフラーどうしたの?」

「これか?……ふふふ、聞きたいか」


週明けの月曜日、残り少ない登校日数と学校生活を過ごす為に学校へ登校し、割り振られた自身の教室の席へ座れば、同じように登校したばかりの少女、東信が俺が新しく身に着けている防寒着に目敏く気付き、問い掛ける。
俺は待ってましたとばかりに通学鞄を机上に置きながら席に着く彼女の方へ振り返れば、同時に浮かべていた笑みに嫌なものを感じ取ったのか、あからさまに地雷を踏んでしまったと言いたげな顔で再度声を掛けてくる。


「うっわ、聞きたくないけど一応聞いとくわ。で、それどうしたの?」

「これはな〜。なんと、あの坂城さんに貰ったクリスマスプレゼントだ!」

「なっ!アンタ坂城さんとクリスマス遊んだのっ!?」

「おう!デートしたぜ」


語尾に音符が付きそうなほど声を弾ませ、俺はマフラーを触りながらそう告げる。
答えを貰った東信はというと、目を丸くしながら語気を荒げて俺との距離を詰めてきた。

その背後に纏うオーラはとても不穏なものであったが、俺は今幸せの絶頂にいると言っても過言ではない。
奴の一睨みなどまったくもって俺に効果は無かった。


「〜〜〜ずるいっ!私も遊びたかったのにっ!!」

「お前は上田や家族と遊んでただろ!それで充分じゃねーか!」

「よくない!家族たちは相変わらずしょーもないことで喧嘩して中信怒らせるし、上田は上田城でプレゼントばら撒いて市長に怒られるし!もー散々だったんだからっ!! なのにアンタは坂城さんとデートしてたなんて!」

「ふふん。油断しているお前が悪い!今年の聖夜は俺がもう頂いてしまいました」

「ム・カ・ツ・ク〜〜〜!」


地団駄を踏みながら抗議を続ける東信に、俺は自慢するように言葉を紡ぐ。
そんな東信は自身の散々だったクリスマスを比較しながらさらに悔しそうに此方を睨み付けてくる。

けれどもうクリスマスは過ぎてしまった。
言葉の通り、今年の彼の聖夜を共に過ごしたのは自分ただ一人だけ。
これを誇らずにいられるか?

互いに彼を取り合うように遊びに誘う東信が誘っていないのには最初は驚いたが、きっと彼女は断り切れなかったのだろう。家族とは元々一緒に過ごすつもりだったのは分かるが、上田に引っ張られてしまっては素面の彼女は抵抗しきれない。

それに関しては可哀想だとは思うが、彼と遊ぶことはまた別の次元なのだ。


「けど、まあいいわ」

「?今日はやけに早く食い下がったな…」


すっかり勝者気取りで踏ん反り返っていた俺は、けれど今日に限ってやけに立ち直りの早い彼女に疑問を抱く。
すると、今度は向こうが勝ち誇った笑みでこちらへ指を指しながら高らかに言い放った。


「来年のバレンタインでリベンジするからっ!」

「あっ!」


東信のその言葉に、俺は意表を突かれたように大きな声を出しながら思い出した。

バレンタイン。

それは女子にとってはとても大きな勝負の場。
彼女はそのバレンタインのお返しの日とも呼ばれる「ホワイトデー」に賭けることにしたのだ。


「ホワイトデーに可愛いの貰っちゃうもんね!」

「ずりぃ!」

「アンタは今年のクリスマス過ごしたでしょ!ならそれで充分じゃない!」

「女であることを武器にして!汚ねぇーぞ東信!」

「なんとでも言えばいいじゃない!あーあ、男の嫉妬は見苦しーい!」


先程までとは完全に形勢が逆転してしまった。
今度は俺が悔しさを隠せずに東信に言葉で噛みつけば、彼女はほほほと女王気取りのような声で笑っている。
苦し紛れの抵抗も意に介していないようだ。しっしと振られる手に、何処かへ行けといわれていることを読み取り、さらに二人の間の火花が激しい音を立ててぶつかり合う。


「……坂城さんも可哀想だね」

「確かに…」


教室の一角で睨み合う俺達は、自分達に注がれる視線と彼等の意中の人間に憐みの言葉がかけられているのに全く気付くことは無く、そのまま始業のチャイムがなるまで言い合いを続けていたのであった。



(君と過ごしたい、『特別な日』)



誰にも譲りたくないっ!


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