※レンアイのような、レン→アイ










「どうですか?新たな君達の先導者。……先導アイチ君は」


細めた双眸から怪しく光る虹彩を放ちながら、自身の掌に収めたデッキに問い掛ける。

その視線の先には黒き剣を傍らに携えた剣士をはじめ、背後に闇を背負った者達が広がっている。
そしてそこから聞こえてくるのは堕落した光の使者に歓喜する、雄叫びとも呼べるほどの歓声。

自分達が見限り離反した聖騎士団が溺愛している人間を手中に収めたことによる喜びを抑えようともしない歓声の威力に煩わしさは全く感じなかった。
寧ろ、心地良さを覚えた。と、レンは上等な革製のソファに深く腰掛けながら満足げにほくそ笑む。


「よっぽど気に入ったみたいですね……。まぁ、それを言ったら僕もなんですがね…」


ゆらり。未だ光が放たれたままの双眸の中で虹彩が揺れる。


「まさかこんなに近くに“この能力”を持った人間が他に居るとは思わなかったですよ。そして、その人物がまさか彼だとも、ね」


四年前の出来事を境に自身の前から去った男、櫂トシキ。彼をレンは求めていた。
そして、全国大会の会場で再び再会することが出来たというのに、櫂の隣に居たのは弱く臆病な少年だった。

全国大会でさえも余裕で他を圧倒するほどの力を持ちながら、何故櫂はあの冴えない少年の傍にいるのか、初めは不思議でならなかった。

同時に、憎らしくもあった。

彼と互角の力を持つ自身を選ばず、櫂があの少年、先導アイチを選んだことに。


―『君は櫂にふさわしくない』


自身のチームメイトである新城テツによって敗北させられ、哀しそうに顔を俯かせる彼に、僕はキツク言い放った。
彼と櫂の関係がどこまでのものかは知る由もないが、ほぼ初対面と言っていい僕から見ても、彼が櫂に憧れているのはすぐに分った。

だからこそ、レンは彼が反応する櫂という言葉をわざと選び、彼を詰った。

横顔から見えた彼の絶望した表情は、今も鮮明に思い出せる。
勝敗など関係なく、ただ純粋にファイトを楽しんでいた者が、次第に強さを渇望し始めるあの表情。

程なくして彼は力を求めるようになり、それに比例するようにあの力、“PSYクオリア”を発現させた。
カードの声を聴き、デッキの流れを読む能力。それこそが、PSYクオリアの力。

彼に出会うまではこの能力を持った人間は自分一人だけだと思っていたからこそ、レンは嬉しかった。
そう、嬉しかったのだ。


―「彼なら、先導アイチならきっと、僕のことを理解してくれる」


レンはまだ気付いていなかったが、その事実を知った時、内心とても喜んでいたのだ。
異質な能力を持つ自分と同じ存在、そして、近い存在。
一人ぼっちだった僕に出来た、初めての仲間。

レンが求める人間に櫂トシキの次に、先導アイチが加わったのはそのすぐ後。
この能力を嫌い自身から離れていった櫂は、今度は彼の元から去った。

ずっと憧れていた櫂が自身の元を去り、その事実に憔悴した彼を闇へ誘うのは簡単だった。
櫂が否定したあの力を同調させ、彼を黒に染める。

そうして白き光の使者が闇に堕ちた時のあの快感。支配欲、征服欲が僕の心を満たす。
闇が光に恋い焦がれる気持ちが、その時初めて分かった。

自身の授けたデッキ、そして新たな力。
かつて彼が愛用していた白き剣士と瓜二つな黒の剣士を「分身」と呼んだ時の彼の恍惚とした顔。


「潜在する光が強ければ強いほど、闇に堕ちた時その輝きは一層強くなるんです…。純真無垢なあの輝きは、闇の中でも一際輝いていますよ、櫂…」


今頃は闇に堕ちた少年を救おうと足掻く、かつての友人の姿を思い浮かべながら、レンは鼻で笑う。
ピンクジルコンの輝きを放つ双眸の向こうに、トルマリンクォーツの輝きを見ながら。


「“対立したものの結合”。まさに今の彼にぴったりな輝きですね…」



(広がる闇にジェミニは堕ちる)



さぁ、早く僕に溺れてください。先導アイチ。

“媚薬”と呼ばれる輝きを持つ、この僕の手に!