※アイチとBBの出会いを捏造
※幼少櫂君は既に<かげろう>使い設定










―『こいつをやるよ。そいつは結構強い剣士なんだぜ!』


そう言った櫂君から渡されたそのカードが、僕の世界を照らしたんだ。




















「“ブラスター・ブレード”………。騎士団の剣士なのかぁ…カッコいいなぁ…」


一体何が起きたのかと問い詰めたくなるほどボロボロにされた身なりのまま、彼はカードを両手に握り締めたまま部屋のベッドにごろりと横になる。

照明の光を真正面から受けつつも、彼の視線は私に一心に注がれており、少し気恥ずかしくなる。
だが、目の前の少年はまさか私が意志を持っていることを知る由も無いので、澄んだ蒼の双眸は相変わらず私が描かれた一枚のカードに釘付けになっていた。

櫂トシキという明るく活発な少年が私の初めてのマイヴァンガードだった。
しかし彼は既に惑星クレイという世界に住む、帝国の暴竜が所属する国家《ドラゴンエンパイア》を先導する者となっていた。
対する私はそんな彼らを相手に日々戦争を繰り返す聖騎士団が駐屯する国家《ユナイテッド・サンクチュアリ》の人間だ。

彼にとっては必要の無い存在。けれど彼は私を手放すことなくこの少年の手に渡るまで所有していてくれた。
きっと、何か理由があってのことだろうと、私は毎日を彼の用意したデッキケースの中で過ごしていた。

そして今日、満を持して目の前の“先導アイチ”という少年に彼が私を託したのだ。

所々に生傷を作り悲しげに下げられた眉に、痛々しさを覚えたのも束の間。
ユナイテッド・サンクチュアリの空の様に澄んだ蒼の瞳に、私は暫し見とれてしまった。


―『いいか、イメージはお前の力になるんだぜ!』


そう言って胸を張る彼に、少年は何を想ったのかは分らない。
けれど、今こうして私が少年の手元にあるということは、少なからず彼も今の世界から抜け出そうとしている結果なのだろうと勝手に結論付けた。


「僕も、君みたいに強くなれる……かなぁ……?」


今まで眺めるだけだった少年が、不意に言葉を零す。
その顔は彼の言葉に、そして自身の覚悟に迷っていることがありありと分かるほどに歪んでいた。
小さく幼い少年が見せるには、酷く沈んだ表情に心が痛む。

結局のところこの世界ではカードに描かれただけのちっぽけな存在の私では、彼を勇気づけることも、背中を押すことも出来ない。
彼自身の覚悟が無ければ、未来は開けないのだ。

諦めてはいけない。そう心の中だけで目の前の少年に告げる。
それが伝わったのかは分らないが、そう告げた瞬間に彼の頬が緩み、彼は私に向かってにこりと微笑みかけてきた。
彼の手に渡った私が初めて見た、あどけない少年の笑顔。


「出来るよね?今は無理かもしれないけど……きっと、いつか君みたいに強く。……ううん、ならなくちゃ!」

『………っ!!』


そして、幼いとは形容しがたいまでに固い決意の言葉。

なるほど、何故私が彼の手に渡ったのかが分かった気がする。
私とこの少年は、出会うべくして出会ったのだ。


「でも、僕はカードファイトしたことないからなぁ……。明日、また櫂君に会って聞いてみよう。いると、いいな…」


むくりと身体を起こした彼の顔は、私を先導し自身の小さな世界を広めようと瞳を輝かせている。
そんな彼に、私も力を貸してみたくなった。


「これからよろしくね?<ブラスター・ブレード>!」

『私の方こそ、これからよろしくお願いします。先導アイチ殿。いや、……マイ、ヴァンガード』



(『櫂君!僕も、ヴァンガードしたい!』)



そうして窒息しそうな世界から抜け出そう。