※グリゴで海賊パロ
※海賊グリーン×商船の船員ゴールド
※個人的な贈り物
※幸ちゃんに捧げる!





「ふぅ……」


箱詰めされた荷物が入った箱をドカリと置き、オレはその箱に隣り合うように座った。
重い荷物を運んでいたからか、下した時につい疲労を滲ませたため息が出た。

ちらりと辺りを見回せば、大きな船の中を自身と同じように箱を持って運ぶ仲間が忙しなく動き回っていた。

彼等から視線を外して空を見上げれば、快晴の青空の中を海鳥が泳いでいる。
続けて船のマストを見る。風向きも申し分ない。

今日は絶好の航海日和だ。

商船の船員として働くオレは、主にジョウト地方からカントー地方を行き来する船に乗り込んでいる。
船員の数はオレを含めて二十人弱。大きくもなく、小さくもない。どこにでも存在する商船の一つだ。

いつもはジョウトで採れた野菜や果物。そして地方で作られている工芸品をカントーへ運ぶのだが、今日は違った。

もう一度箱へと視線を戻す。
箱に焼印されている文字を読めば、そこには“危険物”と書かれていた。

多分、この箱の中には軍隊や海賊が使うような銃器が詰められている。
分かる人にしか分らない、微かに香る火薬と硝煙の匂いが、先ほど鼻腔をくすぐった。


「(きっと、普段こんな荷物と無縁のこの船にこの荷物が積まれたのは、海賊達の目を欺く為だろう…)」


きょろきょろと海原を見回す。
幸い、海賊船らしきものは“まだ”見当たらなかった。


「(このまま見つからずに目的地に着いてくれよ)」


ここ最近、ジョウト地方からカントー地方の海域には、海賊船が現れるらしい。
といっても、実際オレが乗るこの船は襲われたことがないからなんとも言えないのだけれど。

聞いたところ、その海賊船と言うのはこの船と同じくらいの大きさで、乗っている海賊達は皆とても武術に長けているという。

多分、そのせいだろう。
その船以外にこの海域に海賊船が現れるということは未だあったことが無い。

いわば、この海域はその船だけの縄張りとなっていると言っても過言ではない。

けれど、その海賊達は一般的な海賊達とは一線を画しているらしい。
襲われた船に乗っていたオレと同期の仲間が言っていた言葉が蘇る。


『あの船に乗っている海賊達は、武器や食料を盗っていくのは分かるんだけどさ、それ以外にも探しているナニかがあると思うんだよ…』

『ナニかって…何だよ?』

『知ってたら俺達だってこんなに苦労してねぇーよ!それに、見つかってないからまだ被害に遭う船があるんだろうがっ!』

『悪い悪い。…でもさ、物を奪うだけなんだよな?』

『そうそう!俺達にとっちゃそれが救いだぜ。なんせ、海賊に襲われたら最後、俺達船乗りに未来は無い。って言われてるくらいだったからな』


そう、人を襲わずに物だけを奪って去っていく。
それが、その海賊達が他の海賊達と一線を画している所なのだ。

自分達の食糧以外には無駄な殺生は行わない。
オレ達船乗りにとって、海賊は言ってしまえば死神のような存在なのだ。

実際、仲間の何人かはその海賊達に襲われたらしいが、誰一人として命は奪われておらず、今もこうしてオレと笑いあうことが出来るのだ。


「(でも…、探しているモノって一体何なんだろう…)」


それが、彼等が殺生を行わない理由に繋がっているのかは分らない。
その理由を知りたくはあるが、まあ、オレには一生縁の無い出来事だから無理なのだろうが。


「海賊達も、こんな小さな商船なんてはなから狙ってなんかいないだろうしな…」


海賊達にとっては、この船に積まれている荷物なんて大した価値も無いのだろう。
一度たりとも襲われたことが無いのがそれを物語っている。

そこまで考えて、漸く自身の考えが杞憂だということに気付き、オレはこれ以上サボっていると船長にどやされるなと思い、荷物を運ぶ作業に戻ろうとした、その時、





ド クン





「…………っ!?」


不意に、胸の辺りが重く脈を打った。

上着に手を入れ、首から下げていたものを取り出す。


「(今のは、“これ”が動いた……のか?)」


掌に収まる大きさの首飾りは、オレが以前カントーとは違う地方の港に荷物を届けた時に拾ったものだ。
太陽を形をした澄んだ金色の輝きを放つそれは、とても高価な宝石のハズなのに、まるでゴミを捨てたかの様に無造作に道に落ちていたのだ。

誰かが落としたのは目に見えて分かった。
だが、それを港近くにいた警備兵に届けずにこうして肌身離さず持っているのは、単にこれが他の人間の手に渡ってほしくなかったからだ。

服から取り出し、太陽の光に透かす。
きらりと光るこの不思議な首飾りに、オレはひどく魅せられたからだ。


「……ん?」


だが、いつもと様子が違う。ような気がする。
それは、先ほど感じた拍動が原因だろう。

確かに、この首飾りが脈を打ったのだ。間違いない。

それに、いつもと違うと感じるのには、他にも理由がある。
宝石の輝きはいつもと変わず綺麗なのだが、澄みわたった金色のその中に微かに緑色が混じっているような…。


「海賊が現われたぞっ!!」

「各自、武器を持って戦闘準備っ!!」

「っ!? 海賊?! どうして今日に限って……っ!!」


目を凝らしてその色をもう一度見直そうとした時、甲板の方から仲間の叫び声が聞こえる。続けて、武装の準備をしろという指示も怒号のように響き渡った。
その声は船中に響き渡り、船員の誰もが動揺し始めた。

海賊が、とうとうこの船にも狙いを定め、襲ってきたのだと。

荷物を持ち上げようと屈めていた身体を起こし海へ視線を向ければ、船の前方から大きな海賊旗を掲げた船がものすごい速さでこちらに向かっているのが見えた。


「なんとか逃げ切れないのかっ!!」

「無理ですっ!! この距離じゃ逃げてもすぐに追い付かれますっ!! それに、今日は重い荷物ばかり積んでるんですよっ!! いつもよりスピードなんて出ないですっ!!」


この商船を取り締まる船長が、舵を取る仲間に指示をする。
だが、いつもより重い、銃器を積んだこの船は彼の言う通りスピードが出ない。

それに、この船はもともと安定したスピードで安全に荷物を届ける為に設計された船なのだ。
元よりスピードなど出るはずもない。


「船長!来ますっ!!」

「お前等っ!! 絶対に海賊にこの荷物、渡すんじゃねぇぞっ!!」

「ハイっ!!」


そうこうしている内に、とうとう海賊船との距離はほぼゼロになってしまっていた。

こうなったら腹を括るしかない。
船長の怒号を胸に、それぞれが自前の武器を前に、海賊達へ立ち向かおうとした。
オレもそれに倣うように、そして今しがた持っていた荷物をなるべく人目に付かない場所へ隠してから、腰に下げていた剣を鞘から抜き取り海賊達を出迎えた。




















「ちいせぇ船のくせに、船員がいっちょまえに武器なんか持ってんじゃねーよ!」

「くぅっ!!」


ガキンと鉄が擦れ微かに火花が散る。

海賊達の方が力も武器も優れているので、オレはあえて接近戦を避け、ある程度の距離を保つ為に自身の剣で受け止めた相手の剣を横へ流すようにして間合いを取った。

海賊達がこの船へ乗り込んできて早数分。小さな船の甲板はあっという間に戦場と化した。

ただ、この海賊達を目の当たりにして驚いたことが一つ。

オレの相手をしている海賊は驚くことにオレと同じくらいの年の人間ばかりだったということだ。
ちらりと周辺を見回してみても、海賊達の平均年齢は多分十代から二十代前半で構成されていることくらいすぐに分った。

海賊の数は以外にも少なく、ただでさえ船員の数が少ないこの船の人数と同じくらいだということも、こうして初めて遭遇したことで分かった。
だが、人数が少ないのにこの身のこなし。
この船の船員も多少武術に長けていたので今はなんとかこの場を凌ぐことが出来ているが、それも時間の問題だろう。

それほどに、この海賊達は手強いのだ。


「(何か……少しでもいいから時間を稼げないのか?いや、稼げなくてもいい。こいつらの攻撃の手を止めることが出来れば…っ!!)」


未だ相手と一定の間合いを保ちながら、頭の片隅で彼らを止める手段はないかと考えてみる。

この海賊達が人間に危害を加えないということは分かってはいるが、それでも、今自分達が積んでいる武器は絶対に渡してはいけない。


「そっちが動かないならこっちから行くぜっ!」


とうとう痺れを切らした相手がこちらへ向かって飛び込んでくる。
今の距離から突撃されたら凌げるか分らない…っ!!


「!? “パーレイ”っ!!」

「…なにっ!?」


そんな時ふと浮かんだ言葉が、口から飛び出した。
途端に相手は動きを止め、こちらに対して驚いたような視線を向ける。

どうやら、この言葉の意味が通じたらしい。オレは悟られない様に小さく息を吐いた。


“パーレイ”


それは、海賊船を操る船長へ交渉を迫る時に使う言葉だ。
そして、この交渉は必ず実行されなければならない。

加えて、この交渉が成立するまで海賊達はその人物、または物に手を出すことは出来ない。

いずれこの船も襲われるだろうと思っていたオレは、なんとかして彼等を撒くことは出来ないかと過去の思想家や海賊をテーマにした小説を読み漁ったりした。
その時に目にしたのがこのフレーズだった。

始めはただの造語だと思っていたのだが、どうやらこの言葉は正真正銘、海賊達の間では通ずる言葉らしい。

それなら話は早い。


「さあ、お前達を取り纏める船長(キャプテン)に会わせてもらおうか」