※まさか続くとは思わなかった






(Said.金)


「何、してんだよ」


雨が降りしきる空を見上げたまま、だらしなく口を開いたままのオレに、彼はそう問い掛けた。




















「助かりました。あそこでグリーンさんが通りかからなかったら長いことあの場所で足止め食らってましたからね」

「飛行ポケモンとか持ってなかったのかよ」

「持ってましたけど、こんな雨の中飛ばせるのは可哀想だしヘタしたらオレも風邪引いてましたからね」

「まぁ、そうだけどさ」


グリーンさんに声を掛けてもらえたのはオレにとっては不幸中の幸いだった。
彼は生業としているジムリーダーの仕事もあるだろうから、あの時間にはあの場所には現れないと思っていたからなおさらだ。
今日はジムの挑戦者もいないし、外はこの通りあいにくの雨模様だから早めにジムを閉めて家路を辿っていた彼の目に、オレの姿は偶然に止まったらしい。

しゃがみ込んで空を見つめるオレの背中を叩いて、一つしかない傘に無理矢理引き入れくれた彼は、にかっと笑って歩き出した。
今は他愛の無い話を交えながら、ここから近い距離に位置するグリーンさんの家へと向かっていた。

初めこそは気付かなかったけれど、ふと彼の肩が濡れていることにオレは気付いた。
そんなに大きくない傘だったからだろう。彼の言葉に相槌を打ちながら自身の肩も良く見れば、しっとりと濡れていた。
グリーンさんは話に夢中でまだ自分の服が濡れていることに気付いていないかと思った。

けど、そのさっきまで続いていたグリーンさんの声が不意に止んだ。


「…………」


そっと、彼にバレないように傘の方へ視線を向ける。
さっきまでは互いの身長に対し平行だった傘の位置が、若干オレ寄りに傾いているのを発見した。
その結果、今度こそグリーンさんの肩が濡れる面積が広くなったが、彼は多分、自分よりもオレが風邪を引かないことを優先したのだろう。

そんな彼の優しさに胸が締め付けられるのと同時に、「ああ、オレは愛されてるな」なんて身に染みて感じてしまった。


「なんか、恥ずかしいですね。相合傘って」
「そうか?恋人同士なんだから別に普通だろ?」

「………」

「っ!? ど、どうしたんだよ急に」

「いえ、そう言われればそうだなと思って。なら、オレがこうしても全然いいですよね?」

「……いいよ」


そんな照れ臭い気持ちを隠すようにオレが放った言葉に彼は特に意識していないようにそう返す。
まぁ、この状態が他の誰かに見つかったら彼も少しは恥ずかしいとは思うが、それでも彼ならこの状態が少しでも長く続けばいい。なんて思うんだろうな。

だったら、それまではこの人に精一杯甘えよう。

一人そう決めて、オレは彼の腕へと自身の腕を回し、寄り添った。
急なオレの行動にさすがに驚きを隠せなかったグリーンさんは動揺したまま何事かとオレへ問い掛ける。
だけど今更ながらに羞恥が襲ってきたオレは彼の顔なんかまともに見れなくて、問い掛けてきた彼を見ることなく、すり、と腕に頬を寄せたままぽつりと呟いた。

彼も、そんなオレのわがままにたった一言了承の意を唱えてからは、何も言わなかった。

それ以上は互いの口から言葉は零れなかった。
だからオレも、それ以上は言葉にはしなかった。



(愛、合い、傘)



二人でそっと、暖かい想いと愛が降る道を歩いて帰った。