※ヒビキ×大人ゴールド
※パロ設定
※四月馬鹿の残骸(でも結構本気)





僕には、好きな人がいる。
けど、大きな声では言えない。
なぜならその人は男で、僕の、


「おはよう、ヒビキ」

「おはよう。ゴー兄ちゃん」


兄のような存在だからである。

彼の優しい声で起こされ、僕の一日は始まる。
眠りから覚めたばかりで重い瞼をごしごしと擦ると、カーテンを開ける彼の笑い声が小さく聞こえてきた。

きっと、「可愛い奴」とか思ってるんだろうな。

そうして部屋の中に明かりを射し込んだ彼は、朝ご飯作ったからとだけ告げて、一階にあるキッチンへ朝食の用意の為、降りていってしまった。
それを横目で見遣ってから、僕は着替える為に重い身体を動かしてベッドからゆっくりと降りた。

僕を起こし、温かい朝食と優しい笑顔で僕の世話をする彼の名は、ゴールドと言う。

僕とは十歳ほど年が離れているが、彼がまるで実の弟のように僕に接してくれるので、僕はそんな彼を親しみを込めて「ゴー兄ちゃん」と呼ぶ。
彼もその呼び名が気に入ったのか、一度もその呼び名を咎められたことは無い。
寧ろ、とても喜ばれたほどだ。

彼は僕の家の近くに自分の家があるのだが、僕のお母さんが小旅行と称してカントーへ行ってしまったので、での間僕の世話を頼まれた彼は、こうして僕の家で寝泊まりをしているのだ。

初めこそはとても嬉しかった。

ずっと彼が僕の傍で一緒に居てくれるなんてこと、今までは無かったから。
けれど、ここ最近は彼の存在が苦痛でしかない。

それは、冒頭で説明した通り、僕が彼に恋愛感情を抱いているからなのだけれど。

情景だと、憧れだと思っていた感情が、こうして邪な想いを含み始めたのはいつからなのだろう?

自分に向けられるあの笑顔を汚し、自分の頭を撫でるその手を取って、自分を抱き上げるその身体を押し倒して、屈服させて、暴いて、愛してやりたいと思ったのはいつからだろう?

この情欲の炎をしまい続けるには、自分はまだ幼すぎるということくらい自負している。
けれど、今この場で彼を穢してしまったら、二度と今のような関係には戻れない。
それが、今の僕の理性を繋ぎとめるたった一つの枷なのだ。

そんなことを考えながら、着替える為にクローゼットに丁寧にしまわれていた自分の服を取り出す。

アンダーは白いパーカー、上は赤いジャンパー。下は黒のハーフパンツ。
前髪は少し爆発気味にそして念入りにセットして、帽子のツバを後ろに回して被れば完璧だ。

そうして鏡で見た自分の姿が彼、ゴールドそっくりなのを確認してから僕はゆっくりと微笑む。

その顔はまさに彼そのもので、まるで自身が彼のドッペルゲンガーのような錯覚に陥る。

僕がこの恰好をしだしたのは、ほんの数週間前。
きっかけは、彼がなんとなしに見せてくれた昔の写真を収めたアルバムを見たことだった。


『昔は結構やんちゃでさ、いっつもシルバーやクリスと外で遊んでたんだよ』


そう言って昔を懐かしむように撫でた写真の中に、今の僕と同じような格好をした幼いゴールドを見てからだ。
昔だから今より服のデザインが古く、まったく同じ服装と言う訳にはいかなかったが、この特徴的な前髪だけは彼と同じようになるように努力したのだ。

今では彼と道を歩けば兄弟かと言われるほど、僕達二人の顔も服装も、そして仕草も似ていた。でも、僕が望むのは彼の兄弟という肩書じゃない。
彼の愛を一身に受け、僕の愛を一身に捧げる。いわば、“恋人”といった関係を望んでいるのだ。

彼の恰好を真似したのは、彼と同じものを持っているという自慢をしたかっただけ。
彼と繋がっているということを、見せつけたかっただけ。

情けなく背伸びをしてでも欲しいのは彼の愛。


「いつまでも子供扱いなんて、してほしくないんだ…」


中途半端に高い声で、不満げに呟く。

こんな小さな身体じゃ、彼を抱き締めることも出来やしない。
愛を囁いても、本気にしてもらえない、

だから、僕は、


「おーい、ヒビキー?朝ご飯冷めるから早く降りてこーい!」

「うーんっ!今行くよー!!」


落ちかけた思考を彼の声が呼び戻す。
朝食だと呼ぶ彼の声に応えてから、僕はバタバタと足音を立てて一階へと降りていった。



(早く大人になりたい)



子供のままじゃ、君に愛さえ囁けない。



お題/雲の空耳と独り言+α『年上に恋して 5題』