※ダイゴ×センリです
※サファイア設定です
※四月馬鹿の残骸





はぁ、と色を含んだ声が下から聞こえ、ぼくはくすりと微笑む。
それが聞こえたのだろうか、ぼくの下にいる人間は唇を強く噛みしめ、快楽から逃げるように身体の下に敷かれたシーツを握り締めた。
でもぼくはその綺麗な唇に傷がつくのが嫌で、無理にでも声を出させようと彼の内部に沈めた熱い杭を奥へと打ち付けた。


「…ぁ!……く、ぅ…」

「唇、噛まないでください…」

「………」


責めるような視線に対して優しく咎めるように言っても、彼は何を言い返すわけでも無く、ふいと顔を背けてしまった。
その態度が「早く終わらせろ」と言外に言われているような気がしたので、それ以上は何も言わずに、ぼくは高ぶり続けている熱を解放するように、律動を再開した。

この行為の間、彼が声を発したことはほとんどない。
それもそうだろう。
好きでもない、ましてや年下の男に身体を暴かれて気持ちよく喘げるのなんて、相当の物好きだ。

本当は、その声をもっと聞かせて欲しい。
女のように高い喘ぎ声ではない、低く重いその声は、ぼくの鼓膜を優しく、そして激しく揺さぶる。
それをしないのは、彼に愛する妻と子供がいるからなのだが。

でも、そんなのぼくには関係ない。
妻がいようが子供がいようが、ぼくは彼が、彼という一人の人間が好きなのだ。
その気持ちは、きっとその二人にだって負けないはずなのに。


「もっと、早くに出会えていたら、ぼくと貴方の関係は違っていましたか?」


答えてはくれないだろうけれど、律動に乗せてぽつりと零してみる。
快楽に飲まれながらもその言葉を聞き取った彼は、苦しそうに口を噤ませながら、ゆるゆると首を振った。

それは、彼の拒絶。
いくら出会い方が違っていても、ぼくと彼が交わることは無に等しいのだ。


「そうですか……」


彼の反応にそう答えて、自嘲気に笑って見せる。
その声は掠れてしまい、今にも涙が零れそうなほど弱弱しい響きを持っていたけれど。

分かってはいたが、やはり悲しいのだ。



(届かないこの想い)



こんな恋、しなければよかった。