※四月馬鹿の残骸





「それは出来ないな」

「え…?………うわぁっ!!」


凛とした彼の声に反応すると、オレは後ろから伸びてきた手に引かれ、あっという間にオレはソファに押し倒された。
ぼすりとかなりぞんざいに身体を反転させられてので、少し身体が痛んだが、そんなことよりもオレは急な展開に目を白黒させていた。

見上げた先に見えたのは、オレの身体に跨ったまま息を乱したシゲルさんが、オレを見下ろしていた。
その顔は赤かったが、目が笑っていなかったので、オレの顔からはあっという間に血の気が引いた。


「シ…シゲルさん?」

「……怒らないから、正直に答えてくれないかい?……ぼくに薬を盛っただろ?」

「ひぃ…っ!!」


ぎろり。

そんな表現がふさわしいくらい、鋭い眼光で彼はオレを睨みつける。
彼から発せられた驚くほど低い声に、オレはようやく自身のしでかした事の重大さに気付き、情けない声を上げた。

怒らないからと彼は言っているが、現在進行形で目が笑っていないので、それは嘘だということくらいすぐに分った。
今のオレの状況はまさに、「蛇に睨まれた蛙」そのものだ。

だが、いつまでも黙ってはいられない。
今すぐにでも真実を話さなければ、その後の報復が倍になってこの身に降りかかってくるのだから。


「ごめんなさい、ごめんなさい!!」

「やっぱり盛ったんだね…。さしずめ、さっきの紅茶の中にでも入れたんだろう?」

「そうです……」

「どうして入れたんだい?」

「それは…」


言ってしまってもいいのだろうか?

ぐるぐるとそんなことを考えて言いあぐねてしまったオレに対し彼は短く息を吐くと、今度こそ優しい声音でオレに話しかけてきた。


「いいよ。正直に言って」

「う……。その、たまにはですね……オレも攻めてみたいなぁ…なんて思ってですね…」

「で?」

「それで、ネットで見つけた媚薬を買って……」

「よく買えたね。年齢確認とか無かったの?」

「あー、……ちょっとしらアングラサイトだったんで……」

「まったく……」


はぁ、と今度は大きな溜め息が彼の口から零れ、オレはおずおずと彼を窺うように見上げる。
そんなオレに気付いた彼は、やれやれといったように肩を竦めてから、ぐっと顔を近付けてきた。


「今後一切こういったものを買うのは禁止ね。返事は?」

「……はい」

「それならよし。………じゃあ、“これ”の続きをしようか」

「……はい?」


窘めるような彼の言葉に渋々と言った形で頷けば、彼はにこりと笑って、次の瞬間にオレの衣服をたくし上げた。
彼の唐突な行動に、オレの思考はピタリと停止する。


「ちょっとシゲルさん!? なにして…っ!!」

「何って…決まってるじゃないか。“お仕置き”だよ」


それでも彼の手は止まることを知らず、どんどんとオレの衣服を上へ上へと捲っていくので、慌ててその手を取りそれ以上の行為を止めさせる。
しかし、そんなオレの手を更に取った彼は、にやりと不敵に微笑んでお仕置きと言葉を零した。

お仕置き。

その言葉を聞き取った脳が危険信号をオレの身体へと送るが、シゲルさんに覆い被さられた状態では逃げることさえ叶わなかった。


「二度と下剋上なんて出来ない様に、今日は沢山可愛がってあげるからね…」

「け、結構です!! すみません、もう二度としませんから、許してくださ……ひぁっ!!」

「随分な量を盛られたらしいから、君を解放するのは明日以降になりそうだね…」

「えっ!? …ふぁっ、……あ、…や、だ…ひぅっ!!」

「だから、覚悟してね?ケンタ君…」


露わにされた胸の飾りを抓まれながら発せられた、半ば死刑宣告のような彼の言葉に、オレは自身が招いた事態とはいえ涙が出た。
それをすかさず舐めあげた彼がちゅっと唇を重ねると、涙の塩辛い味がした。

そうして今度こそ本格的に覆い被さってきた彼に心の中で悲鳴を上げながら、オレはもう二度と彼に薬を盛らないことを誓ったのであった。



(お仕置きだと嗤う彼)



その日はいつも以上に激しく愛されました



お題/モノクロ メルヘン『受攻逆転を狙うネコさんのお題』