※ケンタ×シゲル ※四月馬鹿の残骸 「失礼します。シゲルさん、そろそろ休憩しませんか?」 「ああ、ちょうど一息つこうと思ってたところだよ。一緒にお茶にしようか」 コンコンと控えめにノックをしてから、オレは扉の向こうの人物へ問い掛けるようにしてドアを開ける。 ドアの向こうに居たのは、このオーキド研究所を所有しているオーキド博士の孫であるシゲルさんがおり、オレの姿に気付くとこちらを振り返ってにこりと笑った。 その彼の手元には今まで目を通していたであろう山積みの資料があったが、オレの一声で作業を中断させることにしたらしい。机の上を簡単に整理してから、彼は少し離れた応接用のソファに座ってうーんと身体を伸ばした。 ポケモン研究家を目指す彼は、今は自室に籠ってこうしてポケモンの生態や分布に関する資料を読み漁り、自身の知識の肥やしにしている。 ひょんなことからそのお手伝いをすることになったオレは、今はこうして彼の生活の手助けをしたり、彼がフィールドワークを行う時に同行し、助手のような仕事もしているのだ。 いつもはオーキド博士も一緒にこのお茶の時間を過ごすのだが、博士は今日は大事な学会があるからと朝早く遠方へ赴き、帰りは明日以降になるそうだ。 オレと同じような仕事をしているケンジさんも、そんな博士のお手伝いとして彼と一緒に学会へ行ってしまった。 だから、今日と明日の一日は、このオーキド研究所にはオレと彼、シゲルさんの二人しかいない。 「いつもは博士やケンジさんがいるからか、二人だと少し寂しいですね…」 「今一つ賑やかさに欠けるね…。でも、たまにはいいんじゃないかい?こうして久々に、二人きりの時間が取れたんだし。ねぇ?ケンタ君」 「…っ!? そ……そうです、ね…」 「顔が真っ赤だよ?相変わらず、ぼくの恋人は可愛いね」 「〜〜〜〜っ!!」 くすくすと笑って、彼はオレが淹れたばかりの紅茶で喉を潤した。 オレはと言えば、今しがた放たれた彼の言葉のせいで、そんな彼の姿を恨めしそうに見遣ることしか出来なかった。 そう、オレとこの目の前の彼、シゲルさんは恋人同士である。 付き合い始めてからもう何ヶ月経ったのだろう?そんなに昔のことではなかったはずだが、もう忘れてしまった。 世間に公には出来ない関係の為、オレ達の関係を知っている人間は未だ誰一人としていない。 その分、オレは彼に抱えきれないほど大きな愛情をこの身に刻まれ、愛されているのだが。 初めはその関係にも満足はしていた。 紳士的なシゲルさんに対し、色恋沙汰に全くもって縁の無かったオレ。 どちらがリードに有利かなんて、分り切っていたことなのだけれど。 最近のオレは、その関係に不満を感じ始めていた。 例えば、今さっき彼がオレに向かって言った言葉。 女の子が言ってもらえば間違いなく嬉しいであろう言葉だが、あいにくとオレは男である。 そんなこと言われても恥ずかしいし、なにより、少し馬鹿にされているようで気に食わないのだ。 オレだって男なんだ。 たまには、彼を攻めたい! そう思うようになったのがつい先日。 そして、今日はそんなオレの決意を後押しするかのように、オーキド博士達が不在。 この日に勝負を掛けなければ、オレは一生男としての晴れ舞台に立てる気がしないのだ。 予め彼らが不在のことを聞かされていたオレは、この日の為にネットで“媚薬”なる物を購入していた。 もちろん、シゲルさんが今日は一日書類整理を行う為に自室に籠ることも確認済みである。 だから、今彼が飲んでいる紅茶には相当な量の媚薬が混入している。 無味無臭のタイプを選んで買ったので、彼にはバレていないはずだ。 タイミングよく彼がいつもの気障なセリフ(オレにとってはあまり嬉しくない言葉だが)を言ってくれたおかげで、挙動不審にならずにも済んだ。 媚薬の注意書きには「速攻性」と書いてあったが、どのくらいの時間かは使用した人間によるらしい。 とにかく、今は様子を見ることにしよう。 そう心に決めて、努めて明るく、そしていつものように、オレは彼へと話題を振ったのであった。 「……はぁ、…はぁ…」 「…シゲルさん?大丈夫ですか?」 「いや……、大丈夫だ、よ……」 「でも、顔が赤くなってます…。熱でもあるんじゃ…!」 「変だな…。さっきまではなんともなかったのに…」 我ながら白々しいと分かってはいる。 顔が赤くなったシゲルさんは妙に色っぽくて、オレはそんな彼に対して罪悪感なんてどこかへ吹っ飛んでしまった。 息を乱して苦しそうに白衣の下に着た服を握り締める彼の表情は本当に厭らしくて、オレは無意識の内に生唾をごくりと飲み込んだ。 今なら、オレにだって簡単にシゲルさんを捻じ伏せることだって出来るはずだ! どこから湧いてきたのかも分らぬ自信を胸に、オレは彼を介抱するフリをして、そっと彼をソファへ押し倒した。 「……シゲルさん」 「…ぁ、……ケンタ、く………んぅ」 「んぅ……」 オレの下で尚も荒く息を乱したシゲルさんを見下ろして、オレはゆっくりと彼の唇を自分のソレと重ねた。 突然のオレの行動に一瞬彼の方はびくりと揺れたが、彼はすぐに口を開けて、オレの舌を迎え入れた。 キスも慣れたもので、オレはそんな彼の反応に安堵しながら、今度は舌を絡ませ合った。 くちゅくちゅと厭らしい水音が部屋中に響く。 時折舌同士がぶつかり合ってねちゃりと音を立て、それさえも刺激になっているのか、彼はびくびくと身体を揺らして反応を返す。 それにオレの下半身がずくりと疼く気がして、オレはゆっくりと彼の唇と距離を置いた。 その際に二人の唾液が糸を引き、明かりに反射してきらりと光り、そしてぷつりと切れた。 「……シゲルさん、いいですよね?」 「…ケンタ君…」 「優しくしますから…」 「あ……」 安心させるようにふわりと、彼に微笑みかける。 そして、有無を言わさずにするりと彼の衣服の下から素肌へと手を滑らせて、オレは彼へと覆い被さった。 (媚薬多量摂取の恋人) 後ろから迫る手に気付かないまま。 お題/モノクロ メルヘン『受攻逆転を狙うネコさんのお題』 |