※『黄金色Soundscape』様との相互記念!
※本人(響音)様のみお持ち帰り可





からころ、からころ。

午後の昼下がり、俺の部屋の中では軽快な音が響いていた。
その音を出している張本人は俺の目の前、俺のベッドの上に座った恋人のゴールドで、その音が響く度に彼の口はもごもごと動いていた。


「おい、ゴールド。さっきから何食ってんだよ」

「アメですよ。クリスから貰いました」


ふーん、と返事を返しながら、俺は書類の紙面に走らせていたペンの動きを止めた。
本業としているジムリーダーの仕事は、挑戦者であるトレーナーとポケモンバトルをすることだけではない。
空いた時間にはリーグから送られてくる書類を整理しなければいけなかったりするので、結構面倒くさかったりする。

今日はこうして恋人であるゴールドとデートする予定だったので予めジム戦はしないようにしていたのだが、そんな日に限ってリーグの方から急遽書類の作成を、と頼まれてしまったので、早く終わらせることを条件にゴールドに家の中で待っていてもらい、俺はこうして書類作成に精を出していたのだ。

しかし、先ほどから響くその音が気になって仕方なくなっており、とうとう俺は意を決してゴールドに問い掛けることにした。
すると、俺のベッドの上でぼんやりと上を向いていたゴールドが俺の声に反応して、ぱっと視線をこちらに向けた。
問い掛けに答えるようにして、彼は今も口の中で遊ばせているモノを舐めながらそう答えた。

アメと答えられてようやく合点がいった。
よく見れば、ベッドに腰掛けた彼の横には今舐めているであろうアメと同じ種類のものが入っている少し大きめの瓶が無造作に置かれていた。
ここから見える限り、中には赤、緑、白、青と色とりどりのアメ玉が入っているようだ。


「しっかしいっぱい貰ったみてぇだな…」

「ええ…。でも、これでも頑張って減らした方なんですよ?ただ、あんまり舐めすぎると舌切れるんですよね…」

「無理して一人で食おうとするからだろうが。……ちょうどいいから、俺にも一つくれよ」

「そういえば、よく言いますよね。『疲れた時には甘いもの』って……。どれがいいですか?」


アメの入った瓶を片手に、ゴールドが机に向かったままの俺の方へやってくる。
彼が歩く度に中途半端に減った瓶の中のアメが互いにぶつかり合い、からからと音を立てた。

そしてゴールドは俺の傍まで近寄り、足を止めた。
すると、彼の方からふわりと甘い匂いがし、俺は鼻をひくつかせる。


「…いい匂いだな。……何味だ?」

「レモンです。オレ、アメの中じゃレモンが一番好きな味なんですよ」

「へぇ、いいな…。っと、俺はこの緑のでいい」

「多分マスカット味じゃないですかね…?はい」

「さんきゅ。……甘いな…でも、美味い」

「お礼はクリスに言って下さいね」


そう言ってゴールドは俺の掌にアメ玉を一つ転がした。
ころりと掌に転がった淡い緑色のアメ玉を口に放り込めば、途端に口内に味がじわりと広がる。
ゴールドの言う通り、どうやらこれはマスカット味らしい。
しつこい甘さもなく、爽やかな味と匂いがゆっくりと身体に染み込んでいく。

対するゴールドはレモン味らしい。彼のそのチョイスに、俺は妙に納得してしまった。
その理由は、なんとなく彼のイメージに近い感じがしたからだ。
だが、彼の方はもうすぐ舐め終わるのだろうか。先ほどよりも音の聞こえる回数が減ってきた気がする。
それなら、と、俺は彼の腕をグイッと引っ張り、そして、


「んぁ……っ!?」

「ん……」


強引に彼、ゴールドと自分の唇を重ね、そして、驚き口を開けたままの彼の唇を割り中へと侵入する。
ゴールドの口内には小さくなったアメ玉があり、俺はそれと先ほど自身の口内へ放り込んだマスカットキャンディーを互いの口の中で混ぜるようにして行き来させる。


「ん…ふ、……あぅ…あ」

「……ん、…ふ」


からころ、からころ。

大きなアメ玉と小さなアメ玉がぶつかる音と、互いの唾液が混じり合った水音が部屋に響く。
そして、俺達の周りにはマスカットとレモンの匂いがふわりと漂った。


「ん……。ごちそうさま」

「……っ、……!」


最後は名残惜しむように、そして、互いのアメを自分たちの口中に戻すようにして俺は唇を離した。
急なことで用意が出来ていなかったゴールドは荒い息を落ち着かせようと、ゆっくりと深呼吸をしながら俺の方をじとりと睨みつけてきた。
そんな彼に、俺は口端に伝ったどちらとも分らぬ唾液を指で掬って見せつけるようにしてそう言えば、彼は羞恥に顔を赤くさせたままぷいっと視線を逸らした。


「そんな怒んなって」

「……怒ってません」

「俺が悪かったから…」

「……分ってるなら、さっさと書類書き終えてオレを構って下さいよ…」

「!? ………了解!」


なんだ、彼も構って欲しかったのか。彼のその言葉に、俺は肩の力がふっと抜けた。
心配して損した。なんて、そんなこと面と向かって言えはしないから、俺は一人静かに苦笑を零す。

そうして俺との時間を今か今かと待ってくれている目の前のこの健気な少年を早く構い倒す為に、アメを舌で転がしながら俺は作業へと意識を戻したのだった。

そんな俺を戻ったベッドの上から見つめていた少年が、自分の唇をそっと撫でてくすりと笑っていたのを、俺は知らない。
そして、彼の口の中に、まだ俺が舐めているマスカットの爽やかな味が残っていることも。



(からころ、からころ恋の味)



俺は、まだ知らないでいるのだ。