「シルバー、本当にいいのかよ?」

「ああ、俺は別にいい」

「じゃあ、いただきます」


ちらりとこちらを気遣うように視線を向けた後、ゴールドは手に持っていたソルベを付属のスプーンでそっと掬い咀嚼した。
よほど美味しいものなのだろうか、一口食べただけでゴールドは顔を綻ばせて今度は勢いよく齧り付いた。

俺はそれを眺めながら、ゴールドには分らないくらいに小さな微笑みを零した。

ゴールドが食べているソルベは、つい最近ホウエン地方からやっていた有名洋菓子店がプロデュースしたものらしく、俺達がこれを買う為に並んだ時もかなりの行列が列をなしていた。
俺は甘いものはそんなに好きではなかったが、ゴールドがどうしてもと言うので一緒に並んでようやく目当ての物を買うことができたのだ。

ゴールドの頼んだものは「オボンソルベ」というもので、柑橘系のソルベらしい。
隣り合うように座っているので、彼の傍から香る柑橘系がとても爽やかだった。


「………」


ちらりと周りに視線を配れば、どうやら俺達の座っているベンチの近くに人はいないようだった。
だからこんなにも静かだったのか、今更にそう思った。
さっきまであんなに賑やかな場所に居たせいなのもあるかもしれない。

まあ、これはこれで好都合なわけだが。

今度こそ完全に視線をゴールドへ固定する。
結構な大きさのソルベだったからだろう、ゴールドの手の中のソルベはまだ半分も減っていなかった。

ゆっくりと味わうようにソルベを食べる彼を見ながら、久々に穏やかな時間だな、なんて柄にもなくそう思った。
最近は俺もゴールドも自分のことで手いっぱいで、こうして二人きりで時間を過ごすことが出来なかった。


「(俺達は恋人同士なのにな…)」


まあ、仕方のないことだとは分かっている。
ゴールドは博士に任された図鑑を埋めることで頭がいっぱいだし、俺はそんなゴールドを超える為に修行を繰り返す毎日。
決まった場所で修行を行う俺とは違って、ゴールドはジョウト、そしてカントーの端から端まで移動しているのだ。
そう簡単に連絡を取り付けられるような状況じゃない。

寂しいといえば寂しい。
恋人なのに好きな時に会えないのだから。
でも、その分会えた時の喜びが大きいのだから何とも言えないが。


「(よっぽど惚れ込んでいるんだな…)」


思わず苦笑してしまうほど、俺は目の前の彼に惚れ込んでいるらしい。
それは多分、俺自身が“愛”というものに疎かったからなのかもしれない。

ゴールドは、俺に初めて愛を教えてくれた人間だから。


「ゴールド…」

「なに…?………ぁ」


そんな溢れ出そうな感情をぶつけるように、俺は彼へキスをする。

なんの準備もしていなかった彼は、けれど拒否することなく俺の唇をゆっくりと受け止めた。
いつの間にか彼の手の中にあったソルベは消えていたが、それでもまだ彼の口内にはオレンジの味が残っていて。



(オレンジの鼓動)



その味はまるで、俺達のこの拙い恋を物語っているようだった。