※クリス×ゴールドです ※クリスが攻めです。 「はい、クリス」 「ありがとう、ゴールド」 自然公園内に設置されたベンチに二人仲良く腰掛けて、私はゴールドからサイコソーダを受け取った。 それはすでにゴールドの手によってプルトップが開けられており、開け口の隙間からは小さな気泡が外へ向かってしゅわしゅわと弾けていた。 私はそれを何の疑問も持たず煽ろうとしたが、不意に思い立ってその手を止めた。 「…ねぇ、ゴールド」 「なんだよ?」 「これ、本当に飲んでもいいの?」 「いいに決まってるじゃん。その為にクリスにやったんだから」 「そ、そうよね…。ごめんなさい」 「変なクリス」 そう言ってくすくすと、ゴールドは私を見て小さく笑った。 私はと言えば、彼のそんな笑顔を見ながら手の中の缶をくるくると回し、意識を別の方へと持って行っていた。 「(でもこれって、“間接キス”…よね…?)」 ちらりと、もう一回彼の方へ確かめるように視線を送れば、彼は相棒のオーダイルの背を撫でながら自身の手持ちと戯れていた。 それを見てそんな邪な考えを抱いている自分が恥ずかしくなったが、これは仕方のないことだったのだ。 何故なら、私は横に座っているゴールドに恋をしているのだから。 お隣同士、幼馴染、仲の良い兄妹のよう。 そんな立ち位置だったはずなのに、いつの日か私はゴールドを恋愛対象として意識し、目で追っていた。 だから昔だったらなんてことのない飲み物の回し飲みも、今の私には難易度の高い行為なのだ。 ゴールドは私の想いに気付いていないから、こんな無邪気なことが出来るのだ。 まったく、これだから天然は。と心の中で一人ごちる。 けれど、いつまでもそんなことをしていては埒が明かないし、かといってこの状況を打破出来るほど私の言語スキルは高くない。 「………」 きょろりと周りを見回す。 どうやら昼時なのが幸いしたのか、私に人影は見当たらなかった。 それなら、と私は心を決めて口を開く。 「ねぇ、本当にいいの?」 「…まだ飲んでなかったのかよ…。いいって言ってるじゃんか。それとも、何か問題でもあるのか?」 未だ口を付けていなかったことに加え、先ほどと同じ質問をしたことに呆れたのだろう。 ゴールドは溜息を吐きながら私に言ってきた。 何か問題でも、と問い掛けてきた彼に、私は少し言いあぐねてから、素直に自分の気持ちを伝えることにした。 「だってこれ、か……“間接キス”、でしょう?」 「………なっ!?」 おずおずと控えめに告げれば、しばしの無言。だが私の言葉を理解したであろう瞬間、横に居た彼の顔はびっくりするほど真っ赤になった。 そんな主人の変化に驚いて、オーダイルはびくりと肩を震わせて私達の顔を交互に見遣って様子を窺っている。 「……いきなり何言いだすんだよ…」 「だって、気になったから…」 「昔は普通にこういうことしてたじゃんか…」 「でも、今は昔みたいに子供じゃないし……それに、」 「……?」 言ってしまおうか、話題を逸らしてしまおうか。 これから先の展開は、次に発する私の一言に委ねられている。 本当は、逸らしてしまいたい。 でも、この機会を逃してしまったら最後、もう彼に自分の想いを告げることは出来なくなってしまうかもしれない。 一生仲の良い兄妹で、幼馴染で、お隣同士で終わるの? そんなのは、嫌だ。 「私、ゴールドのこと好きだから、こういうことされると、期待しちゃうわよ?」 言えた。 ほっと息を吐くと、私が知らない内に張っていたらしい肩の力が、息を吐くのと同時に抜けた。 ちらり、と窺うようにして今しがた告白した相手を見れば、ゴールドは顔から湯気が出ているのではないかというくらい顔を真っ赤に染めていた。 直球過ぎてしまったろうか。 赤みが引かない彼の顔を見ていたせいか、はたまた自分のしでかした行動が今更になって羞恥となってやってきたのか、私の顔も赤くなっているように感じた。 「…あの、…ゴールド?…ご、ごめんね?私が変なこと言ったせいで…」 「……別に、いいよ」 「へ?」 「期待しても、……いいから…」 「…っ!? それって……」 私はそれ以上言葉が続かなかった。 ぽりぽりと頬を掻きながら、彼はぶっきらぼうに呟いた。 その言葉がゆっくりと私の中に沁み渡って、気が付けば、 「……ありがとう」 「…っ!?」 そっぽを向いた彼の唇に、自分のソレを重ねていた。 さっきまでソーダを飲んでいた唇からは微かに炭酸の甘味がした。 唇を離してお互いの顔を見つめ合って。 恥ずかしそうに笑う彼に、私も笑顔で応えて。 「これから、よろしくね。ゴールド」 「…よろしく、クリス」 二人の手が、ゆっくりと重なった。 (サイコソーダみたいな淡い恋) 缶の中の炭酸が、しゅわりと弾けた。 |