「1000Hitだ!」

「1000Hitだな」

「1000Hitか…」

「1000Hitですね…」


空は快晴。

びっくりするほど空は蒼く、まるで今日と言う日を天が祝福してくれているかのような陽気である。
そんな中、急遽レッドの家に召集された人間は、全部で四人。

この家の人間である、レッド。
そしてそのレッドの幼馴染である、グリーン。
はるばるジョウトからやってきた紅一点、クリス。
そしてそのクリスと一緒に来た少年、シルバー。

レッドの家のテーブルを囲む少年少女達は、互いを見合いながら同じ言葉を反芻した。


『1000Hitおめでとう!』


四人が囲んだテーブルの中央には、そう書かれた用紙が存在を主張していた。


「つっても、このサイトの本当の1000Hitってとっくに過ぎてんだろ?」

「ああ、管理人がカウンターを設置したのが遅かったからな…」

「でも、こんなことならもっと早くカウンターを設置しておけば良かったですね…」

「仕方ないな。アイツはサイト運営に関しては素人だから…」


テーブルに置かれた用紙を指で小突きながら、レッドがそう指摘する。
それに応えるような形でグリーンが口を開けば、それに続くようにクリスが申し訳なさそうに呟く。
シルバーはそんなクリスにフォローを入れるように、溜め息を吐きながらそう言った。


「ま、そんなこと今言っても仕方ないしな!それよりも、お祝いとかはどうするんだ?」

「うーん。問題はそれなんだよな…。一応、この話は“ゴールド総受け”って内容になってるんだけど…」

「どうやって総受けにするんですか?」

「……?この箱は?」


シルバーがテーブルの下に隠れるようにして置かれていた小さな箱を持ち上げると、他の三人も一緒になって箱を凝視する。


「…なになに……?『この中にあみだくじが入っています。引いた用紙に書かれていた場所に、貴方達はゴールドに“キス”をすることが出来ます』……ぅ?!」

「ちょ、なんだよそれ!! 普通にじゃんけんでいいんじゃねぇの?!」

「『それだと後出ししそうな先輩が二人いるから却下』……そうとも書いてありますけど…」

「隠しきれていないところがアイツらしいな…」


箱に書かれていた文字をレッドが読み上げれば、それに反論するようにしてグリーンが声を荒げる。
けれど、それをばっさりと切り捨てるように、その言葉の続きを読み上げたクリスが告げる。
その内容に呆れたようにシルバーが返せば、その横でレッドがえっへんとでも言いたそうに胸を張った。


「要は“運勝負”ってやつだろ?言っとくけど、俺すっげー勝負運強いから!」

「はっ!言うだけならタダだもんな!俺だって負ける気しねぇしっ!!」

「私だってつい最近攻めとして日の目を見たんですからね!負ける気しませんよっ!」

「俺もだ。そう簡単にゴールドの唇をお前らのものにはしない」


バチバチと四人の間に熱い火花が散る。
全ては意中の彼の唇を我が物にする為に。

そして、運命の時。
四人の目の前に置かれた箱から出てきたのは、長方形にカットされ折りたたまれた四本の白紙。
勝率は四分の一。誰が引いても恨みっこなしの真剣勝負。


「せーの!」

「どんっ!!」


レッドの掛け声を合図に、四人の手が一斉に紙へと伸びる。
掴む紙が四人とも被らずに、勝敗は着いた。


「俺、右頬」

「俺は、左手」

「私は、左頬です…」

「右手だった…」


レッド、グリーン、クリス、シルバーの順に、キスをする場所が書かれた紙を読み上げていく。
だが、全員が読み終わったのと同時に、ある一つの問題が起こったのだ。

そう、四人が欲してやまなかった“唇”の選択肢が存在しなかったのだ。


「おい、どういうことだよ、これ!」

「話が違うじゃねぇーかっ!!」

「……?あれ?」

「どうした、クリス…」

「この箱の中にも何か文字が…。なになに?『なにも“唇”という選択肢があるとは言ってません』ですって…」

「アイツ……」


予想外の展開に今度はレッドとグリーンが声を荒げるが、それを静止させるように、クリスが声を発した。
シルバーが問い掛けると、小さな箱を分解したクリスが箱の中に書かれていた文字を読み上げると、シルバーのこめかみにぴくりと青筋が走った。
見れば、レッドやグリーンを拳を握り締めて震わせていた。


「くっそー!騙された!!」

「汚ったねぇーぞっ!!」

「二人共、落ち着いて下さ……っ」


両手を振り回して暴れる先輩を、なんとか宥めようとクリスが制する。


「出来ないよりは全然いいじゃないですか」

「……それは、」

「……確かに」

「それに、これが決まり次第ゴールドがここに来るみたいですし、いつまでも暴れてなんていられませんよ?」

「……そう言えばそうだったな。となると、あと少しで来る頃か?」


そんなクリスの言葉に渋々と言った形で、二人は振り上げていた拳を下す。

そう、いつまでも不満を言っている場合ではない。
予め四人に告げられていたのは、ゴールドが時間差でここを訪れるということだけだったのだが、企画についての話し合いが思った以上に長引き、シルバーが確認した時刻を告げれば、そろそろ彼がこちらへ到着する時間だった。


「やっべ……っ!早く支度しないと…っ!!」

「レッド、部屋借りるぞっ!お前らはもう着替えてるからここで待って、ゴールドが来たら教えてくれ」

「はい、分りました」


そうだ。もともと今日はこのレッドの家で1000Hit記念のお祝いをする予定だったのだ。
うっかり話し込んでしまったせいか、着替えを後回しにしていたレッドとグリーンは着替えの為に慌てて二階へ駆けて行く。
クリスとシルバーはここへ来る前に着替えておいたので、ゴールドが来る前にテーブルの上に置かれた用紙と箱を片付け、部屋の飾りつけを始めた。




















「こんにちはーっ!!」


そうして数分後。とうとう彼等の意中の相手、ゴールドが遅れてやって来た。
彼にも今日はお祝い事がある。と予め告げておいたので、彼の服装もいつものパーカーにハーフパンツとは違い、黒いスーツに黄色いシャツ、そして黒いネクタイを締めた状態で、いつもの活発な雰囲気から一転、大人っぽい印象を醸し出していた。
そんな新しい彼の一面に、出迎えた四人はどきりとしながらも、軽く二言三言交わしてから彼を中へと招き入れた。


「はい、主役はここ!」

「あ、…ありがとうございます」

「まず初めに写真を撮るからな。そのままじっとしてろ」

「それが終わったらディナーにしましょうね?」

「それまでの辛抱だから…」

「うん」


我先にとゴールドに話し掛けながら、写真撮影の為に彼を写真の中央となる場所に設置した椅子に座らせる。
そして、残った四人は先ほど自分たちが引いたくじに書かれていた場所に移動し、準備をする。


「じゃあ、あのカメラに向かって笑えよ!」

「はいっ!」

「準備はいいかー?」


目の前のテーブルに置かれた豪華な食事の隙間から、小さなインスタントカメラが姿を覗かせている。
それを操作したグリーンは、準備OKの合図とともにセルフタイマーのスイッチを押し、こちらへ駆けてきた。

セルフタイマーが仕掛けられたカメラは、ピピッと小さな音を立てて撮影の為のカウントダウンを始める。
そして、カシャリとカメラのスイッチが自動的に押され、



(「1000Hitおめでとう!」)



その写真には、笑顔のゴールドを真ん中にして、そんな彼を囲むようにそして愛おしむように、四人が両手両頬に唇を落としている幸せな姿が記録された。