※『愛率』様との相互記念! ※本人(玖珂 誠)様のみお持ち帰り可 「ん、んぅ……ん、はっ……ぁ」 「ん……ん…」 時計がカチコチと無機質な音を鳴らして時を刻むのと同時に、オレは招かれたレッドさんの部屋でくちゅくちゅと湿った音を響かせながら、この部屋の主である彼と唇を貪り合っていた。 どうしてこんな雰囲気になってしまったのかなんて皆目見当がつかないが、仮についたとしても突拍子も無い行動をする彼のことだ、きっとそれさえもオレの予想斜め上を行ってしまうかもしれない。 そんなことを頭の片隅でぼんやりと考えていると、先ほどから重なる唇の隙間から彼の舌が無遠慮に入り込んできた。 「んぁ……あっ、……ふ、ぅ」 「……ん……」 ぬるりとした肉厚な舌が口腔を犯し、飲み込めなかった唾液が口端を伝っても目の前の恋人は唇を離すことなく尚もキスを続ける。 うっすらと目を開けて彼を見れば、彼は頬をこれでもかと言うほど緩ませて蕩けるような甘い顔つきで唇を重ねていた。 そう言えば彼はキス魔だったな、と頭の片隅で思い出す。 彼とキスすることに嫌悪感は無い。 それは、オレと彼が“恋人同士”だからであるのが一番の理由だ。 告白をしたのは彼の方。まるでこれからポケモンバトルをするような真剣な表情でオレを見つめて一言、好きだと言った。 それをオレが受け入れて、今の関係に至る。 それからは互いの家で穏やかな時間を過ごしたり、二人で待ち合わせをして外でデートをしたり。 恋人同士がやることは一通りやったつもりである。 もちろん、夜に行う“そういった行為”も。 今自分がされているこのキスも、まさにその行為に通ずるものを感ずるので、オレは内心冷や汗をかいている。 何故なら、今この家にはオレと彼しかいないからだ。 いつもいるはずの彼の母親はこんな時に限って買い物へ出掛けて行ってしまったからだ。 ここから一番近いデパートはタマムシデパートだが、歩いていくには少々距離がある場所なので彼女が再び家に帰って来るのはもう少し遅くなりそうだ。 そんな好機を結ばれたばかりの恋人が見逃すとでもお思いか? これ幸いとばかりに、今まではキスで意識が逸らされていたせいか気付かなかったが、いつの間にかオレのパーカーの裾からは彼の手が入り込んできていた。 だから、これ以上この行為を続けると、オレは間違いなく明日はこの部屋、否、ベッドから出られないことは確実なのだ。 「ん、……っは、……ゃ、」 「ん……、ふぅ……」 彼が角度を変えてキスをするその隙を見計らってオレは彼にストップをかけるのだが、どうやら彼には聞き入れてもらえなかったようで、そのまま腰掛けていたベッドの中央へ向かって押し倒されそうになる。 力が敵わないのは分っているが、こんな真昼間から行為に及ぶのは恥ずかしいので持てる全ての力を彼に抗うことに使う。 だが、やはり体格差があるのが敗因なのか、オレの身体は徐々にベッドへ向かって傾いていく。 「(………もう、無理…っ!!)」 「そこまでだ、このバカップル」 「っ!? ………んぁっ」 これ以上はもう無理だ。やはりこのまま美味しく頂かれるしかないのかと半ば諦めかけていた時、不意に後ろから声が響き今まで重なっていた唇が離れ、オレの身体は後ろへと大きく傾いた。 傾いた先でオレの身体を受け止めたのは暖かく柔らかいナニか。 度重なるキスで落ち着かない呼吸を静めながら、後ろに当たるナニかへと視線を向けた。 「……っ!? グ、グリーンさんっ?!」 「……邪魔すんなよ」 「鍵も掛けねぇーでいちゃいちゃしてんじゃねーよ。まったく」 視線の先には恋人であるレッドさんの幼馴染である、今をときめくトキワジムリーダーであるグリーンさんが居た。 彼はオレ達が付き合っていることを知っている数少ない人物で、今のオレ達の行為を窘めるどころか鍵を掛けろと心配してくる始末だ。 片方の手はオレの身体を抱き留め、もう片方は腰に手を当てて説教ポーズを取っているグリーンさんにそんなことを言われたオレは、先ほどの行為を見られていた恥ずかしさに耐えきれなくて、抱き留める彼の腕を掴み、そこに赤くなった顔を隠した。 けれど、対するレッドさんは二人きりの時間を邪魔されたのが相当気に食わないらしい。 説教垂れるグリーンさんを低い声で威圧し、立ったままの彼をオレと同じく腰掛けたベッドから視線だけ上げてギロリと睨み付けた。 だが、グリーンさんもそんな彼の対応なんてお手の物とでも言いうようにさらりと躱し、ふぅと小さく溜め息を吐いた。 「家に帰る途中でお前の母親に会って、今お前らが二人きりだって知った時に嫌な予感がしたから寄ってみてみれば……。レッド…、お前なぁ、真昼間っから盛ってんじゃねーよ」 「俺の勝手だろうが」 「少しはゴールドの気持ちも汲んでやれって言ってんだよ。この恋愛初心者マーク」 「シスコンのウニ頭には言われたくない」 「あんだとっ!!」 なるほど。だから彼はこの家へやって来たのか。 彼の話を聞いてやっと、オレは急な彼の登場に納得がいった。 けれど、それでもレッドさんの怒りは収まらなかったらしい。 ぷい、とそっぽを向いて拗ねてしまった。 そこに追い打ちをかけるようにグリーンさんが小言を言えば、それが今度は琴線に触れたのだろうか、レッドさんはむっとした表情で反論する。 そしてその言葉が今度は折角オレ達を心配してくれていたグリーンさんの琴線に触れ、先ほどまで甘い空気が流れていた室内は、一気に二人の一触即発のムードを作ってしまった。 置いてきぼりで未だグリーンさんの腕の中に収まっているオレは、二人の間に挟まれてそろそろ胃がキリキリと痛みを訴えてきたその時、 「だからお前とゴールドを二人きりにしておきたくないんだよ」 「うっ!………んぅっ!!?」 「あっ!!」 グリーンさんは先ほどまで荒げていた声のトーンを落として一言呟いてから、強引にオレの顎を掴み上向かせ、唇を重ねてきた。 彼の唐突な行動にただ目を見開き行為を享受するしか出来ないオレと、目の前で恋人が他の男とキスをしている場面に遭遇したレッドさんは大声を上げて驚いた。 その間も彼の唇は離れず、驚いて半開きのままだった唇から、今度はグリーンさんの舌が侵入してきた。 「んぅっ!」 「ん………」 「ふぁ、……あ、…あぅ…」 「…っ!! ゴールドから離れろっ!!」 「…っと…」 「あ、……」 ぐちゃりと一際大きな音を立てて互いの舌が絡み合ったのと同時に、ようやく我に返ったレッドさんがオレとグリーンさんの身体を強く引き離した。 引っ張られたオレの身体は今度はレッドさんの胸の中に収まり、引き離されたグリーンさんは口端を袖で拭いながらにやりと不敵に微笑んだ。 「ごちそうさま」 「グリーン…。お前、」 「俺だってゴールドの“恋人”だろうが。…なのにお前らばっかりいちゃつきやがって」 呆れた物言いに、さすがのレッドさんもさっきまでの表情を崩してバツの悪そうな顔をし、押し黙った。 そう、彼の言う通りである。 言い忘れていたがグリーンさんもオレの“恋人”なのだ。 レッドさんに告白されたあの時、彼の横、オレの前にはグリーンさんもおり、言ってしまえばオレは二人同時に告白をされたのだ。 だから当然の如く返答に困っていると、二人はそんなこともある程度視野に入れていたのだろう。 言葉を揃えて、 『なら、“俺達”と付き合おうぜっ!』 と言ってきたのだ。 オレとしてもどちらか一人を選ぶなんてことしたくはなかったし、何より、この告白を断ったことによって二人がオレから離れていってしまうのが怖かったのだ。 だから、その瞬間からオレ達三人の奇妙な三角関係が始まったのだ。 二人を受け入れるのは身体に大きな負担であったが、それでもこの関係が壊れてしまうよりはずっと軽い痛みだった。 それに、それを考慮してか最近は交互に行為をしてくれるようになったし、優しく時間を掛けて愛撫してくれるようにもなった。 これ以上ない愛を、オレはこの二人からもらっている。 「別にいいじゃんか。グリーンだって同じことするんだし」 「そういう問題じゃねぇことくらいお前だって分ってるだろうが…。……それに、あの“誓約”、忘れたとは言わせねえぞ?」 「…?……あの、…誓約って、何なんですか?」 “誓約”という聞き慣れない言葉に、オレは疑問符を浮かべながら二人を見遣る。 すると二人はうっかり口を滑らせてしまったかのような、驚いた顔を見せて、次いで観念したように頭をぽりぽりと掻きながら、ずずいとオレに顔を近付けて言った。 「それはな」 (Don't monopolize him!) 美味しいとこ取りなんて許さない! |