※学パロです ※友人の幸ちゃんに捧げる! ※本人(鶏幸)様のみお持ち帰り可 「じゃあね、ゴールド」 「すまないな」 「いいって、別に。……ほら、会議に遅れるぞ?」 「…埋め合わせはまた今度するから!」 「…じゃあな」 「お〜」 弁当箱を片手に走る去る二人に素っ気無い態度で手を振りながら、オレは椅子に座ったままぐいっと身体を縦に伸ばした。 弁当を持って行ったということは、多分あの二人は午後の授業が始まるギリギリにならないと帰って来ないだろう。 いつも必ず三人で昼食をとっていたせいか、今オレしかいないこの状況は少し寂しく感じた。 帰宅部でどの委員会にも属していないオレと違い、幼馴染のクリスと親友であるシルバーは共に生徒会の役員として活動をしているせいか、昼食時間に会議に駆り出されることも多々あるのだ。 けれどいつもは事前に連絡があるから、オレもその時ばかりは一人で昼食を摂るのだが、今日はいきなり会議が入ったとの連絡を受け、彼らはオレに申し訳ないと詫びながら、先ほど慌ただしく教室を飛び出していった。 一方のオレはいつも通り三人で昼食を摂るつもりだったので、今日は思わぬ肩透かしを食らってしまった状態になってしまったわけだ。 「(……屋上に行くか)」 これ以上ここに居ても誰かが一緒に飯を食ってくれるわけでも無し、ましてや一人で寂しく弁当をつつくのは正直勘弁願いたいので、オレは人が居ない今は立ち入り禁止の屋上へと向かう為に重い腰を上げ、廊下に出た。 オレのクラスがあるこの階はちょうど購買も設置されているせいか、昼時になるとこれでもかというほどの生徒が廊下に溢れんばかりの群れを成して自分のお目当ての品の争奪戦を繰り広げているのだ。 「おっ、ゴールドじゃん!どうした?」 「レッド先輩!」 「俺もいるぞ」 「グリーン先輩も!今日は二人とも購買のパンですか?」 「ああ、今日は母さんが寝坊してな!俺は朝から飯食ってねーんだ!」 「俺は弁当だけじゃ足りないからここで買い足すついでにレッドについて行っただけだ……。お前は?」 今日も変わらず巨大な群れを成している生徒の間をすり抜けながら屋上へ向かおうとすると、不意にその人混みから声を掛けられた。 その声のする方へ視線を向ければ、その先にはこちらへ向かってにこりと笑いながら手を振る先輩のレッドとグリーンがいた。 どちらともなく互いへ駆け寄りながら声を掛ければ、どうやらレッド先輩は今日のお昼を買いにこの購買へ来ていたらしい。 その言葉に促され視線をレッド先輩の手元へ向ければ、なるほど、そこには高校男児でも一回の食事で消費するには多すぎるであろう、多くのパンが抱えられてあった。 続けてグリーン先輩の方へ視線を向ければ、彼は弁当を持参とのことで、レッド先輩よりは少なめだがパンがあった。 そんな彼らの問い掛けに少し言い淀んでいると、何かを察してくれたのだろうか。レッド先輩はオレの耳元へ口を寄せたかと思うと、内緒話をするようにこそりと耳元で囁いた。 「俺らと一緒に飯食うか?どうせ屋上行くつもりだったんだろ?」 「……はい。でも、先輩達の邪魔になりませんか?」 「飯は大勢で食ったほうが美味いって母さんが言ってたからな!別に気にしてねーよ、な?グリーン」 「ああ。それに、俺達もお前と食うの久しぶりだしな。一緒に食おうぜ?」 「あ、ありがとうございます!」 一緒にどうかと勧めてくれる先輩達にそれでもと渋ると、気にするなと言いながら頭をくしゃりと撫でられ、にっこりと笑われた。 二人にそう言われたオレはさっきまでの寂しさなて何処かに吹き飛ばして、満面の笑みと共にその提案を受け入れた。 「いただきますっ!」 「おっ!ゴールドの飯美味そうだな…。な、ちょっとくれよ」 「いいですよ。その焼きそばパン半分でどうですか?」 「乗った!」 「おいゴールド、俺には無いのか?」 「心配しなくてもちゃんとありますよ。グリーンさんはその卵焼き半分で手を打ちましょう」 「分かった」 三者三様の弁当を広げ、互いのオカズを交換し合いながら俺達のランチタイムは始まった。 立ち入り禁止のハズの屋上に出入りできるのは、この学校の理事長の孫であるグリーン先輩が口利きをして裏から根回しをしてもらっているらしく、独自のルートで屋上の鍵を入手したからである。 初めの頃こそ驚きはしたが、何回も出入りしている内にそんなことにも慣れてしまった。 だから、今では一人で食べる日が決まっている時はこうして先輩達を誘ってこの屋上で昼食を摂るまでになった。 今日はあまりにも急だったから一人で食べることを覚悟していたのだが嬉しい誤算だった。 自分の弁当のオカズと交換した彼等のオカズを味わいながら、オレは頬が緩むのを感じた。 そして、飲み物に手を伸ばそうとした時、 「あっ!!」 「っ!? ど、どうしたんだよ。急に大声出して…」 「いえ、……今気付いたんですけど、飲み物買ってくるの忘れたな。と思って…」 「そんなことぐらいで大声出すなって…。驚いただろうが…」 「すみません…。でも飲み物はオレにとって超重要なランチタイムのお供なんですよっ!? ……オレ、今から買ってきます」 いつも昼の時には弁当の横に置いておくハズの飲み物を買っていないことに今更ながらに気付き、オレは大きな声を上げる。 案の定驚いた先輩達二人がオカズやパンを持った手をそのままに、こちらへと視線を寄越す。 そして大声の理由を話せば、彼らはあからさまに呆れたような態度でそう言いながら今度こそ持っていた食べ物を口へ運び咀嚼した。 彼らにとってはたかが飲み物だろうが、オレにとってはされど飲み物と言っても過言ではないほど、ランチタイムの飲み物は重要な存在なのである。 無いと気付いてしまったからにはもう落ち着いていられなくて、オレはズボンのポケットに入った財布の中に小銭があることを確認してから、飲み物を買いに行くためにすくっと立ち上がった。 「それならしょうがないな。……ついでに俺のも買ってきてくれよっ!俺コーラ!」 「なら俺のもついでに頼む。…俺はコーヒーでいい」 「分りました!待ってて下さいねっ!!」 オレが行くついでにと自分達の分の飲み物を要求する先輩達の要望を聞きながら、オレは自販機に向かって一目散に駆け出していた。 「……ったく、とんだ誤算だな」 「ホ〜ント。ま、あの様子じゃすぐに戻ってくるだろうけどな」 「まさかあんなに飲み物を重要視してるとは夢にも思わなかったぜ」 「俺達との時間よりもまず飲み物!だったからな…」 口へ食べ物を運んでいた手の動きを止めて、どちらともなく言葉を零す。 さっきまで自分達の会話の輪の中心にいた意中の少年は今しがた大事だと宣言した飲み物を買いに行ってしまった。 (互いに邪魔者がいる状態だったが)せっかく自身が好意を寄せている相手との時間を大切にしようとしていたのに、当の本人は自分達よりも飲み物が大事だったという事実に、俺達はがっくりと肩を落とした。 「つか、なんでグリーンは俺について来たんだよ…。お前がいなきゃ今頃はゴールドと良い雰囲気だったかもしれないのにさ〜…」 「お前が弁当を忘れるわけないだろ。幼馴染の俺にそんなバレバレな嘘吐いてバレないとでも思ったか?ついて行って良かったぜ。案の定変なこと考えてやがって…」 互いに生まれた頃からの付き合いなのだ。目の前の幼馴染が嘘を吐いていることを見抜くくらいグリーンにとっては朝飯前だった。 そうやって指摘をすれば、レッドも俺にはバレてしまうことくらい想定の範囲内だったのだろう。悪びれも無くへらへらと笑いながら言った。 「だってさ〜。俺もそろそろ限界なんだって!早く行動を起こさないとシルバー辺りに取られそうだからさ〜!」 「確かにな…」 ふぅ、と互いに一つ溜息を吐いて、俺達は背後のフェンスへと寄り掛かった。 俺とレッドの二人は未だ買い物から帰らない後輩の少年であるゴールドに恋をしている。 互いの想い人が同じであると気付いたのはその恋を自覚してからすぐのことだった。 それでも俺達がこうして仲良くつるんでいるのは、互いに抜け駆けはせず正々堂々と勝負をしようという“協定”を結んだからである。 この協定が壊れるのはどちらかがゴールドを手に入れた時か、二人の想いが報われなかった時だけだ。 「シルバーやクリス相手だと俺達に勝ち目は無いからな…」 「だろ?! だからいっそのことさ、今の内に“俺達”のモノにしとかねぇ…?」 「お前……」 正気かと問い掛けるような意味合いを込めた視線を送れば、彼は意外にも真剣な表情でこちらを見つめてきた。 確かに、レッドの言うことも一理ある。 幼馴染のクリスには性別の壁がある時点で勝ち目は無いのは明白だ。それに、その壁を乗り越えても今度は彼の親友であるシルバーという男が、俺達の前に立ち塞がるだろう。 あの二人は言ってみればゴールドを守る双璧の騎士だし、ゴールドもあの二人のことはとても大事にしている。俺達がまともに張り合える存在ではない。 ならいっそ、彼の騎士がいないこの隙に俺達二人が彼を我が物にしてしまえばいいじゃないか。 先ほどのレッドの言葉が俺の中で繰り返される。 俺もこれ以上彼への想いをしまい続けるのも辛いし、何より、自身が耐え続けることで他の誰かに取られるのは死んでもごめんだ。 「そうだな…」 「さっすがグリーン。やっぱ話の分かる男は違うなっ!!」 「茶化すなって。…つか、お前はそれでいいのかよ?」 「何が?」 「ゴールドをお前だけのモノに出来なくなるってことが」 「別にいいよ。グリーン以外に取られるくらいなら俺達のモノにした方がダメージが少ないし。…それに、」 「それに?」 「三Pとか面白そうじゃん?」 そう言って目の前の彼はにやりと意味深な笑みを浮かべた。 彼も俺と同じ思いだったのかと思うのと同時に、俺は彼のぶっ飛んだ提案に苦笑を浮かべた。 どうやったらそんな考えに辿り着くのだろうか? だが、まったくもって彼らしい。 でも、不思議と俺にはその提案に苦言を呈するほどの嫌悪感は湧いてこなかった。 どうやら自身も彼と同じ考えだったらしい。こんどはそんな自分に苦笑を零した。 「どうする?グリーンが嫌なら俺だけで甘い蜜啜るけど?」 「ばーか、誰がそんなこと許すかよ。俺もその提案、乗った」 「じゃあこの次の授業はフケる!決まりだな」 「ああ。………っと、噂をすればなんとやら。戻ってきたみたいだな」 互いの手をハイタッチで叩き合わせると、遠くから階段を駆け上がる音が聞こえ、それはこちらへ向かって近づいてくる途中だった。 きっと彼はいつもと変わらぬ笑顔で俺達二人に買ってきた飲み物を差し出すだろう。 彼の尊敬する先輩が、たった今“オオカミ”になったことも知らずに。 (Two were eaten by wolves) さあ赤ずきん、お前の味を教えておくれ! |