※学パロ注意! ※友人の羽宮ちゃんに捧げる! ※本人(羽宮)様のみお持ち帰り可です! 「あれ、ゴールドは?」 教室内に予鈴が鳴り響く中、クリスは空いている前の席に座る人物について、自身の横に座るシルバーへ問い掛ける。 問い掛けられたシルバーはん、と少し考え込んでから制服のズボンに入れてあった携帯を取り出し操作をすると、呆れたように溜息を吐きながら口を開いた。 「今メールが入った。『今日は昼頃から行く。クリスには内緒な』…らしい」 「あんの馬鹿っ!! 来たら叱ってやらなくっちゃ!!」 絵文字も何も無い素っ気ないメールの本文に目を通したクリスは、これからの制裁の内容でも考えているのだろうか。一人でぶつぶつと独り言を呟きながら席へ着いた。 そんな彼女を苦笑交じりに眺めてから、シルバーは一言了解、とだけ彼のメールに返信し、これから始まる授業へと意識を映したのであった。 「…『了解』だけか…。ま、シルバーのことだからきっとクリスにもオレのメール見せただろうなぁ…」 今しがた打ったメールに対する親友の返信の文面を読み上げながら、オレは学校へ行ったら間違いなくクリスにどやされるな。と、ぼんやりと考えた。 けれど彼女も本気で怒る訳ではないのは百も承知なので、オレはそれ以上考えることを止めて、空を仰ぎ見た。 最近になってようやく暑苦しい夏が終わりを見せ始め、そろそろ秋風が肌を撫でる頃になったが、空は相変わらず夏の時の様に蒼々としていた。 けれど今オレがいる場所は見上げている空と対照的な黒が広がる路地裏で、加えてオレの足元には体格の良い自身と同じく制服を着た男が数人意識を失った状態で転がっていた。 この男共はオレがすべて伸した。 原因は至極簡単。コイツ等に売られた喧嘩をオレが買い、そして勝っただけのこと。 オレは世間一般で言うところの不良である。 学校では授業が始まっているようなこの時間で街をうろついているのが何よりの証拠だ。 今の学校に入学する前から、オレはこんな生活を続けている。 けれど、それを咎められたことが今まで一度たりとも無いのは、学校のお偉い方にうだうだ言われるのが嫌で、テストの点だけはいつも十番に入るよう努力しているからである。 次に心配される出席日数だって計算して必要な日数だけ行くようにしていれば、担任も余計な口を挟まなかった。 だから、今もこうして好き勝手に朝の街を闊歩していたのである。 不良になった大元の理由は、オレに父親がいないことが原因だ。 オレが小さい頃からいなかった彼の存在は、幼心には大きな影響を与えており、それが爆発したのは中学に上がってからのクラスメイトの罵倒するような言葉が始まりだった。 ―『お前、母親と一緒に捨てられたんだよ』 怒りに任せてクラスメイトを殴りつけたあの日から、オレの生活は一変した。 その事件があってからは誰もオレに近寄ることも無く、オレはクラスの中で一人孤立するようになった。 オレの姿を見るだけで怯えるような態度を取る奴らに嫌気が差し、いつしかオレは教室に入らなくなり、人とも距離を取るようになった。 その時でも変わらず傍にいてくれたのは幼馴染のクリスと、親友のシルバーだけだった。 二人は歪んだオレを非難することも更生することもせず、ありのままのオレを受けれてくれた。 オレは二人のそんなところに救われている節があると、我ながらに自覚している。 だから、せめて卒業だけはアイツ等と一緒にしたいと思っているから、サボり気味だが学校へもきちんと行くし勉強もする。 「……やっぱ、今から学校行くかな…」 そんな昔のことを思い出していたら、少しの罪悪感に襲われた。 当初予定していた登校時間を早め、放課後に二人にアイスでも奢ってやろうかなどと考えながら路地裏の出口へ歩を進めようとした時だ。 前方に一つの人影があった。 「……誰だよ、お前」 先ほどボコボコにした奴らの仲間だろうか。もしそうなら、と考えたオレは少し腰を落とし声のトーンも落としながら、威圧するように問い掛ける。 けれど前方の人物はオレの問い掛けに答える気配も無く、ただゆっくりとこちらに向かって足を進めてくる。 「おいおい、こんな所で喧嘩なんかしてんじゃねーよ。学校のイメージダウンだろうが…」 「はぁ?」 呆れたような溜息を吐きながら頭を掻いて現れたのは、オレの通う学校の制服を着た男だった。ツンツンとした頭がインパクトを残す中、かっちりと着こなした制服にキュッと締めたネクタイが目に入る。ネクタイの色から察するに、どうやら上級生らしい。 急な登場と小馬鹿にしたような物言いにむっとしながらも、同じ学校の生徒ということでオレは今までの警戒を少し緩めた。 「アンタには関係無いでしょうが…」 「あるっつーの。俺の第一志望は進学だからな。同じ学校の生徒が暴力事件とか起こしてるのが表沙汰になると、俺の将来に響くんだよ」 「何度も言わせんな。アンタの将来なんてオレにはどうでもいいことだっつーの。…どけよ」 いきなり現れたかと思えば、なんと自分勝手な男なのだろうか。 そんなことを言う為だけにオレに説教をくれているのかと思うと、先ほどまで眠っていた怒りがふつふつと湧き上がってきた。 だからわざと素っ気なく返事をしてやれば、彼はやれやれというように肩を竦めると、諭すような口調で再度オレに話し掛けてきた。 「先輩には敬語を使えって、親に教えてもらわなかったか?」 「アンタみたいに自分勝手に生きる人間を先輩だとは思いたくない。どけよ」 「ったく、これだから不良っつーのは嫌いなんだよ。……弱いくせに吠えるのだけは一丁前なんだからな…」 「……なんだって?」 「お前の親は可哀想だ、っつったんだよ」 「てめえに関係ねぇーだろうがっ!!」 ふう、と溜息を吐きながら放たれた言葉に、オレはカッと頭に血が上るのを感じた。 その言葉に、かつてクラスメイトが吐き出した言葉と同じニュアンスを感じ取ったからだ。 最後の一言にとうとう怒りが爆発したオレは、ダッと駆け出しその勢いのまま彼の顔面目掛けて拳を振りかぶった。 だが、彼はオレの行動に怯える素振りも見せずに緩くかぶりを振ると、フッと身体を屈ませそして、 「がっ!? ……ぁ、……」 振りかぶったことによってガラ空きだったオレの鳩尾へ拳を叩き込んだ。 予想だにしなかった衝撃に意識が一気に飛んでいくのと同時に、オレは目の前の男の胸元へと倒れ込んだ。 「ん………んん、」 ぱちりと目を覚ませば、オレの視界にまず広がったのは真っ白な天井だった。 それを不思議に思いながらゆっくりと身体を起こせば、鳩尾がずきりと痛み、オレは小さく呻いた。 「ん?……あ、れ?」 その時触れた柔らかく暖かいものへ視線を動かせば、オレの身体を覆うようにして毛布が掛けられてあった。 更にくるりと後ろを振り返れば、オレの身体は上等なソファに寝かされているのにようやく気が付いた。 「起きたか?」 「っ!? ……あ、アンタ…」 自身の置かれた状況を整理しようとした時に、不意に横から声を掛けられてオレはびくりと肩を揺らしてそちらへ視線を向けた。 その先には先ほど自身の鳩尾に一発お見舞いした人物で、彼は大きな机の上に書類を広げた状態でこちらを見ていた。 さっきは暗い路地裏という場所であったからか、その顔の細部までは良く見えなかったのだが、今のこの明るい部屋で見た彼の顔にはどこか見覚えがあった。 「あっ!! ……アンタ、生徒会長の…っ!?」 「……ようやく俺が誰だか分かったみたいだな。……そうだ、俺がこの学校の生徒会長、グリーンだ」 そう言ってふんぞり返った彼の顔を、オレはようやく思い出した。 彼はこの学校の学校長の孫であり、全校生徒を纏める生徒会長であるグリーンと呼ばれる者だということを。 オレは滅多に生徒総会なんてものには出ないが、彼の顔は生徒会が発行する会誌などで何度か見たことがある。 ようやく自身が喧嘩を吹っ掛けた人物の偉大さを知り、オレの顔には嫌な汗が伝った。 そんなオレに気付いているのかいないのか、彼はオレの顔を一度見たきり手に持った書類に視線を映したまま言った。 「俺に喧嘩を売った罪は重い。よって、お前を今から会長である俺の補佐、生徒会副会長に任命する」 「は……、はぁっ?!」 「ちなみに拒否権は無い」 「ちょ、……そんな強引な…」 急に告げられた言葉に反論の時間さえ与えず、視線を上げた彼はオレを見据えてきっぱりと言い放った。 先ほどの会話でも思ったが彼はかなり自分勝手で強引な人間だということを、オレは身に染みて感じた。 「ああ、もう一つ言い忘れていたことがある」 「はい?」 「これを」 「……ちょっと!? これって…っ!!」 何かを思い出した彼が不意に立ち上がり、未だソファに身体を乗せたままのオレの前に来ると、彼は手に持っていた固くて重いものをオレの首へと、“嵌めた”。 何かと思い今しがた嵌められたモノへ手を伸ばせば、目の前にいる会長はオレに向かって大きな手鏡を差し出してきたので、それで確認した時にオレはあまりの衝撃に目を見開いた。 そこに映ったオレの首には、なぜか首輪が嵌っていた。よく見ればご丁寧にリードまで付いており、そのリードはオレの首からスタートし、彼の右手でゴールを迎えていた。 「言わずもがな。これはお前を縛り付ける為の“首輪”だ。俺はお前が気に入った」 「は、ぁ…」 「俺は気に入ったものは片っ端から手に入れる主義だからな。…今日からお前は俺の右腕兼、俺の恋人っつーことで。よろしく」 「はぁ……はぁっ?! ちょ、アンタ正気ですか!?」 「アンタって言うな、グリーン先輩って言え。……俺は本気だ」 「すみません!オレにはそんな趣味は無いんで……っ!!」 「ならこれからなっていけばいいさ。つーことで、よろしくな、“ゴールド”」 「んぅっ!?」 まさかのアブノーマル宣言に身の危険を感じたオレは、何とか彼から逃れようとするが今しがた嵌められた首輪に付いたリードに引かれ、彼の方へと身体がつんのめった。 そして傾いたオレの身体を抱き込みながら知っているはずのないオレの名前を耳元で囁いて、彼はオレの唇へ自身のソレを重ねた。 (始まりは、強引なキスから) その唇の感触を感じながら、オレは本日二度目の気絶をした。 |