※キャラ崩壊注意! 「グリーンさんっ!! 何なんですかこれはっ!」 「おー。よく似合ってるじゃねぇか!」 「ちょっ、捲らないで下さいっ!!」 つい先日、オレはやっとの思いで自身の母親に新しいゲーム機とソフトを買ってもらった。 それが嬉しくて嬉しくて恋人であるグリーンさんとのデートさえもそっちのけでゲームをプレイをしたことも多々あり、オレはその度に彼に呆れられていた。 だけど彼もまだ子供なので新しいゲームに興味があるらしく、ゲームをする時は決まって彼も誘って一遊んでいた。 今日は珍しく彼の方から「ゲームをしよう」と言われたので二つ返事で頷くと、ゲームを始める前に彼は一つの提案をしてきたのだ。 ―『なぁ、今日は一つ賭けをしてみないか?』 その言葉に首を傾げながらいると、なぜか満面の笑みを浮かべた彼は続けてこう言った。 『対戦で勝った方が負けた方の言うことを《何でも聞く》、っていう賭け。どうだ?面白そうだろ?』 ま、負ける気はしないけどな。提案をした後に放たれたこちらを見下したような言葉にカチンときて、オレは勢いよく頷いてしまったのをやっと後悔しはじめた。 何故、あの時彼の挑発に乗ってしまったのだろうか。しかし、後悔先に立たず。後の祭りであった。 普段から彼に負けっぱなしのオレが今日に限って連戦連勝。なんてハズも無く。 オレは彼にコテンパンにのされ、とうとう自身から白旗を上げて降参した。 『で、グリーンさんの命令ってなんですか?あ、先に言っときますけど、あんまり無茶なのは聞けませんからね』 『そんなに難しいことは要求しねぇって。俺の命令はこれ。……この服を着て欲しいだけだからな』 ゲームの電源を切り、互いに正座したまま向き合った状態で彼の命令を待つオレに、彼が渡してきたのは何かの衣装だった。 真っ白な服でどこか女性じみたデザインなのが気にはなったが、彼の命令だし、断ると別の意味で厄介なので大人しく服に着替える為に、オレは一階へ降りて行った。 だが、着ていく内に自身の疑念は確信になった。 渡された服は明らかに女性物で、うさぎをイメージしているのだろうか? さくらんぼがワンポイントとしてプリントされている白いワンピース、そしてその襟首には大きなリボン。肩にはコートを羽織り、足は膝丈上の、いわゆるニーハイブーツと呼ばれる靴を履き、頭に着けた髪飾りにとブーツの足首の辺りにはうさぎの尻尾のようなふわふわのファーが付いていた。 今更ながらに自身は彼の変態的な思考の餌食にされたのだということを悟り、ヒールが高く歩き辛いブーツでドタドタと激しい音を立てて二階へ駆け上がれば、彼はオレのベッドの上で雑誌を眺めており、オレの登場に気付き女装をしたオレの身体を上から下へと舐めるようにして見た後、ぐっと親指を立てながら冒頭の言葉を告げた。 恥ずかしさに顔を真っ赤にしながら抗議しても彼には何のダメージも無く、興味深そうにオレの周りを回ると、背後からスカートの裾をぺろりと捲り上げてきた。 それを両手で押さえながら抵抗しても、彼はひょいと交わして再度オレの前に来ると、うんうんと頷きながら一人で納得した様子。 「やっぱ、俺の目に狂いは無かったな。よく似合ってるぜ、“白うさぎ”!」 「初めからオレにこの恰好させる為だけに今日ゲームしようとか言ったんですね?! サイテーですよっ!! だいたい、白うさぎってなんですか!?」 「さぁ、なんのことだか…。白うさぎっつーのはその衣装の名前。その衣装はアニメに出てくる色っぽい姉ちゃんが着てる衣装の一つなんだ」 「つまり、“コスプレ”ってことなんですね…?」 「そうそう!初めは似合うかな?ぐらいにしか思ってなかったが、うんうん……。充分イケるレベルだなっ!!」 「意味分んないですってっ!!」 ペラペラと衣装の説明をするグリーンさんに若干引きながら、オレはこの服がアニメキャラのコスプレであるという事実に打ちひしがれていた。 まさか彼がそんなところからネタを引っ張ってくるとは思ってなかったのが大半だが、そこでオレに女装をさせるという結論に至ったのか考えるだけでオレはふっと意識が遠のくような感覚に襲われる。 「そもそも、どうしてこの服をオレに着せようと思ったんですか?」 半分力尽きながら、げっそりとしたまま大元の理由を彼に問い質せば、彼はよくぞ聞いてくれたとでも言うように両手を広げて大げさにリアクションをとってみせた。 「実はな、この間テレビを見てた時に、その衣装が出てくるアニメの劇場版のCMがやっててさ…。その時に流れてた曲が気に入って調べてみたんだよ……。そしたらその歌詞が結構エロくてさ〜っ!んで、もっと調べてたらその衣装の販売ショップも見つけて」 「見つけて?」 「気付いたら購入ボタン押して送信した後だった」 「……もう何て言ったらいいのか分りません」 てへっ、とでも言いたそうに頭を掻く彼にオレはかける言葉さえも失ってしまった。 ここまで彼が変態的な思考を持った人間だなんて思いたく無かった。 オレの純粋なガラスのハートに少しヒビが入るほど、今回のこの出来事はショッキングであったのだ。 「そんなに落ち込むなよ…。せっかくのコスプレが台無しじゃねぇか…」 「オレは貴方のその顔に反した変態的思考がすでに台無しだと思ってますけどっ!!」 「まぁまぁ、そう怒るなって……。よ、っと」 「うわっ?! ……な、何するんですかっ!! なんで押し倒して……っ!?」 「まぁ、コスプレでヤッてみるのも一興かな?と…」 ベッドに押し倒したオレの上に跨り、今しがた着たばっかりの服を肌蹴させながら、彼はにっこりと笑いながらそう告げる。 とことんブッ飛んだ彼の思考に翻弄されながらも、なんとかこのプレイだけは阻止せねばと全力で抵抗をしようとした時、彼が点けたのだろうか。いつの間にか点いていたテレビのスピーカーから音楽が聞こえてきた。 『《わたしあなたのうさぎのWhite〜♪》』 「お、これこれ!これがお前に着せた衣装の元ネタのアニメだよ」 「は?」 「ちょうどいいや、ほら、見てみろって…」 そう言った彼がベッドに押し倒したオレの顔を持ち上げて画面へ向ければ、そこにはオレと同じ衣装(正確に言えば向こうが本家)を着た少女が、機械仕掛けの建物の中で可愛らしく踊っている映像が目に飛び込んできた。 すると画面が変わり今度は黒を基調とした、言ってしまえばボンテージ服のような衣装の女性が妖艶に、けれど無邪気に微笑みながら、その性を主張する身体を厭らしくくねらせていた。 『《アタシあなたのうさぎのBlack〜♪》』 「本当は俺もお前と対であの黒い方の衣装着たかったんだけど、さ……」 「視覚の暴力になるんで絶対に止めて下さいっ!!」 「そう言われるのが関の山だろうと予想してたから止めた」 「賢明な判断ですね…」 一瞬しか映らなかったが、あの黒い方の衣装を着たグリーンさんを想像してしまったオレは、自分の豊かな想像力を恨んだ。 だが、あの姿が目の前にあるのよりは数倍マシだと、なんとか自分で自分を慰める。 あんな姿を男であるグリーンさんがしたとなれば、彼はたちまち刑務所行き確定なのは間違いない。 彼のまだ理性の残った判断だけは褒めてやった。 「でもな、コスプレは諦めたけど……」 「はい?」 「あの歌詞の通りに、俺は行動をしようと思う」 そう言ってにやりと厭らしく笑った彼の言葉と同時に、オレの耳には彼が聞いたであろう歌のワンフレーズが流れ込んできた。 『《ウィンク合図で胸の谷間にダイブ〜♪》』 「っ!? ま、まさか……っ!!」 「そのまさか。ゴールド、覚悟っ!!」 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 襲いかかってきた彼を退ける時間さえも与えられなかったオレの叫びは、二人しかいない部屋に虚しく響いた。 (微笑む天使のウソ悪魔) それでもこの愛止められない |