グォォォォォ!


大きな咆哮を上げ、相手のニドキングは地面へ伏す様にして倒れた。
対する自身の相棒であるバクフーンは、悠然と立ったまま。


「…か、勝った!やったぜ、バクフーン!!」


拳を高らかに上げ、バクフーンと抱き合う。
そんなオレと喜びを分かち合う様に、バクフーンも背中の炎を大量に噴射しながら上下に跳ね上がった。


「…ちっ!」


手持ちのポケモン全てを倒された相手の少年は、舌打ちをしながら地に伏すニドキングをボールに収める。
赤髪から覗く鈍く光る黒銀の瞳が、こちらを悔しそうに睨み付けた。

彼とは前にもバトルをしたことがある。
その時、バクフーンはまだ進化しておらずヒノアラシでの戦闘だったのだが、結果は散々たるだった。
互いに連携の取れた相手との戦闘に自分たちは翻弄され、ヒノアラシはボロボロの傷だらけにされてしまったのだ。

傷だらけの相棒に駆け寄った時に見た人を見下すような冷めた目に、苛立ちが募ったのは言うまでもない。


―『いつか絶対、見返してやる!』


いつもその気持ちを胸に秘めて、必死にトレーニングしてきた。
その成果が、やっと現れたのだ。彼のひと睨みくらいどうってことはない。


「どうだ!」

「ふん。一回勝ったくらいでいい気になるな。……でも、久々に良いバトルだった。お前、名前は?」


ふふん。と自慢げに相手の少年に言い放つが、彼は減らず口を叩く。が、その顔は先ほどと違い少し満足そうに見えた。


「オレはケンタ!ワカバタウン出身のケンタだ!」


そういえば、互いに名前を名乗っていなかったな。
彼に問われて初めて認識した。
今思えば過去に行われたバトルでも名乗っていなかったのを思い出した。


「そうか、ケンタ…か」


彼は自分の名前を反芻し、満足そうに笑う。
極悪そうな外見によらず性格はまともなようだと判断し、オレは努めて友好的に手を差し出し、彼に握手を求めた。


「あぁ!これからよろしくな!…それで、お前の名前は…」

「気に入った」

「…は?」


そんなオレの手を握り返す事無く不意に唇に当たったのは、柔らかい、けれど、少しカサついているナニかの感触。

起こってはいけない事象を突きつけるように、目の前には先ほどの少年の顔があった。


「…っ?! なに、すんだ!」


頭が今の状況を認識するのと同時に、出せる全ての力で彼を突き飛ばす。
彼はふらりとよろけながらも、平然としている。というよりむしろ、すごく嬉しそうに見えたのは気のせいだと思いたい。


「なにって…キス」

「あ、…のなぁ!オレは男だぞ、分かってんのか!?」

「重々承知だ」

「だったら、なんで…」

「さっきも言っただろ?気に入ったと」


清々しいほど真っ直ぐな瞳で、彼は言う。
あ、なんだか頭痛がしてきた…。

助けて、誰か…


「ケンタ。今日からお前は…」



(「俺のモノになれ!」)



オレはオモチャじゃねぇ!!