※友人のまこちゃんに捧げる! ※本人(誠)様のみお持ち帰り可 「好きだ〜」 「………」 「好きだ」 「………」 「好き」 「…はぁ。…何なんですか、さっきから」 二人しかいない部屋に、恋人であるレッドさんの声だけが響く。 オレを後ろから抱きすくめたまま先ほどから同じ言葉を延々と繰り返すレッドさんに、オレは彼の方を振り返りながら溜め息交じりに声を掛けた。 すると、今までなんの反応も示さなかったオレが声を掛けたのが嬉しかったのだろうか。瞳をこれでもかというほど爛々と輝かせたレッドさんは、オレの背中へ頬をすりすりと擦り付けてきた。 そんな彼の行動もオレにとっては日常茶飯事なので、特に気に留めることも無く再度レッドさんへと言葉を投げ掛ける。 「レッドさん、何ですか?」 「やーっと口利いてくれたなぁ。…まったく、こんなに近くにいるのに無視すんなよなっ!!」 「いきなり変なこと言い出したのはレッドさんじゃないですか!」 「…可愛げの無い奴。……そこはさぁ、『オレも好きです』って言ってキスの一つくらいしてもいいんじゃねーの?折角二人きりなんだしさぁ…」 「なっ!?」 急に言われたその言葉に弾かれたようにレッドさんの顔を見やれば、彼はにっと悪戯気に微笑んだ。 その顔と先ほど言われた言葉がオレの頭の中で反芻されるのと同時に、カッと頬が熱くなるのを感じる。 確かに、オレ達は世間一般でいえば“恋人”に分類される間柄である。 それに、今いる彼の家はいつもは彼の母親がいるのだが、今日は珍しく買い物に出掛けておりしばらく帰って来ないらしい。 そんな美味しい状況をレッドさんが見逃すハズも無いと、どうしてオレは思わなかったのだろう。 思わず逃げ腰になるが、それさえも見越していたのだろう。 腰に回された両腕が逃がさないとでもいうように強くオレの身体を抱き留め、いよいよオレは焦り始めた。 「なぁ、キスしろよ」 「いや、……急にそんなこと言われても……オレにだって心の準備っつうもんが…」 「じゃあ出来るまで待っててやるよ」 「で、でも、……っ」 「お前、前にも言ったよな?『ムードを大事にしろ』って…。今まさに“そういうムード”だと、俺は思うんだけどな」 「っ!?」 「もう逃げらんねぇって…。諦めてキスしちゃえよ」 往生際が悪いとでも言いたげに、レッドさんはオレの顔をじろりと睨み付ける。 いつの間にか身体も彼の方へ向かされており、オレ達は互いに向き合ったままの状態にされていた。 恋人同士だからキスだって今まで何回もやってきたけれど、オレはいつもキスを受ける側だった。 その原因は彼の気まぐれな性格が深く関わっていて、自分の気の向いた時にふっと行動に移すタイプだったのが影響したのかもしれないが、それでも、彼は今までだって一度たりともオレにキスをしろとねだったことは無い。 だから、オレが彼にキスをするということはすごく難易度の高いものなのだ。 だからこそ初めての行為の強要に、オレは恥ずかしい気持ちばかりが勝ってなかなか行動に移せないでいた。 けれど、やはり気に障ったのだろうか?レッドさんは急かすように身体を揺すって催促する。 「そう言えば、お前からのキスってもらったこと無かったな…」 「……そ、そうです、ね…」 「ちょうどいい機会だし、な?早くキスしてくれよ」 「……でも」 「いつも俺ばっかりじゃねーか。それともあれか?……ゴールドは、俺のこと嫌いか?」 「!? そ、そんなことありませんっ!! オレだってキスの一つくらい…っ!!」 「なんだ、やっぱり出来るんじゃん。なら早くしろよ」 「っ!!? か、カマかけましたねっ?! 卑怯ですよ、レッドさん!」 「さぁ?何のことだかさっぱり」 「〜〜〜〜〜〜っ!!」 彼もやはり思い当たる節があったのだろう。オレからのキスが一度も無いことを指摘すると、ちょうどいい機会だと言ってオレを再度促してくる。 やらなければと思う反面、やはり恥ずかしさが先に立つオレは未だに行動に移すことを渋っていると、彼は悲しそうに目を伏せ、ぽつりと零した。 その言葉にカチンときて、つい勢いで言い返してしまったが、どうやら盛大な墓穴を掘ってしまったらしい。要らぬ言葉まで口から零れ落ちてしまった。 そしてその言葉を上手く拾い上げたレッドさんは先ほどまでの悲しそうな顔なんて何処へやら。しめたとばかりに満面の笑みを浮かべた。そんな彼の反応にようやく自身がカマを掛けられたことを理解し、顔を真っ赤にしながら反論をすれば、彼はあくまでもシラを切り通すらしくわざとらしくそう言ってからオレを見てにっこりと笑った。 「ほら、ゴールド」 「うう……」 「少し合わせるだけでもいいから、な?」 「そ、それくらいなら…」 彼のお情けの妥協案にほっとしながら、オレはとうとう覚悟を決め彼の肩に手を置いて、自身の顔を彼の唇へ向かって降ろしていく。 オレが完全に目を閉じる前に盗み見た彼の顔は俺と同じく目を閉じた状態だったので、絶対に目を開けないでくれよと願いながら、遂にオレ達二人の唇は重なった。 「…っ!? ん、んんぅっ!」 「ん……」 ちゅっと軽いリップ音が鳴ったのと柔らかい唇の感触を確認して、オレはすぐさま唇を離そうとしたが、急にレッドさんの手がオレの頭を押さえ唇を深く重ねてきた。 オレはすぐに口を離すつもりだったので唇が半分開いており、そこから狙い澄ましたように彼の舌が入り込んできた。 その肉厚な舌に口腔内をぐちゃぐちゃに犯され、互いの唾液が混じり合ってちゅくちゅくと厭らしい音を響かせているのを耳が拾って顔がさっき以上に真っ赤に染まったのを自覚しながら、オレはどんどんと彼の胸元を激しく叩き抵抗した。 すると意外にも彼はあっさりと自分を解放した。その時に互いの唾液が銀糸を作り、部屋の明かりに反射してきらりと光った。 「っは……な、にするんです、かっ!!」 「いや〜、ゴールドがあんまりにも可愛いからな、つい」 「なぁ〜にが、つい、ですかっ!! 完全にわざとでしょうっ!?」 「いやいや、本当は提案した通りに唇を少し合わせるだけにしようと思ったんだって。だけど、理性が、さ…」 「〜〜〜〜っ!し、しらじらしいっ!」 それだけ言ってもまだオレの頭の中には先ほどの行為が延々と繰り返されており、恥ずかしくなって反論したその勢いのまま、オレはレッドさんの胸元にぽすんと倒れ込んだ。 そんなオレにレッドさんは何をいう訳でもなく、ただオレの頭を撫でながらくすくすと笑っていた。 「笑わないで下さい……」 「だってゴールドが可愛いから」 「…レッドさんの、馬鹿」 「馬鹿で結構。それだけ俺はお前に惚れてるってことだからな。褒め言葉として受け取っておくよ」 「………っ」 それ以上は二人とも何も言わず、ただ互いの温度を確かめ合うように抱き締め合った。 トクントクンと一定のリズムを刻む彼の拍動を聞きながら、オレも意地悪なこの人のことを心底好きなんだな。と感じていた。 まあ、意地悪な彼のことだ。これを言えばまた何かやれと要求してくるだろう。 だから、言ってやらない。 それに、今それを言えるほど、オレには余裕なんてこれっぽっちも無いのだから。 (けれど、熱情的に。) 互いを想う気持ちだけは、熱く燃えているけれど。 |