※友人の幸ちゃんに捧げる!
※本人(鶏幸)様のみお持ち帰り可





「よ、ゴールド」

「あっ!グリーンさん。こんにちは」


姉であるナナミから日用品の買い付けを命じられ立ち寄ったタマムシデパートで、俺は見知った後姿を見つけ声を掛ける。

くるりと振り向いた相手の顔を見れば、それはやはり自身が想像した人物であるゴールドで、彼は声を掛けたのが俺だと分かると笑顔で挨拶を返しながらこちらへ駆け寄ってきた。
俺が彼と会う時は大抵彼が一人の時が多いのだが、今日は違った。

駆け寄ってきたゴールドの後ろについて来るような形で姿を現したのは、長い赤髪と冷たい光を放つ切れ長の瞳が印象的な、ゴールドと同年代くらいの少年だった。

ゴールドの友達と呼ぶには二人の纏う雰囲気が正反対すぎて、俺は不思議に思いながらもゴールドに話し掛けた。


「久しぶりだな、ゴールド。最近こっちに顔見せて無かっただろ?」

「お久しぶりです!ええ、ここ最近はジョウトで図鑑を埋める為に活動してましたからね…。あと、コイツと一緒に修行してました。な?シルバー」


そう言って後ろを振り返ったゴールドは、その少年に向かって話を振った。
どうやら名前はシルバーと言うらしい。銀を現す名前の通り冷たい印象を受ける少年は、俺に対して挨拶することも無くゴールドの問い掛けにただ一言、素っ気なく「ああ」と返すだけだった。


「グリーンさんはどうしてここに?グリーンさんだって滅多にこっちに来ないじゃないですか」

「ああ、俺は姉さんに買い物頼まれてな。ま、もう終わったけど」

「そうだったんですか。オレ達はきずぐすりや補助アイテムの買い足しに来てたんですよ!今日はシルバーが<おつきみやま>で修行するって言ってたから、そのついでにと思ってコイツも連れて来たんです」

「へぇ……」


俺達二人が互いにここへ来た理由を話している間も、シルバーと呼ばれた少年は一言を発さず、ただ何故か俺を射殺すほどの鋭い視線で睨みつけてくる。
その視線を真正面から受け続けていると、俺はようやく彼の意図を掴むことが出来た。


「(コイツもきっとゴールドが“好き”、なんだな…)」


何故それが分かったかって?俺も奴と同じくこの目の前の少年、ゴールドに好意を抱いているからだ。

ゴールドは人を惹きつける天才だ。
纏う雰囲気が俺の幼馴染であるレッドと良く似ており、初めはただの親近感からくるものかと思っていたが、どうやら違ったらしい。
気が付けば目が彼を捜していて、会えば鼓動が高鳴って、離れれば胸が締め付けられて苦しくなる。そんな感情にただ一つ名前を付けるならば、これは”恋”だ。

初めこそ超えることの出来ない性別や年齢、境遇の壁に悩みもしたが、そんなものとうの昔に考えることは止めてしまった。
好きな人と一緒にいたいと願うこの気持ちに壁など存在すること自体可笑しいのだから。

けれど、積極的にアプローチするのだけは、未だに出来そうになかった。
いくら自分が吹っ切れたからといっても、ゴールドが受け入れてくれない以上はこの想いは不毛のものとなるのだ。
だから、今までは“憧れの先輩”という立場に甘んじていたが、予想外な恋敵の登場に、俺は内心焦りを感じ始めていた。


「立ち話もなんですから、屋上に行きましょうか」


だからそう言ってきたゴールドのその言葉に甘えて、煩い心臓を鎮めながら、俺達三人は屋上へと場所を移したのだった。




















「じゃあ、オレ飲み物買ってきますね。グリーンさんは何がいいですか?」

「俺はサイコソーダ」

「シルバーは?」

「……俺もサイコソーダ」

「分かった。ちょっと待ってて下さい」


ぱたぱたと屋上の出入り口近くに並ぶ自販機へ向かってゴールドは行ってしまった。
残された俺達二人の間に会話は無く、屋上に設置されたテーブルで向かい合いようにして座っているだけだ。


「…アンタ、ゴールドが好きなんだろ?」

「そうだけど?」

「悪いが、譲る気は無いからな」

「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ」


不意にシルバーが口を開いたかと思えば、次に彼の口から飛び出てきたのは宣戦布告の合図だった。
さきほどと同じように力強い視線が俺を見据えるのを軽く受け流しながら、俺も負けじと反論する。
彼もやはり俺のゴールドに向ける感情に気付いていたのだ。
恋をする者は邪魔者を敏感に察知する。まるで動物みたいだと、俺は反論しながら心の隅でそんなことをぼんやりと考えた。


「ゴールドは誰にも渡さない。アイツは、俺が手に入れる」

「そう簡単にトキワのジムリーダー、グリーン様を超えられると思うなよ?」

「ふっ、アイツのライバルをやっている俺がそんな言葉で怯むとでも?」

「…上等だ、その勝負受けて立つぜ」

「…望むところだ」


にやり。互いに絶対に負けないという自信を持って、不敵に笑みを零す。
すると遠くの方から俺達の勝負の鍵を握る愛しい少年が、飲み物が入った三本の缶を抱えながらこちらへ向かって戻って来た。


「遅くなってすみません。はい!グリーンさん」

「サンキュ」

「はい!シルバー」

「…ありがとう」


戻ってきた彼は息を弾ませながら席に着き、俺達二人に買ってきた飲み物を順に手渡していく。
その時にちらりと見えた恋敵の表情は驚くほど和らいでいた。
その顔についさっきまで醸し出していた冷たい印象はどこにも見当たらなく、やはり恋はひどく人を変えてしまうものなのだな、と俺は苦笑した。

それでも、彼に恋したことを後悔はしていない。
後悔するとしたら、それは俺がゴールドに告白することなく、恋敵であるシルバーに彼を奪われた時だろう。
だが、負ける気はしない。


「(障害のある恋の方が燃えるって言うからな…)」


ぷしりと軽快な音を立て、買ったばかりのサイコソーダを勢いよく煽る。
口の中で弾ける泡が、これから始まる争奪戦の合図のように思えた。



(Signal the beginning)



彼の心を掴むのは、