※友人の那緒ちゃんに捧げる!
※本人(那緒)様のみ持ち帰り可





「……はぁ〜。……暇だ」


一人(正確にはジムの入り口にもう一人)しかいないジムの中で俺は寂しく呟く。
今のところ挑戦者は一人も来ていない。まあ、今日このジムに挑戦者は来ないなんてことは予めリーグ本部から知らされていたから別にどうでもいいのだけれど。
それでも俺がこうしてジムの中で無駄な時間を過ごすのには訳がある。



―『好きだ。付き合ってほしい』



数日前、俺は意中の相手に告白した。
その返事を返してもらうのを待っているのだ。
出来ればその場で即返事をもらいたかったのだけれど、それは相手にとってとても難易度の高いものだったから、敢えて返事をもらうことを先延ばしにしたのだ。

なにせ、俺が惚れた相手は年下で、それに俺と同じ男だったから。

相手の名前はゴールド。つい最近ジョウトリーグを制覇し、カントー地方のジム制覇の為に一人進出してきた凄腕のトレーナーだ。
ゴールドの持つ瞳の輝きはかつて自分を派手に打ち負かしチャンピオンの称号を手に入れた幼馴染に良く似ていたが、不思議と嫌悪感は湧かなかった。
その瞳の輝きに魅せられたと言っても過言じゃない。俺はいつしかアイツの心を欲するようになった。

アイツの笑顔が俺の心を掴んで離さない。
アイツの声が俺を縛り付けて離さない。

とうとう感情を抑えきれずに、俺はゴールドに告白した。



―『…少し、考えさせて下さい』



俺の一世一代の告白の後、間を置いてゴールドはそう言った。
必ず返事はすると言ってその場を去ったその日から俺は毎日、例えジムに挑戦者が来なくてもいつでもアイツが来た時に迎えられるようにここで時間を潰している。


「リーダー。日も暮れてきたし、そろそろジム閉めませんか?」

「…あ、ああ」


俺と同じく今日も一日ジムの入り口で待機していたガイドがそう促してきたので、俺は渋々ジムを閉める為の後片付けをする。
いつでも待ってるなんて恰好良いこと言ったけれど、何日待っても返事が来ないのは正直堪える。

やはり、同じ男からの告白なんてそう簡単に受け入れてもらえないよな。
ふ、と一つ自嘲気味に笑みを零しながら入り口に向かうと、不意によく聞き慣れた声が聞こえてきた。


「あ、リーダー。今、ゴールドが来ましたよ!」

「……こんばんは、グリーンさん」

「っ!? ………よ、よう」


もしやと思い駆け足気味に声の方へ駆け寄れば、そこにはガイドと楽しそうに話す俺の意中の相手、ゴールドがいた。
ガイドが俺に気付きゴールドに声を掛けると、奴はなんとも表現しがたい顔のまま俺に挨拶をした。
俺も想定外のゴールドの来訪に心の準備が出来ず挨拶を返す際、少しぎこちなくなってしまった。


「……なんか、用か?」


少し重い空気が流れるのに耐えきれなくて、俺はゴールドの反応を窺うようにそう問い掛ける。
するとゴールドは勢いよく顔を上げたかと思うと、俺の手をぐいっと強引に引っ張り、外へと連れ出そうとした。


「お、おいっ!? なんだよ、急に!」

「ちょっと、オレに付き合って下さい!」

「随分急だな…ちょっと、待てって!まだジムの施錠が…っ!」

「ガイドさん。後はよろしくっ!」

「おいっ!」

「お〜。任せておけ」


随分と強引な彼の行動にあたふたしながらそう告げれば、彼は傍にいたガイドに一言そう言ってずんずんと足を進める。
ガイドも何かを感じたのだろう。了解の意を示しながらこちらに親指を突き立てて俺達二人を送り出した。

ゴールドはそれ以降俺に一言も声を掛けず、手持ちのポケモン中からヨルノズクを呼び出し俺を乗せてどこかへ向かって飛び立った。




















「…静かにしてて下さいね」


唇に人差し指を立ててそう忠告するものだから、俺は何も言うことが出来ずただ頷くことしか出来なかった。

俺達二人が降り立ったのは三番道路と四番道路の間に位置する<おつきみやま>の広場。
彼が何を思ってここに俺を連れてきたのか分らないので、俺は大人しくゴールドの後ろについていく。


「……あ、」


そんな疑問を抱きながらゴールドに連いていけば、彼が辿り着いた先は広場の奥だった。
だが、そこには俺が記憶に無い光景が広がっていた。


「(ピッピ達が……踊ってる…?)」


俺も何回か来たことがあったが、今俺の目の前に広がっている光景は一度たりとも見たことが無かったのだ。目の前では野生のピッピが何匹かで群れをなし、円を描くようにしてダンスをしている最中だった。
ピッピ達の可愛らしい声が辺りに響き渡り、俺はその光景に驚きと感動を隠すことが出来ず、ただ食い入るように彼らのダンスを見つめた。

やがて彼らのダンスが終わり、ようやく俺達が見ていることに気付いたのだろう。ピッピ達は一目散に逃げるようにして、慌ただしくその場を去って行ってしまった。
それを見届けたゴールドは、さきほどまでピッピ達がいた場所に落ちているヒビの入った岩を前に、ボールからイワークを出してその岩を砕いた。


「…イワーク。《いわくだき》」


主人の命に背くことなく、イワークは目の前の岩を砕いてみせた。
目の前の岩が完全に砕けたことを確認して、ゴールドはイワークをボールに仕舞い、その砕かれた岩の中から“何か”を取り出し、俺の方へ近寄ってきた。


「はい、グリーンさん」

「何だこれ?……って、これは、<つきのいし>?……」

「あげます。よかったら使って下さい」


ふわりと微笑んだゴールドが同時に手渡してきたのは特定のポケモンを進化させる特別な石の内の一つ、<つきのいし>だった。だが、俺は何故彼がこれを俺に寄越すのかも、この場所へ連れてきたのかも分らぬままだったので、素直に受け取ることが出来なかった。


「別にもらってもいいけどよ……。なあ、今日は何でここに俺を連れてきたんだ?そろそろ理由を話してくれてもいいんじゃねーの?」


ピッピ達もいなくなり、この場所に居るのは俺達二人だけ。もう誰にも気を遣う必要はない。
そう思って今度こそ彼に真意を尋ねれば、彼は困ったように思案したのちにくるりと背を向けて俺に言った。


「オレ、いつもはここに一人で来るんです。………ここに来るのは、………ピッピ達のダンスを誰かと一緒に見るのは、グリーンさん。貴方が初めてなんです」

「…それが、なんか意味あんのかよ」

「…グリーンさんって案外鈍いんですね」

「なんだとっ!?」

「だからっ!」


そう言って言葉を切ったゴールドはこちらを振り返り、キッと俺を見据えた。
その顔は夜の闇に負けないくらい赤く染まっており、月に反射して綺麗に俺の瞳に映った。


「これが、オレの“答え”です!!」


そう言い切るのと同時にゴールドは俺の胸へ飛び込み、両手で俺の身体を抱き込んだ。
その反応にようやく、これが俺の告白に対するゴールドの答えだということを理解すると、俺の口は自然と弧を描いていた。


「……随分、回りくどいことしやがって…」

「…だって、言葉で言うの恥ずかしかったから…。…なのに、グリーンさんが鈍感なせいで結局恥ずかしい思いしたじゃないですか」

「俺のせいかよ…。だいたい、お前が俺に何も言わずにこんなとこまで連れてきたのが原因だろうが」

「それは、そうですけど…」


抱き付いたままのゴールドの身体を更に抱き込むようにして包み込めば、彼は恥ずかしそうに胸に頭を摺り寄せてきた。


「ったく、……時間掛かり過ぎだっつーの…。どんだけ俺が悩んだと思ってんだ」

「………」

「お前には振り回されてばっかりだ…」

「グリーンさんだって…」

「あ?」

「グリーンさんだって、オレのこと充分振り回しましたよっ!! あの告白を受けてから最低でも三日は眠れなかったんですからねっ!?」


顔を上げたゴールドの顔はまだ赤くて、俺は少しだけ心臓の拍動が早くなった。
でも、振り回されていたのが俺だけじゃないことにひどく安心して、俺はくすりと笑みを零した。


「そっか。……安心した」


それだけ言って、俺は彼が反論する前にその唇を奪った。



(星も、綺麗です。)



夜空の下、恋が始まりました。