※病んでる(?)シルバー





「ただいま、ゴールド」

「…おかえり、シルバー」

「いい子にしてたか?」

「うん…」


今しがた帰宅した俺の問い掛けにそう答えるゴールドの頬を、俺はふわりと撫でた。
けれど、俺がどんな表情で撫でたかはゴールドにはまったくもって分らない。何故なら、彼の両目は俺によって塞がれてしまったから。
別に一生見えないわけじゃない。ただ単に布で視界を奪っただけ。けれど、これから先もずっと光を奪われたまま過ごしていったら確実にゴールドの両目は失明し、文字通り俺の表情さえ確認することは出来ないだろう。


『シルバー、これ……解けよ…っ!!』


俺の隠れ家の一つへゴールドを運び、この監禁生活は始まった。
その時からゴールドの目には俺が予め用意しておいた布を巻いておいたので、周りの状況が確認出来ない状況はひどく怖いのだろう、彼は暴れ抵抗することでその不安を払拭しようとする。


『それを解いたらきっとお前は後悔する……。だから、断る』


訴え掛けるようなゴールドの願いを、俺はは冷たく切り捨る。
けれど納得がいかないのだろう。ゴールドは負けじと反論をする。


『ふざけんなっ!なぁ、本当にどうしちゃったんだよ、シルバー……!!』

『俺はお前が好きだ。お前がその瞳に誰かを映す、そして笑いかける。……そんな当たり前の光景が、俺にとっては苦痛でしかないんだ』

『シルバー……』

『だからお前を閉じ込めた。その瞳に誰も映さないように』


ゴールドの悲痛な声が辺りに響く。
そんな彼に淡々と自身の気持ちを告げれば、彼は信じられないといったように、掠れた声音で俺の名を呼んだ。
彼の表情は見えなかったが、きっとこの世の終わりを垣間見たように絶望した表情だったに違いない。

それからというもの、彼は抵抗することを諦めたのか大人しくこの監禁生活を送っている。
俺も彼が不自由しないようにと衣服住には細心の注意を払った。
けれど、彼の目隠しを解いたことは一度も無い。

我ながら矛盾していることなんて分かっている。
「俺を見ろ」と言いながら、俺はこの生活が始まってからというもの、一度たりとも奴に顔を見せたことは無い。理由は至極簡単なこと。この俺の歪んだ顔を見せたくないからだ。

これが間違った愛情の与え方ということぐらい、俺にだって分かる。
でも、俺はちゃんとした愛情を与えられてことがないから、分からないんだ。

だから、こんなやり方でしか愛を表現出来ない。
だからこそ、俺は今の自分の顔なんて絶対ゴールドに見せたくない。
こんなに憔悴して疲れ切った俺の顔を見たら、ゴールドは俺の愛情を理解する前に俺に対して同情するだろうから。


「(俺はコイツに同情してほしいんじゃない。コイツからの“愛”がほしいんだ)」


だから俺はわざと顔を見せないようにしている。
そんな俺がゴールドの目隠しを外すのはきっと、彼が俺の愛を理解した時なのだろう。


「愛してる。ゴールド」


そう言って抱き締めれば、ゴールドは黙って暖かく抱き締め返してくれるけれど、彼の瞳に付けた銀色の布の冷たさが心に強く突き刺さった。



(銀の目隠し)



他の誰もその瞳に映すな。