※病んでる(?)レッド 「どこにも、行くな…」 「………」 行けるわけないでしょ。なんてとてもじゃないが言える雰囲気ではなかった。 どこか分らない部屋に置かれたベッドの上、ベッドヘッドに潜らすようにして掛けられた手錠。そして、そこから動けないオレの上に圧し掛かるようにして覆い被さるレッドさんに、オレは諦めとも取れる苦笑を零した。 手を拘束されている以上、オレは彼に解放の意志が芽生えるまでこの部屋から、そして彼から解放されることは無い。 でも、それでいいのだ。だって、今の自分には"逃げる意思"がまるで湧いてこないのだから。 監禁された当初は、それこそ人並みに抵抗もした。 離せとか、近寄るなとか、彼に対して罵詈雑言を浴びせ、誹謗中傷をしたことだってあった。 だけれど、それで彼がオレに手を上げたことは一度たりとも無い。 ただ悲しそうに笑って、そしてオレの身体を乱暴に暴くだけだった。 乱暴な行為ではあったが根底には優しさがあり、オレはつい最近になってようやく、彼に抵抗することを止め、自身の運命を受け入れた。 ―『どこにも行くな』 いつの日か彼に言われた言葉。 その言葉に「はい」と答えたその日から、オレ達の関係は歪んでしまった。 気が付けばオレはこの部屋でこの手錠に拘束され、彼の歪んだ愛をこの身に刻まれる毎日を送っていた。 けれど、この生活で不自由したことは何一つないのもまた事実だ。 食料も衣服も彼が定期的に買い与えてくれるものだから、取りようによっては、オレは逃げる手段を与えられなかったと考えてもいいだろう。 でも、彼の哀しそうな表情もまた、自身に逃げる手段を与えなかったのだ。 きっと、彼が歪んでしまったのは自分のせい。 なら、彼の気の済むまでオレは彼の愛を受け止めよう。 一種の諦めともとれるその決断は、彼を歪ませてしまったことによる償い。 彼もまた、そんなオレの考えが読めたのだろう。 だから、一秒でも長くオレを繋ぎとめようと、彼は今日も呪詛のように愛を囁く。 その言葉はオレを静かに蝕んでいき、やがてオレの心を彼色に染めるだろう。 「(もしその時が来たらオレはどうするのだろう?)」 フッと自嘲的な笑みが浮かぶ。 考えるのさえも無駄なこと。 応えなんて初めから決まっている。 きっとまた、それに抗うことさえ諦めて、彼の愛をこの身に受け続けるのだろう。 圧し掛かられた彼の顔の部分に接する服の部分がじわりと濡れる感触に、オレは気付かぬ振りをしてそっと目を閉じた。 本当は彼に拘束されたのは片手だけなのだから、彼の頭を撫でることくらいオレにとっては造作もないこと。 けれどそれをしないのは、オレのせめてもの抵抗、なのだ。 (赤の手錠) 俺の傍にいて。 →(Side.銀金) |