※病んでる(?)グリーン 「ほら、飲めよ」 「ありがとうございます…。それじゃあ、いただきます」 湯気が立ち上る淹れたての紅茶を差し出せば、ゴールドは“何も疑う事無く”その紅茶で喉を潤した。 自身の計画が順調に進んでいることに、俺は心の中でうっそりとほくそ笑んだ。 あと数分もすれば、直ぐにでも彼は眠りに就くだろう。 「はー……。これ、とっても美味しいですね…」 「そうか?つっても所詮はインスタントなんだけどな…」 「オレの家にはこういう洒落た飲み物って無いですから…。あるといってもココアや母さんが飲むコーヒーくらいですよ」 「へぇ…」 他愛の無い言葉の応酬。けど、俺にとってはゴールドの発する一言一言がとても輝いてみえる。 だから、カチコチと時を刻む時計の音さえも消えてしまうほど、俺は彼の一挙一動に気を配り、その一つ一つの仕草をこの目に焼き付けようと内心、必死になっているのだ。 自身のこの歪んだ感情に気が付いたのはつい最近。初めはただ、新しい世界で輝いている彼に嫉妬しているだけだと思っていた。 自分にないものを持つ彼が、ひどく羨ましく思えたから。 けど、その思いは日に日に膨らみ、ついには彼を独占してしまいたいという感情が芽生えた。 その瞳に俺だけを映してほしい。 俺だけを見つめていてほしい。 俺だけに笑いかけてほしい。 俺だけに愛を囁いてほしい。 愛してる、愛してる、愛してる。 そしてその感情はとうとう制御出来なくなり、自身の心をじわじわと侵食し、理性を崩壊させた。 曖昧な返事を返しながらも話し続けていた彼の声が、不意にぴたりと止んだ。 ちらりと彼を見やれば、早くも薬の効果が出てきたのだろう。彼の身体はこくりこくりと船を漕ぎ始めていた。 「おい、どうした?」 「いえ……。なんだか、眠気が…。……おかしいな…。昨日はいつもより早く、寝たの、に…」 「しょうがないんじゃね?…だって俺が薬盛ったんだし」 「………は、い?」 思わず零してしまった言葉に、彼は睡魔に襲われて開ききらない目を丸くさせて、俺を見た。 本当はこんなに早く種明かしをするつもりはなかったのだが、彼があまりにも自身の予想通りに動いてくれるものだから、ちょっとしたサービスをしたくなったのだ。 「どう、いう……ことです、か?」 「俺さ、お前が好きなんだよ。好きで好きで堪らなくて……、お前を誰にも触れさせたくない、誰にも見せたくないんだ」 「グリーン、さ…」 するりと向かい合って座ったテーブル越しに、彼の頬をそっと撫で上げ、彼にはっきりと聞こえるようにゆっくりと囁きかける。 彼は上手く回らない思考をなんとか回転させようとしているが、それも無駄な足掻きだ。 「だから、これからは二人きりで過ごそう。……大丈夫。幸せにする自信はあるから…」 「オレ……帰りますっ!! ………ぁっ……」 「おっと…」 な?と同意を求めるように笑いかければ、彼はまるで異常者を見るような目付きで俺を見た後、未だ触れたままの俺の手を強く弾き、この場から逃げようとしたのだろう。勢いよく立ち上がった。 だが、もう限界まで睡魔に侵された身体は言うことを聞かず、彼はバランスを崩し前のめりなるようにして床へ倒れ込んだ。 そんな彼の身体が床と接触する前に優しく抱き留め、もう逃がさないというように強く抱き込めば、彼は緩く抵抗した後、ゆっくりと意識を手放した。 「さて、と……」 彼が完全に意識を手放し、静かな寝息が聞こえてきたことを確認してから、俺は彼のリュックを肩に掛けもう片方の肩に彼を担いでから、自宅を後にした。 「よっと……」 彼を背負って連れてきたのは自身がジムリーダーを務めるトキワジム。その地下室に設置されたベッドに、俺はそっと彼を横たえた。 この部屋は前もってジム内を改装し、地下に作っておいたもので、人が一生暮らしていくのに不自由しない、一定の広さを保ってある。 その中央、二人は余裕で寝ることのできるキングサイズのベッドへ横たえた彼は未だ夢の中。よほどさきほどの薬が効いているのだろう。彼に薬の耐性が無くて本当に助かった。 彼が寝ている内に、と取り出したのは光に反射して光る光沢が特徴的な緑色の首輪だった。ご丁寧にリードまで付いているのだから、俺は買った当初はひどく驚いた。 本当は赤色の首輪が良かったのだが、その色は“アイツ”を連想させるからリストから外した。そうして用意したのが、俺と同じ名前をしたこの“緑(グリーン)”の首輪だった。 それを彼の首に着け、ためしにリードを控えめにくんと引けば、彼の身体は少しだけ此方の方へ動いた。 たったそれだけで自身の身体はぞくりと疼き、例え様のない征服感がじんわりと心を満たした。 「もう、どこにも行かせないからな…。ゴールド」 そう言ってから一つ“無邪気に”微笑んで、彼の身体に擦り寄った。 (緑の首輪) もうどこへも行かせない。 →(Side.赤金) |