「オーダイル、《はかいこうせん》!」

「カメックス、《ハイドロカノン》!」

ゴールドとリーフの指示に従い、パートナーである二匹はそれぞれの相手に向かい、技を繰り出していく。それに対応するように、ヒビキとコトネのパートナーであるオーダイルとバグフーンも応戦した。互いの技がぶつかりあい、大きな爆風を辺りへと吹かせる。そして爆風は周りの冷気で瞬時に小さく鋭い霰となって、容赦なくゴールドとリーフの頬や腕を切り付けていった。幾度となく繰り返される技の応酬の数を物語るように、二人の肌にはすでにいくつもの切り傷があり、そこからは鮮血が滲み出ていた。けれど、血を拭うことも、その痛みにも顔を歪めることなく、二人は目の前の存在から目を逸らさない。決意を固めた強い意志が揺れてしまわないように、二人は、凛とした眼差しのまま、戦いを続けていた。そんな二人の想いに応えるように、先ほどからバトルを続けている二匹も、荒く息を吐き出し唸りながら、目の前の相手を見据えていた。

「どうして…?ポケモンのレベル的にはこっちの方が圧倒的に上なのに…っ!」

その姿を見て、ヒビキやコトネが信じられないとでも言うようにそう呟く。先ほどまでの余裕の表情はなりを潜め、今はただ向かってくる相手に驚愕と動揺の感情を隠せないでいた。そんな二人の言葉を聞いてすぐ、先に言葉を紡いだのはゴールドの方だった。

「レベル?そんなの関係ないね!さっきも言っただろ。オレ達はお前達とは違って背負う覚悟の重さが違うんだ!生半可な気持ちで、お前らと戦ってるんじゃ、ない…っ!」

「貴方たちには一生分からないでしょうね。たった一人の人を追いかける為に、時に抗い、命を掛ける私達の覚悟の重さはっ!」

ゴールドの言葉に続けるように、リーフも言葉を紡ぐ。互いの口から零れたのは、この場所に辿り着くまでに受けた痛みと、悲しみを滲ませて、悲痛さを増長させていた。

「だから、これで最後だ!二度と邪魔できないまでに叩き潰してやる!」

「そして、貴方達が犯してしまった過ちに気付かせてあげるっ!」

ぎり、と握り締めていた拳を解き、高らかに宣言すると同時に二人は彼等へと指を突きつける。それを合図に、オーダイルとカメックスも臨戦態勢を整える。それを見てヒビキとコトネも体勢を整えるが、劣ることのない技の威力に、すでに疲弊しきっていたオーダイルとバグフーンはきっと今から放たれる一撃に耐えることは不可能だろう。そう確信してしまった二人の頬には、荒れ狂う吹雪の中でもしっかりと、汗が流れていくのが見えた。

「オーダイル、《ハイドロポンプ》」

「カメックス、《ラスターカノン》」

そうして二匹の口元で凝縮された光が閃光を放ち、相手に狙いを定め、技を繰り出そうとした瞬間、

「ピジョット、《おんがえし》!」

「オーダイル…っ!」

「カメックス…っ!」

突如、二匹の視界を遮った黒い影と発せられた声によって、オーダイルとカメックスは弾き飛ばされてしまった。足元まで飛ばされ、さらに容易に立ち上がることが出来なくなるまでに痛めつけられたパートナーに、ゴールドとリーフはすぐさま駆け寄って、無事を確認する。二匹は瀕死に至るまでの致命傷こそは追わなかったものの、受けた技のダメージは相当大きいものだったらしい。ぜぇぜぇと息を乱しながら、二人を見遣ることしか出来ないでいた。その姿に言葉を発せられずにいた二人の前に、黒い影の正体が姿を現した。

「間に合ってよかったぜ」

「グリーンさん!」

「よぉ、二人とも。待たせちまって悪いな」

それは、リーフがライバルとして日々高めあってきた幼馴染であり、ゴールドが先ほどまで世話になっていた人物であり、この世界のレッドを壊した張本人、グリーンだった。彼は対立する四人の間に立ち、こちら向けた視線を逸らすことなく、ヒビキとコトネの無事を確認し、謝罪する。その言葉に先ほどまでの切羽詰まった表情を一転させ、声を弾ませて二人は応えた。

「そしてこんにちは、だな。お二人さんよぉ…」

だが、次の瞬間にはひどく怒気を孕んだ声音で、未だパートナーへと声を掛け続けるゴールドとリーフの方へと声を掛ける。その声に負けないように、二人はギロリと睨み付けるように顔を上げれば、グリーンの冷めきった琥珀の瞳と視線がかち合った。

「さっきの、なかなかの演技だったぜ。ゴールド」

「気安くオレの名を呼ぶな」

「ハッ!生意気さはヒビキそっくりだな。けど、」

「…ぐっ!」

「ゴールド!」

「おっと、動くんじゃねぇぞ。今どっちが不利なのかよく考えるんだな」

そうしてグリーンが最初に声を掛けたのは、つい先ほどまで自身の家で世話をしていた人物であり、この騒動の引き金となった少年、ゴールドだった。声を掛けられたゴールドは不利と分かっていながらも、吐き捨てるようにそう返す。それがやはり気に入らなかったのだろう。短く嘲笑をした後、グリーンは座り込んだ状態で自身を見上げるゴールドの胸倉を掴み、自身と目線が合うように無理矢理に立ち上がらせた。その暴力的な接触に声を荒げるリーフには、より一層リーフ達自身の劣勢さを説き、手を出せないよ
う牽制する。

「レッドになにをするつもりだ」

「………っ」

「応えろ」

「……お前達が、オレ達の大切な人にしたことをしてやるんだよ」

「何言ってんだ、お前。悪いが、初対面の人間にそんなこと言われる筋合いはねぇな」

低く拒絶を許さぬ声音で、グリーンは問う。けれど、そんな状況に合されてもなお、ゴールドは瞳を逸らすことなく応える。だが、そんなゴールドの言葉に身に覚えが無いのだろう。眉を潜めたグリーンが訝しげな表情をゴールドへ向けて寄越した。

「なら一生、アンタはオレ達が受けた痛みも、失う悲しみにも気付くことは出来ないさ」

そのグリーンの言葉と視線を憐れむように、忘れ去られたレッドへ哀しみの感情を向けながら言葉を紡ぐ。その掠れた声音に、リーフはぎりっと唇を噛み締めた。きっと、ゴールドの言わんとしていることが理解出来たのであろう。

「そんな人間に、真実を言っても時間の無駄だ」

「……つまり、話すことはないってか?」

「察しろよ、トキワのジムリーダーさん」

「なら、無理矢理にでも口を割らせてやるよ。今度は正々堂々、真っ向から向かってやる。お前の最高のパートナーでかかってこい」

「ぐっ!」

そう言って自嘲気味に呟き、ゴールドはグリーンを挑発する。すると、これ以上話し合いをしても無駄だとようやく理解したのだろう、グリーンは胸倉を掴んでいた手を離し、ゴールドと間合いを取る。そして、先ほどから傍に従えていたピジョットを一歩前へと歩ませた。

「ゴールド!」

「大丈夫ですよ、リーフさん。オーダイルには休んでてもらわなきゃいけないけど、まだ他の仲間が戦える。心配しないで下さい、絶対に勝ちますから」

皺になってしまった胸元を撫でつけながら、ゴールドはグリーンと向かい合うように立ち上がる。先ほどまで共に戦ってくれていたオーダイルをボールへと戻し、今度はデンリュウを戦いの場へと繰り出した。すでに臨戦態勢になったゴールドに、リーフが言葉を投げかける。彼女が次に掛ける言葉をなんとなく察してしまっていたゴールドは、自身の無茶を止めないでくれと言うように、眉を下げながらリーフへと言葉を返す。
ゴールドも分かっているのだ。口では強がっていても、本当はもうグリーンに対抗出来るだけの相棒がいないことを。けれど、もう引き下がれないのだ。背負った覚悟と、成し遂げなければならない願いが、その小さな背中を押す限り。目の前で消えて逝った二人の輝きを取り戻すまでは、と。

「ピジョット、《オウムがえし》!」

「デンリュウ、《かみなり》!」

そうして向かい合った二人が指示を飛ばし、二匹が技を繰り出したのはほぼ同時だった。二匹の技がぶつかり合うその瞬間、またもその攻撃を遮る黒い影が技を衝突を妨げたのだった。

「うぁ…っ!」

「きゃ、…っ!」

粉塵が辺りを覆い、突風が吹き荒れる。咄嗟に目を閉じてやり過ごしたゴールドとリーフが目を開いた次の瞬間に目にしたのは、目の前で今まさに対峙していた人物と同じ姿を纏った少年、グリーンの姿があった。


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