「お待たせ、ゴールド!」
「っ!?」
ごうっと凄まじい風圧が上空からオレの身体を襲う。咄嗟に被っている帽子が風に飛ばされぬように片手でぐっと押さえつけた。
そして、そこから発せられた自身の名に反応して上を見上げれば、その視線の先にはリザードンの背に乗った少女と、
「待たせたな!ゴールド!」
「!? レッドさん!!」
同じくリザードンの背に乗った、オレの世界のレッドさんが居た。
二人はリザードンを上空からゆっくりと下降させその背から降りると、オレの横に並ぶようにして立ちヒビキとコトネを睨み据えた。
「あの……」
「私は、リーフ。あなたの味方よ。……レッドを取り戻したくて、世界を超えて来たの」
「!?」
「俺もだよ。俺は、お前達の力になりたくて、ここまで来た。そして、この世界の俺を救う為に、ここに来た」
「レッドさん…」
そして、オレの一歩前へ足を踏み出しながら、少女、リーフさんはそう告げた。
そんなリーフさんから今回のこの事態の真相を聞いているのだろう。レッドさんも、任せろとでも言いたげにこちらに振り返りながらニカっと笑った。
「ここは私達に任せて。レッド、あなたは山頂に行って」
「!? 俺が!? でも、ここはお前達が行ったほうがいいんじゃ…」
「“レッド”に、行ってほしいの。アイツを止められる、ううん、倒せるのはあなたしかいない」
「でも、ゴールドが…」
「いいんです」
そうしてオレの前へ立ったレッドさんへ、同じくリーフさんが先に行けと告げる。
まさか自分にその役目が課せられるとは思ってなかったのだろう。レッドさんはオレ達を交互に見つめながら口籠る。
だからこそ、オレはその視線と言葉に応えるように言葉を発す。
そうだ。アイツを倒せるのは、“レッド”さんしか、いないんだ。
オレ達じゃ、駄目なんだ。
「だから、負けないで下さい」
「そう。決して、負けないで」
「二人とも…」
「大丈夫ですよ。すぐに追い付きますから」
「もしかしたらあなたが山頂に着く前に追い付いちゃうかもね?」
茶化すように、イタズラに、オレとリーフさんはレッドさんへ微笑みかける。
そこに、先ほどまでの焦りも、後悔も無かった。
そんなオレ達の顔を見て、レッドさんはキッと顔を引き締め、自身の手持ちであり相棒であるリザードンを繰り出した。
そして山頂を見上げ咆哮を上げるリザードンの背に飛び乗り、飛び立った。
――『お前らも負けんなよっ!』
そう言い残して。
「さて、と…。準備はいい?」
「ええ。バッチリです」
「私はコトネの相手をするわ。あなたはヒビキをお願い」
「任せて下さい」
彼の姿が吹雪の中に消えるのを視界の端に確認しながら、オレ達は自身の敵へ向かい合う。
彼女の手持ちをオレも、そして彼等も把握していないのは救いだ。
これならかなりの時間、彼等を足止め出来ることだろう。
「なんだかよく分らない内にもう一人増えちゃったけど、そう簡単に僕達は倒せないよ?」
「余裕ぶっていられるのも、今の内だからね」
くすくす、くすくす。
余程自身の力に自信があるのだろう。
小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら、二人は笑う。
その自信も、すぐに壊されてしまうというのに。
二人の嘲笑を軽く受け流しながら、オレ達も相棒を目の前へ繰り出す。
オレはヒビキと同じく、オーダイルを。
リーフさんはバクフーンを繰り出したコトネに対抗するように、カメックスを。
「言ってろ。すぐにその面、歪ませてやるよ」
「覚悟しろよ。私に喧嘩を売ったこと、すぐに後悔させてやるからな」
少年少女とは思えないほどに、低く、殺気立った声をオレ達は発する。
「行け、オーダイル!」
「行っておいで、カメックス!」
そして、オレ達の声を合図に、それぞれのポケモンが激しくぶつかり合い始めた。
必ず君を、助けるから。
だから、もう少し待ってて。