「ご馳走様でしたっ!」
手を合わせ、食事の終りを告げるとオレは汚れた皿を洗う為にキッチンへと足を向ける。
クリスやコトネは続けて食器を流しに運び、シルバー達はテーブルの拭き掃除をしている。
「あらかた片付いたらもう夜も遅いからクリス達は家に帰ってもいいぞ。後はオレがやっておくから」
「そうね。もう遅いし、お風呂にも入らないといけないし…」
「じゃあその言葉に甘えさせてもらうが…」
「気にしなくていいって」
皿を洗いながら後ろで作業をする二人にそう声を掛ける。
向こうも片付けを軽く済ませたら帰るつもりだったのだろう。帰る支度をしはじめた。
その時、不意に服の裾をくいと引かれたので水を止めてから視線を向けると、そこにはソウルがいた。
「どうした、ソウル」
「…オレ、……ゴールドと一緒に寝たい」
「…は?」
そこにいた誰もが声を発して動きを止めた。やっとまともに口を開いたかと思ったソウルがいきなりそんなことを言い出したのだ、当然のリアクションだろう。
だが、彼も冗談で言った訳ではなく、何か考えがあってのことなのだろう。
了承してもいいのだろうかと、一応ソウルの保護者であるシルバーに視線を向ければ、彼はやれやれと言ったように息を吐き出した。
「いいだろう。…ただし、ゴールドに迷惑は掛けるなよ?」
「分ってる」
「…じゃあ、ヒビキはシルバーの所でお泊りになるけど、いいか?」
「うん!いいよ」
「コトネはもちろん私の所だからね」
「は〜い!」
最低限の注意をしたシルバーに素っ気なく答えたソウルに苦笑してから、元より自身の家に泊めるつもりだったヒビキに声を掛けるが、彼は不満一つ漏らさず、一つ返事で頷いた。
コトネもクリスの言葉に素直に頷き、きゃっきゃとはしゃいでいる。
「じゃあ、決まりだな!…さ、もう遅いから帰らないと」
「そうだったわね。ほら、コトネ帰るよ。……二人ともおやすみなさい」
「ヒビキも、帰るぞ。……じゃあな、おやすみ」
「は〜い!バイバイ、ゴー兄ちゃん、ソウル君」
「バイバイ、ゴー兄ちゃん、ソウル。また明日っ!」
「お〜、じゃあな〜」
「……じゃあな」
今度こそ早く帰るように促すと、四人はそれぞれの家へと帰っていった。
残ったオレ達はどちらともなく顔を見合わせてから、家の中へと入っていった。
「ソウル。電気消すからな」
「ああ」
「…本当にオレと同じ布団で良かったのか?…なんなら、今から布団出そうか?」
「いや、いい…」
「そっか…」
風呂も就寝前の歯磨きも済ませ、さあ後は寝るだけだとソウルの分の布団を出そうとした時、
『お前と一緒に寝たい』
『は?いやいや、普通に狭いから…』
『狭くてもいいから』
『………』
何やら思い詰めたような真剣な顔で言われるものだから断るに断れなくて、つい頷いてしまったのが数分前。
今は二人で寝るには少し狭いベッドに横になり、電気を消して後は就寝するだけとなった時、ようやくソウルは重い口を開いた。
「なあ、少し長くなるけど聞いておきたいことがあるんだ」
「…?いいよ」
「ゴールドのポケモンとの話…なんだけど、」
「…っ」
「お前が辛いのは分ってる。けど、だからこそお前に聞きたいんだ」
「………分かった」
彼の真剣な眼差しに負けて、オレは一旦横になった身体を起こして布団から出た。
部屋の明かりをもう一度点け、そして本棚の中に仕舞ってあった箱の中から古びた図鑑を取り出した。
「これ…」
「そう。ソウル達が持っている図鑑と同じ物だ。…もっとも、もう壊れてるんだけどな」
図鑑に見覚えがあったソウルが声を掛ける。
それに応えながら少し埃を被った図鑑をそっと撫でながら、オレはソウルに視線を向ける。
「さ、何から話そうか?」
同じく身体を起き上がらせベッドに腰掛けるソウルに、オレはゆっくりと問い掛けた。
(過去と今の邂逅)
低い声が部屋の空気を揺らした。