▼10月
「くーろこぉっち!とりっくおあとりー「Happy Halloweenです黄瀬くん」とぉ…」
しゅんとする黄瀬くんの前に可愛くラッピングされたお菓子の袋を差し出す。
今日は俗にいう“ハロウィン”。本来仮装して行うものなのですが…黄瀬くんは仮装なんかなくともちゃんと犬の耳と尻尾が見えます。さすがモデル()です。
「むーっ、なんでお菓子持ってんスかぁ!」
「どうせこうなると思ったので。きっと黄瀬くんが一番に来ることも予想してました」
「黒子っちそんなに俺の事分かりきって…ぶふぉっ!」
一度差し出したお菓子を黄瀬くんの顔面にイグナイトパス。お菓子がもったいないじゃないですか。
「テツ!トリックオアトリート!」
僕と肩を組んできたのは、青峰くん。その脇に桃井さん。
僕は鞄からお菓子の袋を二つ取り出して、それぞれ差し出す。
「おっ、用意いいなテツ〜」
「ててててテツくん!私も貰っていいの!?」
「Happy Halloweenですよ二人とも」
きらきらと目を輝かせる桃井さんは、家宝にすると言いつつ鞄におさめた。…家宝にせず食べて下さい。その家宝を見つけた子孫が可哀想です。
青峰くんはさっさとリボンを解いて中身を早速食べている。黄瀬くんは撮影の合間に食べるそうです。
「黒子、tric or…「ああ、はい。Happy Halloween緑間くん」……」
不服そうでしたが緑間くんもちゃんと貰ってくれました。カチャカチャ何度も眼鏡を直してましたが。ツンデレ乙。
「黒ち〜ん。トリートアンドトリート〜」
「お菓子しかないじゃないですか…。紫原くん、Happy Halloween」
「わーい!ありがとぉ、黒ちん」
紫原くんにとって、ハロウィンはいい行事でしょうね。
もし日本人じゃなくアメリカ人だったら家のお菓子を食い尽くしていそうで怖いです。
「……」
朝から皆さんと会えたんですから、きっと彼にも…と思ったんですけど…。
そう簡単にはいかないみたいですね。
「赤司いねーじゃん」
「そういえばそッスね」
「空気読めねーなぁ、あいつ!」
「殺されるッスよ青峰っち!」
僕の鞄の中にある、あと一つのお菓子の袋。予定では赤司くんにあげるもの…なのですが。
放課後にでも渡しましょう。
◆
「あ、赤司くん…?」
ただお菓子を渡そうと思っただけだ、僕は。だってせっかく用意したのだから。
なのに、なぜ僕はロッカーに押し付けられているのでしょうか!!
「黒子。trick and treat.」
押し付けられた僕の耳元で、赤司くんが囁く。
お菓子よりも甘いその声に僕の身体が跳ねた。僕の反応を見て耳元で小さく笑う声が聞こえた。
「アンド、じゃないです……!オアですっ」
「いいじゃないか。…お菓子もらうだけじゃ楽しくないだろう?」
「それはっ、赤司くんだけじゃないですか!……んっ!」
ちゅく、というイヤな音が耳に響く。
ねっとりとした温かい赤司くんの舌が、僕の耳を犯しにかかる。
僕はせめてもの抵抗で腕を押してみるが、それよりも赤司くんの力の方が強くて無意味なものになった。
「は、ぁ…っ!やめてください、赤司くん…っ」
「ああ。悪戯はここまでにしようかな」
と、あっさり離れていった赤司くんはファスナーの開いている僕の鞄から残り一つのお菓子の袋をさらっていく。
僕が昨晩ひとつひとつ詰めたお菓子の袋に口づける。
「……あいつらに、不必要に餌付けするのはどうなんだい?」
「え、餌付けって……」
「お前が餌をやるのは俺だけでいいんだよ、黒子。逆もまた然りだ」
きっとすごく真っ赤になっている僕の頬を撫でて、赤い唇を開く。
「さあ、言ってごらん?ハロウィンの合言葉」
「……っ」
言ってもきっと、赤司くんは甘い甘いお菓子しかくれない。
:trick or treat.
back