せぇくん、いますか?
それは、いつもと何ら変わらない普通の日だった。
「せぇくん、いますか……?」
体育館の入り口で休んでいた黄瀬に、帝光幼稚部の制服を着た子供が話しかけてきた。
黄瀬は驚きのあまり飲んでいたスポドリが口の端からぼたぼた流れている。
「あの……」
目の前にいる天使とも思えるほど可愛らしいその子に、黄瀬の頭が爆発した。
「…きゃあああああああああああああああっ!」
黄瀬の予想外の叫びに目の前の子供はびくりと体を震わせて、目にはいっぱいの涙をためる。今にも泣きそうだ。
「おい黄瀬ェ、女みたいな声出してんじゃねーよ気色悪ぃ…」
「ぐすっ、せぇくん、いますか、ふぇっ」
「え?なにこのガキ」
「もうちょう可愛いっスよね!? てかせぇくんて誰スか?」
「泣いてんじゃねーか。黄瀬泣かすなよ」
「俺じゃないスよ〜!!」
「せぇくん、いますかぁ…!」
びええええ、とついに激しく泣き出してしまった。
オロオロする二人はとりあえず子供を抱っこする。
青峰が抱きかかえて背中をぽんぽんとさすってもなかなか泣き止まない。
「なんだ、うるさいぞ」
「あ!赤司っちぃ!!」
子供につられてなみだ目になっている黄瀬が、赤司を見てどうしようと言った。
子供がいると気づいた赤司は青峰のほうを見る。
そして驚きで目を丸くさせた。
「テツヤ!」
「!せぇくん!せぇくん…っ!」
青峰の腕の中から懸命に手を伸ばすテツヤを、赤司は半ば強引に青峰から奪った。
先ほどまで泣いていたテツヤは赤司に抱きかかえられると大人しくなり、赤司に身を任せる。
ゆっくりと赤司はテツヤの頭を撫でてやると、頬をすり寄せてきた。
「テツヤ?どうしてここにいるんだい?」
「おかあさん、おうちいないんです…。だからきょうはせぇくんのところにいっておいでっていわれました」
「ああ…そうか。よく一人でここまで来れたね」
「ぼくえらいですか?」
「偉いよ、テツヤ」
ぱああっと笑顔になるテツヤ。部員には滅多に見せない赤司の微笑み。
その場にいたのに空気になってしまった黄瀬と青峰は呆然と二人を見ていることしかできなかった――
:せぇくん、いますか?
初赤司×しょたくろでした。
三人称は個人的に嫌いなんですが…黄瀬が最初に出てくるから…