「赤司くんっ!」
僕の、彼を呼ぶ声がこだました。
どうしてこうなってしまったんだ。
「赤司!しっかりするのだよ!」
「赤司くん!ああっ、青峰くん、ゆっくり支えてきて!きーちゃんも!」
赤色の、血が。
彼の左目から流れ出ている。
怖くて動けない僕を、うっすらと開かれた赤司くんの右目が見つめている。
でも、その瞳は怒りを含んでいるものではない。
むしろ、僕を、心配している瞳だった。
「あかし、く」
震える声で彼の名前を呼ぶと、赤司くんの口元が動いた。
ばかだな、テツヤは
ああ、泣きそうだ。
◆
「左目は、失明するかもしれないと言われたよ」
「……っ」
「テツヤが、僕の怪我のことを背負う必要はない。あのまま僕が守らなかったら、お前が怪我していただろう」
「ごめ、なさ、」
「テツヤ。左目の失明なんて、僕にとってリスクがある内に入らない」
うそつき。
うそつき。
今にも泣きそうな顔をしているくせに。
僕のせいだって責めてください。
思いっきり殴ってください。
罵声を浴びせてもいいから
気のすむまで罵っていいから
嫌いになっても、いいから
だから、だからどうか僕にそんなに優しくしないで。
「すぐに元気になるさ。だから、テツヤはもう練習に戻りな?」
「……赤司くん」
「毎日毎日、すぐに来てくれてありがとう。でも、部活にはちゃんと出ること。いいかい、テツヤ」
「あかし、くん」
「?」
ぎゅうっと抱きしめれば、無言で抱き返してくれる赤司くん。
僕のなかで大きな存在の赤司くん。
大好きな、大好きな赤司くん。
「さようなら」
「テツヤ?」
「また、今度」
僕のせいで傷ついた君を、僕はもう見ることが出来ない。
自分勝手だって怒られるだろうけど、
でも、もう。
赤司くんの側にいる資格がなくなってしまった。
:退部します。
キセキのある事件ってこういうことだったらいいな。
赤司様のオッドアイはこういうことだったらいいな。
退部します。
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