黒子のバスケ | ナノ






――キセキの世代ナンバーワンシューターと謳われた天才の一人、緑間真太郎には

言ってはいけない言葉がある。



 ◆



それは、些細な一言だった。


「真ちゃんってさ、まじで美人さんだよなー」

「……いきなり何なのだよ」

「ん?改めて感想を述べただけだけど」

「男に美人とか、気持ち悪いだけなのだよ」


手元にある本から目線を上にあげることもなく、緑間は呟いた。

俺は頬杖をつきながら机の上に置いてある猫の置物に指先で触れる。


「こーんな可愛い置物持ってるとかさ、占い信じてるとことか、料理べたなとことか?この世界観的にヒロイン枠じゃん真ちゃんは」

「意味が分からないのだよ」

「女の子みたいだねってこと」


バタン、と目の前で大人しく本を読んでいた緑間のほうから盛大な音。
驚いて視線を上げると、緑間が両手で本を閉じていた。本を閉じただけであんな音が出るもんなのか。


「?……真ちゃん?」


どうした?と緑間に触れようとした手を、右手で払われる。
へ……?なんか怒ってる?

俺を見つめる深緑の瞳は心なしか怒りを含んでいる。
そして、赤く薄い唇から予想もしていなかった言葉が飛んできた。


「俺に触るな。俺を見るな。俺に話しかけるな」

「真ちゃん?」

「不愉快なのだよ」


ガタリと席を立った緑間が、午後の2時間+部活に顔を出すことはなかった。


――キセキの世代ナンバーワンシューターと謳われた天才の一人、緑間真太郎には

言ってはいけない言葉がある。



 ◆


結局あれから3日経った。
この丸3日、俺は本当に緑間と接触していない。
迎えに行っていた朝、緑間家へ赴けばおばさんから早々に家を出たと言われたり。
挨拶さえ交わしてくれない。ただ、流石エース様と思うのはどれだけ俺を避けていてもちゃんと部活中の俺からのパスは受け取るということだ。なんて微妙なこの気持ち。

3日前の会話の中でどれが不適切な言葉だったのか、よく理解できない。
あ、俺はそんなこと言っていない、という意味じゃなくて“どの言葉も不適切すぎてどれが引き金だったのか分からない”だ。

美人、可愛い置物、占い好き、料理べた、ヒロイン枠、女の子みたい

なんだ?どれなわけ?
どの単語が、とかじゃなくて全体的に女の子みたいって言ったことが駄目だった?
でもそのくらいのことで怒る奴なのかなぁ……。



「……あ、奇遇ですね高尾くん」

「お?」


とりあえずマジバでハンバーガーでも食いながら謝罪の方法を考えようとしていた俺の前に、誠凛高校バスケ部・透明少年こと黒子がシェイクをすすっていたところに出くわした。

俺は持っていたトレーを黒子の座るテーブルに置き、空いている座席を指差す。


「相席おーけー?」

「どうぞ」

「さんきゅう」


相席を願い出てみたものの、何をどうすればいいだろうか。
……そうだよこいつに聞いてみればいいんじゃん。


「あのさ、俺……」

「知ってます」

「はぇ?」

「緑間くんから泣きながら電話がかかってきたので」


な、泣きながら!?
そんなに俺傷つけた!?
てか何で黒子……ってそれは仕方ないか。


「何が原因で緑間くんが高尾くんを避けているのか、怒っているのか分からないんですよね」

「ソウデス……」

「まあ、分かりませんよ。どの言葉が引き金かなんて」


ずずっと黒子がシェイクをすする。
俺は完全に悪いことをしたみたいだ。言葉からそういう毒々しいものが出ている気がする。


「“女の子みたいだねってこと”」

「……え?」

「これが、緑間くんに言ってはいけない言葉です」

「ちょっと待てよ。そんなことで怒るような奴?真ちゃんって」


ああ、こいつの無表情が怖いと思う日がくるだなんて。
黒子は数秒黙って、コトリとシェイクをテーブルに置いた。
こてんと首を少し傾けて、言う。


「君には、話した方が良いでしょうねぇ……」

「どういう意味だよ?」

「このことは他言無用です。僕もちゃんと詳細を本人から聞いたわけではありません。緑間くんが簡単に話したことを言いますから」


――嫌な予感しかしない。


「緑間くんは小学校低学年のころ、さほど背は高くなかったそうです。あれでいて意外に肌は綺麗ですし白いし細いですからね。昔もさぞ可愛かったんでしょう。中学の時とは違い、昔は“可愛さ”でイジメを受けていたそうです」

「……」

「緑間くんがピアノを習っていたのは知っていますよね?先生は男の方だったそうですが、可愛さに毒されたそうです。……意味は分かりますよね」


つまり、なんの抵抗も出来ない幼い緑間を、犯したってわけ?こいつはそう言いたいの?


「緑間にとって、女の子みたいはトラウマスイッチだったってわけかよ……」

「ですね。中学の時もありましたから。あの時は青峰くんと黄瀬くんが元凶ですが。……高尾くん」


黒子は鞄から携帯を取り出して、画面を俺に向ける。
黒子の口から出る言葉が、震えている気がした。


「緑間くんは僕たちの仲間であることに変わりはありません。これから一生。僕たちは誰が欠けてもいけないんです。それほどかけがえのない存在ですから。君が緑間くんを恋愛対象として好きなのは見て分かります。だからこそ、緑間くんを大事にしてください」


俺に向けられている画面の向こうには、着信履歴が緑間真太郎という文字で埋め尽くされていた。昨日も一昨日も。全部全部。

黒子がどうぞ見て下さいと言うから、震える手で携帯を受け取る。

見て下さい、ということはメールもきてるってことか……?

俺はメールボックスを開く。そこも予想通り、緑間真太郎で埋め尽くされていた。
勝手にごめんと思いながらも受信ボックスからひらいてみる。


《むりだ。こわい。こわいのだよ》

《傷つきたくない。傷つけたくない。どうすればいい……?》

《たかおをみるのがこわい。あいつはひかりなのに》

《また吐いた。すまない黒子、すまない》

《しねばらくになれるのか?》


「……っ」


俺の言った一言で、気軽に言ってしまった一言で

こんなにこんなに、大事なやつの心が崩壊してしまっているなんて。

俺はなんて――馬鹿なことを言ってしまったのだ。

女の子みたいだなんて、その場のノリで言ってしまったことなのに。あいつは男も惚れ惚れするほどかっこいい男なのに。


「見かけとは違って、彼は弱いんです。壊れやすいんですよ」

「……俺は、どんな緑間も受け入れる。俺はあいつが女の子みたいだから好きになったんじゃない。バスケをするあいつがかっこよくてキラキラしてっから好きになったんだ」

「僕に言ってどうするんですか。本人に伝えて下さいそういう事は」


黒子に携帯を突き返して、手をつけてないハンバーガーを押しやった。

鞄を持って立ち上がる。


「俺は俺なりに緑間を愛してやんよ!」


そうですか

そう言った黒子の表情が、少し綻んだ気がした。



:緑間真太郎への禁句

はい、お読みになったら分かりますと思いますが続きます。
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緑間真太郎への禁句



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