26歳になった俺の左手にいまでも光を放っている指輪をあいつがくれたのは、もう何年前の話だろうか。
◆
「真ちゃん!19歳の誕生日おめでとー!」
今夜0時にいつもの公園
久々にきたメールはたった一言それだけで。意味の分かっていない俺のメールに返信などしてこなかった高尾。
高尾の言ったことを律儀に守り0時をまわる三分前には公園いた俺に、現れた高尾がそう言った。
なるほど合点がいく。俺の誕生日だったのか。
高校を卒業したというのに、高尾も律儀な奴だ。
「礼を言うのだよ」
「相変わらずなんだからー、もう!」
そう言いながら俺の座っているベンチの隣に高尾も座った。
高尾は満天の星空をみながらぽつりとつぶやく。
「俺ねー、真ちゃんに会えなくて寂しかったんだー」
「そうか」
「ほんとうはさ、同棲っていうのも考えてたんだぜ?でも、真ちゃんの重荷になるの嫌だからやめた」
――初耳だ。そんな話は。
横にいる高尾をそんな目で見れば、高尾はにかっと笑う。
「恋人っていうポジションにいてもさ、頑張ってる真ちゃんのこと思うとあんましメールも電話もできねえし、でもいつも考えるのはさ料理も出来ない真ちゃんが何食って生活してんのかなーとか、きっと寝不足で時間もないだろうしプロテインバーとかそんなんばっか食ってんだろうかーとか」
大方高尾の言うことが当たっていて、俺は黙りこくる。
そんな俺の事も高尾には丸わかりのようだ。
「俺と一緒に住んでたら、いっつも飯作っとくのになーとか。真ちゃんの役に立てるのになぁ、とか。毎日毎日つまらない講義聞きながら考えるのは、真ちゃんのことばっか。まじ笑えるよな」
「高尾……」
「高校ん時、あんなにずっと一緒にいたのにさ卒業したらこんなんでさ。俺と真ちゃんを繋いでたのってバスケだけだったんかなーってらしくないこと思ったり、さ。俺にとっての幸せって、真ちゃんと一緒にいることで。じゃあ真ちゃんにとっての幸せって何だろうとか考えてたらさ、いてもたってもいられなくなっちまって」
高尾がおもむろに斜めかけバッグから小箱を取り出す。
小箱の細いリボンを解いて箱を開けると、そこにあったのはシルバーリングだった。
高尾はそれをとって、俺のテーピングされていない左手を取る。
「19歳の誕生日に、女の子は男性からシルバーリングを貰うと幸せになれるんだって」
銀色に光るそれを、高尾は俺の左手の薬指にはめた。
ぴったりのそれに思わず涙が出そうになった。
「真ちゃん男だけどさ、俺から贈られるんだから幸せになれるっしょ!俺のエース様は幸せでなくっちゃな〜」
俺は思わず高尾の手を握っていた。
どうしたの?なんて聞き返してくる高尾に腹が立つ。
自分だけそう思っている風につらつら勝手なことばかり述べて。
俺が同じことを思っていないと思っている感じに腹が立つ。
どうひっくり返しても、俺はいま無性に腹が立っているのだよ!
「自分勝手なことばかり言うな馬鹿尾が!」
「し、真ちゃん?」
「お、お前だけそう思ってるみたいな、俺はお前の事を考えてもいないみたいな風で言うお前に俺は無性に、腹が立っているのだよっ」
「しんちゃ、」
「俺だって毎日高尾のことを考えているし、お前が一緒にいてくれたら体重も落ちないのだろうなとか、お前の飯が食いたいだとか、俺だって思っていることはお前と同じなのだよ」
ぎゅうっときつくきつく高尾に抱きしめられる。
近所迷惑だと分かっていながらも俺は叫んだ。
「同棲しようくらい、ちゃっちゃと言え馬鹿尾!変な所でヘタレなのだよお前は!」
「ふ、はっ、どうしよ真ちゃん」
俺から離れて行った高尾の顔を見てぎょっとする。
高尾が笑いながら泣きじゃくっていたのだ。
だがその涙は悲しみの涙ではなく、幸せの涙だ。俺には分かる。
「幸せだよぉ、真ちゃん…!」
「……19歳の誕生日にシルバーリングをもらった女は幸せになるのだろう?俺は生憎女ではないが、お前から貰ったもので幸せにならないほど毎日人事を尽くすのを怠っていないのだよ」
満天の星空のした、俺はあいつとキスをした。
◆
「ただいまーっと、まぁた真太郎それ見てんの?」
「悪いか?あの頃のお前を思い出していたのだよ」
「ほんっと勘弁。真太郎にそれ言われると和成へこむ〜」
「見事なヘタレっぷりだったものな、あの時の和成は」
「笑うなよー!あ、今日大事な話あんだけど」
その翌日、俺の左手に新たなリングが増えたのはまた別のお話である。
:シルバーリングは19歳に
とうに過ぎたのに今更父にそれを言われたわたしである(0ω0;)
本当はプロポーズ話だったはずなのだよ。
また別の機会にそっちは書きます。
シルバーリングは19歳に
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