黒子のバスケ | ナノ






高尾が、この頃俺を避けるようになった。


避けられる

こういう類の行為にもすっかり慣れていた。

たいがいの人間は俺の性格を知ったら遠ざけていく。無表情といわれたこの顔を見れば自分から近づいても来ない。

ただ近寄ってくるのは、自分の利益しか考えていない女たちだけだった。

“友達”という類のものにあまり慣れていない。帝光にいた頃のキセキと呼ばれたチームメイトでさえも俺を苦手としているやつが三人はいる。当たり前だろう。

これでも少しは自分の性格を分かっているつもりだ。

人に好かれるような人間でないことも、重々承知している。

だから、高校に入って話しかけてきた高尾もきっといつか俺から離れて行くのだろうと思っていた。でも、もしかしたらこいつは。そういう思いも確かにあった。


見事にその思いは打ち砕かれたが。



「でさ〜…!……」



遠くで高尾がほかの友達と喋っている声が聞こえる。

俺は耳をふさぎたくなった。

こういうことには慣れているつもりだったが、俺の中で高尾は特別だったのだ。

どうしようもないほど大切な存在になっていたのだ。

“友達”というわくも越えて。

俺はいい年をしていまだに恋愛というものを体験したことがなく、いつしか高尾に対して抱くこの気持ちがなんなのか分からなかった。

そこで思い切って相談してみたのが、中学時代比較的仲の良かった赤司だ。

赤司なら分かると思ったのだ。だが、相談したのが間違いだった。



『真太郎。それは恋というものだよ』



赤司からはそう返ってきた。

俺が、恋を――?

初めての恋が同性相手なのか?そう問うと、赤司は笑った。



『真太郎はそういう偏見はないと思ったんだけどな。これは、自分がそうだから言うというのもあるが恋愛は自由だよ。誰を好きになっても。たとえそれが同性でもね?』



自分がそう、というのは赤司は同性である黒子と付き合っている。そのことを言っているのだろう。

たしかに偏見はない。中学時代赤司に黒子とのことを話されたりしていた。だがいざ自分がそうなると――少なからず動揺はするだろう。

高尾が離れていってから自覚するなど、後の祭りというものだ。

もうどうしようもない。


 ◆


「緑間ぁ、高尾が帰ってきたらもう部活終わったっつっといて」

「……はい」



なにも、わざわざ高尾がトイレへ行っているときに終わらなくても。そう喉から言葉が出かかったがもちろん言わなかった。

高尾が俺から離れて行って一週間ほど経った。俺は相変わらず胸が苦しい。高尾は相変わらず楽しそうだ。

居残り練習にも手を抜かない俺だが、なぜだかボールをこれ以上触ろうという気がなくなってしまった。こんなこと今まで一度もなかったのに。

俺は部室に行って携帯を取ってくる。

誰もいなくなった体育館で一人電話をかけだした。相手は赤司だ。



『……もしもし?』

「ああ、すまない。部活中か?」

『いや。今日は早めに切り上げた。どうしたんだい?いつもならお前はまだ居残り練している時間じゃないか?』



相変わらず俺の予定を把握している恐ろしい奴なのだよ。こういうことはどうでもいい。



「ただ……今日はもうボールに触れる気がしなくてな…」

『珍しいな。まだ頭を抱えて悩んでいるのかい?』

「当たり前なのだよ。だからお前に電話をかけているんだろう」

『それもそうだな』



なぜだろうか、赤司の声を聴いて安心したのか俺は目から涙が出てきそうになった。

いまとてつもなく情けない顔をしているような気がする。



「もう、訳が分からないのだよ……」

『高尾くんのことがかい?自分の気持ちがかい?』

「逃げてるわけじゃない。ちゃんと分かっているのだよ」

『じゃあ、話は早いだろう?言葉にしてみろ。お前は、高尾くんのことをどう想ってる?』



俺は高尾を、ちゃんと――



「ちゃんと好きなのだよ……赤司」



口に出したら、好きだという自覚がすうっと中に落ちてきたような気がする。

だけどそれより勝っていたのは“苦しさ”と“辛さ”だ。



「でも、もう…辛いのだよ」

『……辛い?』

「好きでいることが、辛い。好きすぎて…辛いのだよ、赤司…っ」



高尾が好きで辛い

高尾が離れて行って辛い

高尾が、高尾が……

俺はどうしてこんなに、好きになってしまったんだろうか、俺は。



「知らねえよ、真ちゃん……」



体育館に響いた声に、俺はびくりと肩を震わせた。

横を向くと、無表情の高尾が入り口には立っていた。



「た、かお?」

『……真太郎?』

「なあ、真ちゃん。俺、知らねえよ…?」

「すまない赤司。また掛け直すのだよ」



電話を一方的に切って高尾と対峙する。

なんだか、久々に向き合った気がする。



「どうしたのだよ、高尾」

「……真ちゃんは赤司のことが好きなの?」

「まさか、聞いて…」



会話を聞かれていたのは予想外だった。

というか、赤司のことが…だと?



「おれ、俺ね」

「待て高尾。お前は何か勘違いを……」

「もう真ちゃんの側にいたくない」

「たかお」

「っ!」



こんなにダイレクトに一緒にいたくないと言われるとは思わなかった。

なかなか、辛いものだな……。

だめだ、泣いてしまう。涙があふれてしまう。

それよりも、高尾に離れて行ってほしくない。まだ、一緒にいたい。

これは精一杯の俺の我儘なのだよ、高尾。



「いや…だ」



気が付けば、俺は言葉を発していた。

ああ、どうしよう。高尾が驚いている。



「真ちゃん…?」

「そばにいろ、たかお……っ」



とうとう溜めていた涙が溢れ出てしまった。

俺が“離れたくない”と言うほど、高尾は特別なのだ。

とても愛しい存在なのだ。



「俺は、赤司など好きではないのだよ…!」

「遠慮しなくてもいいよ、真ちゃん」

「遠慮などするものかっ!大体お前がこの頃いやに俺を避けるのが悪いのだよ!分かっているのか高尾!」

「え、え?真ちゃんなんで逆ギレしてんの!?」

「お前のせいだ馬鹿尾!」



おろおろしながらも俺を心配する高尾の顔が、いつもの高尾のようで何だかすごく安心した。



「ごめんね、真ちゃん。俺馬鹿だからさ、ちゃんと言ってくんないと分かんないや」

「……ばかお、ばか…!」

「ばかばか言わないでよ。ねえ、真ちゃん」

「おれは言わないのだよ…!お前が言え、いい加減!」

「言っても、いいの?」



もう、高尾がどんなことを言ってきても受け止める覚悟は出来ている。

高尾から拒絶の言葉がきても受け止める覚悟は……出来ている。

高尾がゆっくり近づいてきて、いつの間にか止まった涙の痕を指で拭って笑顔を見せた。



「真ちゃん、俺ね――」



出来れば二人で、幸せになりたいのだよ、高尾。





:少年Mの自覚

緑間さんはぐるぐる色んな事考えて、でも絶対ネガティブにしか考えられないんだと思う。
二人とも不器用だけど、でも結局幸せになればいいと思う。








少年Mの自覚



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